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北京五輪の男子シングルが始まった。今日はショートプログラム。羽生選手は残念だったが、宇野選手、鍵山選手がベストな滑りを見せてくれ、大いなる感動をもらった。「また4-3が4-2になるかな~」と心配していた宇野選手も片手をつきながらも4-3が入ったし、鍵山選手は若さ溢れる生き生きとした演技で、しかも高難度ジャンプを危なげなく決めた。 羽生選手の4アクセルと三連覇ばかりに注目が集まったのも、プレッシャーがかからなかったという意味で宇野選手、鍵山選手にはよかったのかもしれない。 五輪になると、その前の全日本よりパフォーマンスが落ちるのが日本選手の恒例だっただけに、これは嬉しい結果だ。羽生選手は氷上の穴にはまってしまったよう。練習では軽々と決めていた4サルコウだけに、悲しい気持ちになったが、人生とは得てしてこういうものだ。喘息があり、コロナ禍ということで北京入りをどうするかなど、羽生選手は難しい決断を迫られたはず。 五輪の悲劇は思わぬところで、思わぬ選手に起こる。4年前はネイサン・チェンのショートプログラムだった。あの思いもよらない結果に、本人だけでなく、多くのファンが落胆したはずだ。アメリカのテレビ局は、チェンのメダルが絶望的と知るや、さっさとフィギュア男子の中継をゴールデンタイムから外してしまった。フリーのネイサンは素晴らしかったというのに! 今回のネイサン・チェンは、4年前の悪夢など微塵も影響していないパフォーマンスだった。練習から調子がよく、失敗するイメージがこちらもほとんど持てないほどの仕上がり。本番でも、その実力をいかんなく発揮してくれた。後半に4ルッツ+3トゥループを持ってくるという、「そこまでリスキーなことしなくても、勝てるでしょ?」の高難度構成。それをきれいに軽々と決めた。この瞬間、「もう誰もネイサンには勝てない」ことがはっきりしたと思う。 プルシェンコが、「平昌で勝つために4回転ルッツは必要ない。北京では必要かもしれないが」と言ったとおりの展開になった。宇野選手も鍵山選手も点数の上ではいいところにつけているが、4回転ルッツを120%決められるネイサンの敵ではない。 最も難しいジャンプを跳ぶ選手が勝つ。北京大会はスポーツとしてのフィギュアの王道をいく大会になりそうだ。ストイコに「フィギュアスケートが死んだ日」とまで言わしめた、バンクーバーの暗黒時代から、ロシアを中心に求めてきた「スポーツとしてのフィギュア」への軌道修正は、ネイサン・チェンというたぐいまれな才能の持ち主を得て、ついに完全な正常化に成功した。 今のシングルはジャンプ大会になっているが、トップにくる選手は決してジャンプだけではない。それは女子シングルでも同じだが、大きな弊害も出ている。それは特に女子に顕著だが、それについてはまた別途書こうと思う。 ほとんどの選手が試合に入れることさえできない4ルッツを軽々と決める。それだけなら金博洋選手のほうが先駆者かもしれないが、チェン選手は4フリップもショートに入れて、簡単に決めてしまう。4ルッツと4フリップを完璧に装備しているという点で、今回の五輪王者にふさわしいのはやはりネイサン・チェンしかいない。 ジャンプがあまりにすごいので見逃されがちだが、ネイサンのもつ美しさも、実は破壊的なレベルだ。氷上でポーズを取っただけで、その均整の取れた細身のプロポーションに目を奪われる。奇妙に聞こえるかもしれないが、Mizumizuはネイサン・チェンの足首が、すっと伸びたその瞬間が好き。その足首のやわらかさ。ブレードが氷に貼りついているよう。まさに「足先まで神経が行き届いている表現力」の好例だ。 4年前のネイサンの「ショートの悲劇」を見たとき、果たして次の五輪で彼はまだ4回転を跳べるだろうか――と密かに危惧していた。4回転という大技を長きにわたって跳ぶのは非常に難しい。ケガも付き物だ。だが、その後のネイサン・チェンの快進撃はとどまるところを知らなかった。 そして、4年前以上に洗練されたジャンプとスピンとステップを携えて、彼は堂々と五輪の舞台に戻ってきたのだ。これほど五輪王者にふさわしい選手が他にいるだろうか? 金メダルにもっともふさわしい選手が、実力をいかんなく発揮して栄光をつかむ。その姿はその選手がどこの国に属していても、嬉しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.02.08 22:24:12
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