|
男子シングルの試合で一番残念だったのは、枠が減ったとかという結果ではなく、ジャンプの調子を含めて3人が3人とも、「去年以上の何か」、換言すれば「成長」というものを見せられずに終わったこと。 羽生選手は、度重なるアクシデントで去年のような高難度ジャンプの安定感を取り戻せないままシーズンを終えた。あれでは、1年かけて、「羽生は絶対ではない」という印象をジャッジにわざわざ与えてしまったようなものだ。 無良選手は、相変わらず(?)、一番大事な試合で、得意のトリプルアクセルを失敗する。せっかく幸運にも与えられたチャンスを生かせない。これでは、もう先はない。 小塚選手は全日本で素晴らしい演技――これまでの小塚選手にはない「大人の色気」を前面に出したショートは彼の新しい可能性、あるいはこれまで引き出されてこなかった彼のもつ別の魅力を感じさせてくれるものだったし、フリーは1つの曲をほぼ切れ目なく使う、小手先の音楽編集に頼らない通好みの難しい振付で、「美しき一筆描き」とでも呼びたいような世界観は、驚くほど滑らかに滑ることのできる小塚選手以外には表現できないと思わせるもの――をしたので、実はとても期待していたのだが、ジャンプの失敗がいろいろなところに影響してしまったという印象。 対して、目を見張ったのが、女子シングルの宮原選手と村上選手の確かな成長。ショートは特に、何度も何度も見ているプログラムなのに、「えっ、こんなに素敵だったっけ?」と感動を新たにした。 まず、宮原選手は手首の繊細な表現が素晴らしかった。回転不足回転不足と言われて、そちらばかりに気持ちがいってしまうのではないかと思っていたが、出だしから、振付を丁寧に繊細に正確に演じていた。日本人の「芸」の考え方に、「まずは器(様式)を徹底的に叩き込む。すると心があとからそこに入ってくる」というものがある。宮原選手はまさにそのタイプ。大舞台にも揺るがないクレバーな女性であり、しかも内に秘めた情熱や芯の強さが演技からじわっと伝わってくる。 振付師が教えたとおりにやっている、ということはよくわかるのだが、何度も何度も演じるうちに、それが宮原選手独自の味になり、「彼女にしかできない」と思わせる空気感を作っている。そこが本当に素晴らしい。 解説の鈴木明子氏は「ラインの美しさ」をさかんに強調していた。Mizumizuが指摘した「姿勢の美しさ」も同じ意味だ。すっと伸びた背筋、フリーレッグの正確なポジショニング、腕遣いから身体全体までラインがバランスよく整って、はっと目を惹く。踊るオルゴール人形とでも言いたいような、可憐で正確な動き。今季はフリー作品のほうに目が行っていたが、フリーのモーツァルトの軽やかでエレガントな楽曲も宮原選手にぴったり合っていた。 シーズン初めはモーツァルトに関しては、ここまで良いプログラムとは思わなかったから、これはやはり滑り込むことで振付を自分のものにしてきた宮原選手の力だろう。ショートの演技構成、もうちょっと出してほしかった。 村上選手のショートには心底驚かされた。宮原選手よりずっと直情的で、生の情感をダイナミックに表現するのが得意な村上選手だが、今回のショートでびっくりしたのはスケーティングの滑らかさ。スローなパートでは、まるでエッジが氷に「粘りついて」いるようだった。大胆でスケール感はあるが、やや雑なイメージのあった村上選手だが、その印象をすっかり払拭した、大人の成熟した滑りだった。「こんなに滑りうまかったっけ?」と言ったら、過去の村上選手が下手だったみたいだが。 ジャンプ、特に冒頭のトリプルトゥ+トリプルトゥは凄かった。完全に跳び上がってから回転が始まるファースト、飛距離も素晴らしく、「うほっ!」と声を上げてしまったwww。セカンドはファーストより高く跳び上がる力強さがあった。だが、なんといっても、特筆すべきは、あの音楽表現。旋律に動きがぴったり合っている。音が伸びるところは滑りも伸び、音が跳ねるところは、身体も遅れることなくはずむ。まさに曲と一体になったような表現は、執念のような反復練習を容易に想像させる。 出場したトップ選手の中で、間違いなく最も成熟を感じさせる滑りと音楽表現だった。 なのに、演技構成点はアレですか。あっちこっちに若さゆえの粗雑さや未熟さが見えるラジオノワ選手より下ですか。やれやれ。ジャッジがいかに、「評価」ではなく「仕分け」に徹しているかわかるというものだ。 <続く> お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2015.03.31 20:12:27
[Figure Skating(2014-2015)] カテゴリの最新記事
|