|
中国大会を制したタクタミシェワ(トゥクタミシェワ)選手は、「女王の条件」を満たした選手だ。ルッツは明確なアウトエッジで踏み切ることができ、フリップにも違反がない。ジャンプの質が総じていいから加点もつくし、ループも非常にきっちり回り切ることができるし、ルッツも非常にきれいな放物線を描くハイクオリティ。欲を言えばルッツからの3トゥループが欲しいところだが、無理にセカンドに3トゥループをつけて回転不足になっては意味がないから、確実に回り切れる3トゥループ+3トゥループをショート、フリーともに入れて減点を防ぐ作戦で来て、今季はそれが奏功している。 アメリカ大会と中国大会のタクタミシェワ(トゥクタミシェワ)選手のスコアを見るとジャンプの回転不足判定が1つもない。本当に驚嘆すべき「成績表」だ。アメリカ大会では3連続ジャンプの3番目を1ループにしているが、3Lz+2T+1Loの基礎点は7.80点で、加点がついて8.50点になった。2ループにして加点をもらった中国大会のGOE後の得点は、9.90点だから、1.4点の減少に留まっている。ジャンプが回転不足になるくらいなら、回転数を落としてもきっちり回り切ってGOEで減点されないようにする。この意識がはっきりしている。 ソチ五輪で活躍したソトニコワ選手とリプニツカヤ選手は調子を落としている。五輪の翌年というのは、そういうものだ。本来の調子を取り戻したタクタミシェワ(トゥクタミシェワ)選手が強いのも当然だろう。彼女はいきなり強くなったわけではない。本来、素晴らしい逸材だったのが、ソチ五輪の前に調子を落としただけだ。才能のある逸材は、こうして必ず出てくる。今シーズンは調子もいいようだ。将来に向けての不安要素があるとすれば、やはり彼女の女性らしい体形。これからまたメリハリがついてくると、再びジャンプが跳べなくなる可能性がある。 対照的なのが長洲未来選手。先日終わったばかりのロシア大会でも、解説の織田氏が彼女のジャンプが「グレー」であることを指摘していたが、せっかく連続ジャンプのセカンドに3トゥループをつけても2つとも回転不足判定。単独ルッツも回転不足判定。長洲選手がいわゆる「グリ降り」の多い選手であることは、とっくに周知されているから、Mizumizuも注意深く見ているが、テレビ画面からでも、「これは多分認定してもらえないな」と思ったジャンプ(織田氏の表現で言えば「グレー」ゾーンのジャンプ)はまずほとんどアンダーローテーション判定になっている。ジャンプを降りたときに一瞬流れが止まり、降りてから回っている感じが肉眼でもわかるし、氷上についたジャンプの着氷後の跡を見てもかなり曲がりが激しく、あれは回転が足りずに降りた証明でもある。 長洲選手はアメリカ大会でも、セカンドの3Tは2つとも回転不足判定、単独のルッツもフリップも、3連続の最後の2ループさえ同じく回転不足判定(ロシア大会ではこの2ループを2トゥループに変えて認定されている)だった。これでは難しい連続ジャンプを跳ぶ意味がない。それどころか、やればやるほど点数を落としてしまう。 アメリカのスケート連盟がグレーシー・ゴールド推しであることは明らかだ。金髪美人の白人のスター選手こそ、アメリカが最も欲している人材であって、セカンドに3回転ジャンプが跳べて、ルッツにエッジ違反もなく、一昔前のハリウッド女優のような華やかな雰囲気をもつ選手が出てきたら、アジア系選手が冷遇されることはわかっている。かつてクワンが頭角を現し始めたころ、白人至上主義の世界で何かとイチャモンをつけられ、あげく家族の想いのつまったアクセサリーまで攻撃の対象になったことは、フィギュアファンならたいてい知っている。クワンはそうした状況の中、ミスのない演技で自らの地位を築いていった。 自由の国アメリカは人権意識が進んでいるから、そんな差別はありえない、と思いますか? それならば、これからゴールド選手と長洲選手に対する回転不足判定を注目して見てください。明らかな回転不足は別だが、「グレー」なジャンプ、「もしかしたら回転が…」と解説者が言ったジャンプで認定されるのは、ゴールド選手だけになりますから。ゴールド選手は間違いなく、「ISU指定強化選手」に入っている。言っておくが、彼女が才能あふれる素晴らしい選手であることは間違いない。すっと伸びた姿勢のいいジャンプ。キレのある動き、見るものをうっとりさせる上品な雰囲気。異性・同性問わずに幅広い人気を博した浅田選手と違い、ゴールド選手のようなタイプは同性よりも異性に受けがいいだろうけれど、強くなればもっともっと人気が出て、アメリカのフィギュア界を盛り立ててくれるだろう。 ジャンプを失敗するとあっという間に演技構成点も下げられてしまう選手と違い、ゴールド選手はジャンプを失敗しても演技構成点が高め安定で出てくる選手になるだろう。長洲選手は、逆にこのままでは沈んでいってしまう。ジャンプの回転不足を修正するには、おそらくウエイトを落とす必要があるかもしれない。それでも難しいかもしれない。それはつまり、もともとのジャンプの「タイプ」がそうだから。彼女はもっと体の軽いティーンのころから、やはり「グリ降り」の多い印象だった。こういうのはジャンプのクセと言ってもいいし、むしろ「タイプ」と言ったほうがいいかもしれないが、ある程度技術が固まってしまってから直すのは、非常に難しく、ほとんど不可能なのかもしれない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.11.17 22:51:32
[Figure Skating(2014-2015)] カテゴリの最新記事
|