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カテゴリ:Essay
しばらく山口県の実家に帰省していた。
その折に起こった事件(?)。 まずMizumizu母が夜道で転倒して、顔面流血・膝強打の憂き目に遭う。しばらくはケガのケアに気を取られていたのだが、ふと、その時に着ていたトクコ・プルミエヴォルのワンピースをクリーニングに出していないことに気づいた。 Mizumizu母によると、「だいぶ血が出た」らしい。衣類についた血は自分でふき取ったとのことで、地色が黒のワンピースは、確かにぱっと見には血がついているようには見えないが、こういうシミは後から目立ってくるものだ。 しかも、このトクコ・プルミエヴォルは大胆な花柄モチーフの、カラフルな刺繍がふんだんに施された非常に手の込んだもので、当然お値段もそれなりのものだった。 どこにクリーニングに出そう? まずは、Mizumizu母がよく行くスーパーの横にあるチェーン店のクリーニング店に持って行った。シミの話をすると、シミ抜きは範囲によって値段が違うと言われ、黒地なので範囲を特定するのも難しく、いかにも取りつぎだけの事務的な対応に不安を覚えた。 そこで、Mizumizu母の友人が「他の安いクリーニング店では取れないシミも取ってくれる良いクリーニング店」と紹介してくれた、家族経営の小さなクリーニング店に持って行った。 その店は、桜並木のきれいな川沿いにあり、古い木造家屋。いかにも昔からやってる個人のクリーニング店で、おばあさんが受付してくれた。シミについても、「ここらへんに血がついてしまって」と説明すると、慣れた風情で快く引き受けてくれる。 ちょうど別のお客さんが入ってきて、チラと見るとディオールのタグのついた洋服を預けている。やはり、高級な洋服を持ってくる人が多いんだな、と安心してお任せした。 のだが… のだが! 出来上がり予定日の翌日に取りに行き、自宅でビニール袋を取って気づいた。 「変な臭いがする!」 なんというか、生乾きの雑巾というか、カビ臭というか、はたまた浮浪者臭というか? とにかく、恐るべきいや~な臭いだ。 さっそく電話すると、受付してくれたおばあさんが出て、「はぁ? うち、そんなこと言われたことないんですが!」と、打って変わった不機嫌な口調。 そのあからさまに敵対的な口調に、やや怪しいものを感じる。だって、長年商売やってて、まったく、全然、誰からもその手のクレームをつけられたことがない、なんてあり得るだろうか? Mizumizu自身も、1回だけだが、この手の個人クリーニング店にスカートを出して、この手のいやーな臭いがついて戻ってきたことがある。 ともかく、「そんなこと言われたことない」と言われても、変な臭いがついてしまったのは事実だ。なので、さっそく店に持っていくことにした。 店に着くとおばあさんはいなくて、その娘とおぼしき女性がいた。クレームは承知していたようで、ワンピースに顔をくっつけ、さかんに嗅いで、しれっと言った言葉が、 「私には臭わない」。 誰が嗅いだって分かる悪臭を、臭わないと主張する根性も、たいがいだ。 「うちでは誰が嗅いでも臭いと言いますが」と、こっちも主張。 そうすると、変に脇の下のあたりを嗅ぎまわり、「これ… 体臭?」と言い出した。そして、 「体臭はドライクリーニングでは落ちませんから」ときた。 確かに体臭のようにも感じるが、Mizumizu母は、ただでさえ体臭の少ない体質なのだ。自分たちでくっつけてきたくせに、まるで最初からこちらの体臭がついていた服だと言わんばかり。脇の下をさかんに嗅いでるが、実際に臭いのは服全体。 「体臭のような臭いを取るには、いったん水に落として洗わないといけない」 などと説明し始める。水に落とすとカラフルな刺繍の色落ちも心配だし、そもそも服のタグに、「ドライクリーニングは水分を極力避け、できるだけ短時間でお願いします」とわざわざ注意書きが書いてあるほど繊細なつくりのワンピースなのだ。 「どうしても気になるなら、ファブリーズをかけて、風通しのよいところにおいておくといいですよ」 などとも言い出す。いやしくもプロのクリーニング屋がファブリーズを奨めてるところで、「ダメだ、こりゃ」と見切りをつけた。この状態の服にファブリーズなんてかけたら、もっとマズいことになる。 「ファブリーズ的な消臭剤を使ってクリーニングする店もあるけど、うちではやってない」 と、あくまで対応する気はゼロ。消臭剤を十把一絡げに「ファブリーズ的」とか言っちゃってる時点で、もう、ね。 こちらが、「ついてた血はきれいに落としていただいたと思うんですけれども」と言うと、「だいぶついてましたよね」などと、分かったようなことを言う。つまりアナタ、クリーニング作業にかかわったということか? なら、この異臭の原因だって心当たりがあるんじゃないんですか? 乾燥時に失敗したか、イヤな臭いの他の服と一緒にしていたか、何か原因があるはずだ。 だが、この上っ面な口調のおねーちゃんが、素直にミスを認めたり、原因を予想したりはしないだろう。対応していたおばあさんも出てこないし、家族経営の小さな店にこれ以上クレームして、代金(1860円、シミ抜き代があるとはいえ、わりと高めだ)を返してもらうのもお互いに気分が悪いだけだし、といって再クリーニングしても、「ドライクリーニングで、臭いは落ちません」と豪語してる店で良い結果にならないのは目に見えている。 引き下がると見たとたん、「すいませんねぇ。気分の悪い思いをさせて」などと謝り始めるおねーちゃん。これが日本人だ。許してもらえると見るや、やたら謝り始める。すいませんと言うなら、何か対応すべきでしょうが。逆に、あくまで自分が悪くないと信じているのなら、謝罪する必要はない。 家に持って帰って、しばらく吊るして様子を見たが、数日たっても悪臭が抜けていく気配はない。山口の地元で良いクリーニング店はないかと、ネットでさがしたり、Mizumizu母が友人に聞いたりしたが、対応できそうな店は見つからなかった。 以前、Mizumizuが個人経営の店で臭くされたスカートは、別のドライクリーニング店にふつーに出したら、ふつーに臭いは取れたのだが、あのスカートと今回のMizumizu母の服は、モノが違う。別のふつーのドライクリーニング店にふつーに出して、悪い結果になったら、さらに面倒だ。 なので、遠隔地でもいいから、ネットで最高級クリーニングを謳う店を見つけることにする。福井の「コンシェルジュ・テラマエ」がヒットしてきた。1着1着、それぞれの状態に合わせたクリーニングを行うそうで、クリーニング剤も豊富に揃えているよう。ホームページにもお金をかけており、実績もあるようだ。 さっそく、フリーダイヤルにかけて、これこれで…と事情を話すと、「消臭クリーニングも対応可能です」というので、宅急便で送り、洗ってもらうことにした。服が先方についたころに、電話すると、「今現物が手元にありますが」という担当者と話すことができ、「確かにイヤな臭いがしますね」「いったんやってみて、またご連絡します」とのこと。 臭いをくっつけてきたクリーニング店で、ファブリーズを奨められたと話したら、さすがに呆れていた(笑)。 何日か経過して、「臭いは取れました」という電話連絡が入る。発送の手配をしてもらい、到着したワンピースをチェックした。 すっかり臭いは取れている! 良かった。 もちろん、お値段は山口のクリーニング店なんて、くらべものにならないほど高い。安い服なら買える値段だが、そのぐらい出してもきれいにするべき服というのもある。 しかし… あの家族経営の店も長くないだろう。あのミスにあの対応では先が見えている。おそらく「確かな腕前」で地元マダムの支持を受けて長年商売を続けてきたのだろうけれど、二代目…か三代目か分からないが、娘がアレじゃこれまで培ってきた信用も台無しだ。 山口では安さを売りにするクリーニングチェーン店ばかりが目についた。職人の店は、職人自身の腕が衰えたら終わり。その時に昔のプライドを振り回したら、ますます凋落は早くなる。 地域の職人はいなくなり、「確かな腕前」の店はネットでさがす。そして、段違いに高いプライスを払って、満足を買うことになるのだろう。 二極化というのは、こういうところにも現れてきている。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2018.04.03 14:32:07
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