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フィギュアスケートの世界選手権開幕を控えて、フジテレビが喧しい。 少し前には、銀座のソニービルの壁面に羽生結弦選手の特大ポスターが飾られ、 さっそくフジテレビが宣伝。 ニュースの形態を取ってるが、実際は「宣伝」であって、その手法が「まんま電通」で笑ってしまう。 まずはニュースの原稿。「フィギュアの貴公子」というキャッチフレーズを作る。かつて、キム・ヨナを「韓国の至宝」「フィギュアの女王」と名付けて売り出そうとしたのとまったく同じセンス。 ポスターにも「世界王者の証を、見せる」という、挑発的かつ大胆なキャッチコピー。あえて入れた「、」のインパクトなど、間違いなく一流のコピーライターの手になるものだ。 そして、「銀座ジャックです」というフレーズ。実際には、銀座の一角のソニービルの壁面にシロナガスクジラ大(笑)ポスターを1枚垂らしただけなのに、それで羽生結弦がこの東京で最も華やかな一等地を占領でもしたかのように大げさに喧伝する。 これは典型的「電通」宣伝手法で、特にネット時代になってから多く見られるようになった。 何か目を引く「イベント」を賑やかな街角で突如敢行し、道を歩いている人の注目を集める。その様子を――ニュースで流せるほどのネタではない場合は――You tubeにアップする。「●●をジャック」というフレーズとともに。●●は「お台場」であってもいいし、「銀座」であってもいいし、「原宿」であってもいい。そして足を止めてじっと見たり、ケータイで写真を撮ったりしている人々の映像も入れる。ネット時代だから、「何だ何だ」と皆が検索する。あるいはSNSで情報発信する。すると動画を見る人が増え、宣伝効果が生まれる。 この手法はすでに確立していて、あちこちの企業が「商品」の宣伝に活用しているのだが、フィギュアスケート世界選手権、そしてそこに登場する羽生結弦が、今回の「宣伝すべき商品」ということになる。 フジテレビの世界フィギュアサイトでも、羽生君、羽生君だ。 電車一両を羽生君ポスターが「ジャック」している路線もあるという。 http://www.fujitv.co.jp/sports/skate/world/special.html かつて、一時代を築いたデザイナー、イヴ・サンローランが引退を決めたとき、公私にわたるパートナーだったピエール・ベルジェが、「ファッションは商売人の手に落ちたのだ」と言ったが、その言葉を借りるなら、「フィギュアスケートは広告代理店の手に渡ったのだ」と思う。 銀座を「ジャック」した羽生選手のポスターはその象徴のように思える。 そのわりにはワールド前に羽生選手はほとんどメディアに登場しなかったではないか、という人がいるかもしれない。だが、それこそ「報道規制」を敷くことができたということで、メディアに大きな影響力を及ぼしうる人間が羽生選手の後ろにいるということなのだ。 今回はスケート連盟もガッチリ羽生選手をガードしている。 http://www.tokyo-sports.co.jp/sports/othersports/379192/ 小林部長は電話で羽生側と話したというが、4回転ジャンプの状態など詳細については「お答えできない」の一点張り。「羽生選手は連盟、ファン、メディアからの期待値がすごく高く、プレッシャーは計り知れない。ストレスを与えずストレスのない状態で気持ちを持てるよう守ってあげたい」と説明した。 連盟の羽生に対する“気遣い”は、これまでにないレベルに達している。練習の邪魔にならないように配慮してか、連盟関係者が羽生の元へ直接出向いて状態を確認することもしなかった。練習拠点についてもこれまで同様、国内か海外、どちらにいるかしか明かしていない。「国内のどこと限定してしまうと、リンクに行ってしまうファンもいるようですから」(連盟関係者)と極秘扱いになっている。 羽生は若くしてフィギュアスケート日本男子初の五輪金メダリストに。今や主要国際大会を総ナメにしているプリンスは日本の宝だけに、ソッポを向かれることは避けたいところだ。また、昨年11月の中国杯では演技前の練習で中国選手と衝突し大ケガを負いながらも強行出場した際には、連盟への苦情が殺到。羽生に何かあればすぐに連盟と結びつくだけに“超VIP待遇”も致し方ないようだ。 「メディアから姿を消す」というのも、ファンに一種の飢餓感を与えるという意味で、巧みな戦術だし、メディアの攻勢(それも悪意に満ちた)にほぼ無防備だった浅田真央選手のことを思うと、そのあまりの差に驚いてしまう。 バックに誰がつくか、あるいはついてくれるのか――これが大きくモノを言う。考えてみれば、それはビジネスの世界では当たり前のことなのだが。 フィギュアスケートがビッグビジネスになり、選手の商業的な価値が高まるのは、総じて言えば選手自身にとってもベネフィットが多い。羽生選手の場合は、懸念されるのは多忙すぎるスケジュールの中でのコンディション調整。それから強いて言えばコーチとの関係だろうか。「チーム結弦」にアドバイザーが多すぎるのか、コーチのもとで基本的な訓練をする時間が減っているのが――これはかつての浅田真央選手にも言えたことなのだが――将来的にどうなのかという心配もある。 だが、大きな試合の前に情報をシャットアウトし、選手をプレッシャーから守るという姿勢は大いに評価していいと思う。バンクーバー五輪のキム・ヨナ選手もこうした「雲隠れ」戦術を使い、試合ではそれが吉と出た。 羽生選手のバックには、「伊藤みどりが五輪で力を発揮できなかったのは、すべてのプレッシャーが彼女1人に集まったため」と分析できている城田憲子氏もいる(中国入りした羽生選手の後ろでちょろちょろしている小柄なピンクの女性)。彼女が「手がけた」選手で最高の栄光を手にしたのは、荒川静香と、もちろん羽生結弦。一方で、太田由希奈や本田武史は、一時期彼女の大いなるバックアップを受けつつも、怪我で「(彼らの才能なら)得られるべき栄光の座」につけなかった選手だ。 羽生結弦という図抜けた才能を、怪我で潰さずに次のさらなる栄光に導けるか。これはかなりの部分、城田憲子氏の手腕にかかっていると言えるかもしれない。 羽生選手の場合、メディアとの関係は非常にうまく行っている。好意的な報道が多く、羽生人気に乗っかろうというムードだ。 読売新聞まで、コレ↓ 羽生君の映った写真集を何度も何度もアップして、いろんなモノと絡めて宣伝している。 http://pr-yomiuri.com/article/437/cms_id/284 http://pr-yomiuri.com/article/458/cms_id/305 かつて、佐藤有香が幕張で世界選手権を制したとき、スポーツ新聞の扱いがあまりに小さく(トップは高校野球)、タレントの薬丸裕英だったか、「高校生が完全試合をやったからといって、それはあくまで国内の話。彼女(佐藤選手)は世界と戦って勝ったのに、この扱い」と苦言を呈したが、そのころを知る人間からすると隔世の感がある。 関係者皆の努力でここまで来た。選手にもビジネスチャンスが広がった。あとは商業主義の負の面、選手の酷使と、そこから起こる「使い捨て」をどうやって防ぎ、克服していくかだ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.03.25 23:22:13
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