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ラジオノワ選手VSトゥクタミシェワ選手という、ロシア2強の優勝争いの様相を呈していたグランプリファイナルのフリー。制したのは、トゥクタミシェワ選手だった。 本当に圧巻の演技。安藤美姫がいなくなった今、あのように力強く、バランスのいい放物線を描くジャンプを見せてくれるのは女子ではトゥクタミシェワ選手だけかもしれない。加えて、ルッツ、フリップともエッジの踏み分けがきちんとできる。コストナー選手がいない今、女子トップ選手では一番正確に踏み分けができる選手と言っていいかもしれない。強いのも当然だろう。 11月18日のエントリーでも書いたが、もともと彼女はソチ五輪のために強化された選手で、本当なら浅田真央選手やソトニコワ選手と金メダルを争っているハズだったのだ。ソチ近くになって、体形変化にともなうジャンプの乱れと怪我に襲われたのは、4年に一度というオリンピックにピークを合わせるのが、フィギュアスケート競技ではいかに難しいかを物語っている。 ラジオノワ選手も非常によかった。フリーの技術点はなんと、トゥクタミシェワ選手とまったく同じ。演技・構成点の点差もわずかで、1つの失敗が1位、2位の明暗を分けた印象。こういうジャッジングは非常に公平で、おもしろく、また納得しやすい(ただし、ソチ同様、1位・2位を争う選手に対してだけだが)。 心配なのが、リプニツカヤ選手。ショートでの「トリプルフリップ」に対する「E」判定が、バズーカ砲のように彼女にショックを与えたようだ。フリーで2度組み入れたフリップジャンプは、1つはシングル、2つ目はダブル。 グランプリファイナルのショートでいきなり、フリップが不正エッジの選手にされてしまった彼女に対するフリーでの判定は、シングルフリップが「E」。ダブルフリップが「!」。解説の織田氏はルッツのほうを気にしていたが、ショート同様、こちらはエッジ違反なしの加点。 だが、リプニツカヤ選手のルッツは若干やはり疑わしく見える。このままだと、ルッツで違反を取られたり、フリップで違反を取られたりする不安定な選手になりかねない。日本選手だと中野選手、鈴木選手にその傾向があった。現行ルールでは、エッジ違反は非常に痛いから、リプニツカヤ選手の課題は、今後はいかに明確にエッジを踏み分けるかになるだろう。 リプニツカヤ選手は、若干体形が変わり始めているように見え、ここをどう乗り切るか難しい時期を迎えたようだ。去年の安定感とは打って変わったジャンプの不安定さ。ダブルアクセルは、「<<」を取られても文句を言えないような回転不足での転倒だった。非常に速い回転力で回る、彼女のもつジャンプの「タイプ」から見ても、成長すると跳べなくなるパターンの選手のように見える。 ラジオノワ選手も、今は手足が非常に細いが、長い四肢に女性らしい肉がついてくると、ジャンプが跳べなくなってくるかもしれない。あの若さで表現力も卓越したものがあるが、4年に一度というオリンピックを考えたとき、ソチは少し早すぎ、平昌は少し遅すぎた…と言うことにならないとも限らない。身体の成長と技術の停滞にどう折り合いをつけていくのか、心配はそれだけだ。 本郷選手も悪い出来ではなかったが、本人も言っていたように、セカンドに跳ぶトリプルトゥループが明らかに回転不足。ルッツは「E」判定で、トリプルを跳ぶ意味のない点。加えてダブルアクセルが抜けた。これでは技術点は伸びてこないし、技術点を伸ばさなければ、演技構成点は当然上げてはもらえない。いや、技術点を伸ばしたって、演技構成点が上がるとは限らないが、それでも、今は以前よりは技術点に応じて演技構成点も出るようになってきている。実績のない選手は最初は演技構成点は出ないが、それでもミスのない演技を続ければ、それなりにジャッジは演技構成点も出してくる…ことが以前よりは増えた(苦笑)。 本郷選手のフリーの演技構成点は55点にのっていない。これはハナっから、「メダル圏外仕分け」の点。表現力どうこうより、まずはジャンプだろう。そして、ほぼ「E」判定されることが明確になってきたルッツをどうするのか。 日本女子はつくづく、回転不足とエッジ違反に足を引っ張られている。こんなことは今さらなのだが、回転不足判定とエッジ違反の厳格化がなされたバンクーバー以前に、どうしてもっと本腰を入れた対策を若い選手に対して取らなかったのか…。 そして表現力。日本女子選手も皆いいものをもっているが、ロシア女子は、年齢は若くてもそれぞれが卓越した、大人びた表現力をもっている。独特のしなやかな腕の動きをアラビックでエキゾチックな曲にのせて魅せるトゥクタミシェワ。長い手足をダイナミックに使い、しなやかなポーズ、溌剌とした表情で観客を魅了するラジオノワ。憂いを秘めた怜悧なルックスの美しさに加え、そこここでピタリとバレエ的な所作をちりばめて氷上で物語を作り上げるリプニツカヤ。 リプニツカヤ選手の練習風景で必ず出てくるのはバレエのレッスンのそれだが、ロシアの女子はバレエの基礎教育が徹底している。フィギュアでは、長くバレエを表現力の規範としてきたから、この基礎的な力は、表現力の評価で大きな武器になる。浅田真央が奇しくもテレビ「世界不思議発見!」で、なぜフィギュアで「バレエ的表現」が高く評価されるのか、そのルーツを紹介していたから、ご覧になった方も多いと思う。 女子を席巻するロシアとの差を見せつけられるにつけ、それはそのまま選手を強化する側の意識の差だと思わざるを得ない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2014.12.15 03:20:03
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