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かつて、日本スケート連盟は、だんだん不安定要素の増えてきた浅田真央選手に替えて、村上選手を推そうかと考えたようなフシがある。連盟御用達ライターが、シニアデビューしたばかりの村上選手の表現力をさかんに持ち上げ、演技構成点の高さは、「ジュニアから上がったばかりの選手の点ではない」などと書き立てたが、その自慢の表現力の評価は今はどうだろう? 五輪出場経験すらない年下のタクタミシェワ(トゥクタミシェワ)選手にあっさり抜かれている。 中国大会のフリーの演技構成点は、タクタミシェワ(トゥクタミシェワ)選手が64.96点、村上選手が59.60点で5点以上差をつけられている。あれだけフリーでジャンプを失敗したリプニツカヤ選手でさえ、61.71点の60点超えだというのに… 年下の選手に演技構成点で負けているというのは非常に苦しいが、「ホーム」の(元来、そんな概念は絶対評価には入りこむ余地はなかったはずだが)NHK杯でどうなるか、もう少し試合の出来と評価の推移を見たいところだ。 個人的には、村上選手の「オペラ座」も、ロシア女子選手に負けないぐらい魅惑的だったと思う。ヒロインとファントムを演じ分けるという斬新な発想、村上選手ならではのパワーとパッションがほとばしる振付。ダイナミックな腕の使い方には、はっと胸を突かれるものがあった。観る者を自分の世界に引きずりこんでやるという意気込みと自信が加われば、さらに輝きが増すだろう。今は演技冒頭の顔の表情が、緊張でややひきつったようになっているのが気になる。 カナダ大会で聴衆の拍手喝采を得た宮原選手も、去年以上に表現力が増した。「ミス・サイゴン」は彼女の雰囲気にぴったりの出色の作品。これまでの彼女のフリーの中では最高の出来だと思う。できれば2年ぐらいかけてプログラムを熟成させてほしいくらい。氷の上で彼女の纏う衣装のシンプルな赤の色が、あるいは小さな炎のように、あるいは小さな痛みのように、可憐に、鮮やかにMizumizuの網膜に焼きついた。ベトナム伝統の刺繍を模したスパンコールも工夫されたデザインだった。 もともとすっと背を伸ばしたときの姿勢が美しく、細身で動きにもキレがあるから、ポーズを決めたときに非常に映える。指先まで心を配ったアジアンな表現も、あの若さで素晴らしい。顔立ちも、そう言われれば(日本より)南方のイメージがあるかもしれない。大胆な感情表現を得意とする村上選手とはまた違う、アジア的なニュアンスを含んだ異国情緒が彼女の持ち味になるかもしれない。 宮原選手のカナダ大会の演技構成点は、58.34点と村上選手と同じような点。どうやら日本女子のその大会での1番手は50点台後半が「相場」らしい。優勝したパゴリラヤ選手が64.20点(彼女は失敗の多かったロシア大会では58.56点で、なんと6点近く下がった。彼女は、「ジャンプを失敗すると、あっという間に下げられてしまう選手」に仕分けされているらしい。もちろん、下がった理由は後付けで何とでも)で、中国大会のタクタミシェワ(トゥクタミシェワ)選手と同等の点。ちなみに、アメリカ大会を制したラジオノワ選手の演技構成点は62.33点。ロシア女子は、いい演技をすれば60点台前半が「相場」で、リプニツカヤ選手は失敗が多くても、今のところは「高め安定」。これがあまりに失敗が続き、他のロシア女子がいい演技を続ければ、ソチ五輪団体金メダリストとはいえ、演技構成点は落ちてくるかもしれない。 宮原選手はルッツに違反はないが(フリップに「!」)、連続ジャンプになると微妙に――スローでアップになると見える、本当に微妙なグレーゾーンで――回転不足が増えてくるのが不安要素だ。ジャンプも高さがないから、加点のつきにくいタイプ。 ロシア大会を制した本郷選手は、非常に勢いがある演技だったが、ルッツがE判定で、「3回転を跳ぶ意味がない」得点にしかならないのが、やはり痛い。解説の織田氏は素直に彼女のジャンプを褒めていたが、フリーで連続ジャンプの後ろにつけた3回転は2つとも回転不足を取られている(カナダ大会では3F+3Tの3回転トゥループがやはり回転不足、2A+1Lo+3Sの3回転サルコウは認定)。上々の出来だったロシア大会のフリーの58.96点(カナダ大会:54.01点)という演技構成点は、ジャンプの失敗が多かったパゴリラヤ選手が58.56点だから、まさに横並び。 NHK杯には、オリンピック経験のある村上選手と、成長目覚ましい宮原選手がエントリーしている。「ホーム」で演技構成点がどのくらいもらえるか。是非、失敗のない演技を見せて欲しい。そしてもう1つのポイントは回転不足判定。2人とも回転不足になりやすいジャンプはもう決まっている。そこをどう修正するのか、できるのか。以前解説をしていた伊藤みどりの、「認定されるジャンプを跳んでくださいよ~」という声がよみがえってくる(笑)。ジャッジングの正確性については、スケート連盟関係者が声をあげ、ISUが検証する気がなければどうにもならないが、選手としてできるのはグレーゾーンから抜ける、どの角度から見てもクリーンなジャンプを降りるよう努力することだ。 ISUの会長によれば、「(採点の)批判は自由」だという(苦笑)。だが、選手自身が、あっちの選手のあのジャンプは認定されたのに、私は…などと考え出すと、ロクなことにならない。学校で「あの先生はあの生徒を贔屓していて」などと言い立てる生徒に成績優秀な者はおらず、職場で「あの人はあの上司にゴマをすって贔屓されていて」などと陰口を叩くことに一生懸命な人間に仕事のできる者はいない。 巨大なマネーがからむ「興行」の世界で、何もかもが公平平等でないのは、個人にはどうにもならない。だが、判断する立場の人間に、良くないと指摘されたところを、少しでも良くする努力はできる。自分自身のやるべきことだけに集中することも。それはどんな世界に生きていても言えることではないか? お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.11.20 08:10:41
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