|
2022年のフィギュアスケート世界選手権、女子シングル。坂本花織が金メダルに輝いた。シーズン初めには想像さえできなかった結果だ。しかも、ショート&フリーともミスらしいミスのない、1位+1位の「完全勝利」。 ロシアの根深いドーピング問題に揺れ、ウクライナ侵攻という想像を絶する暴挙に翻弄された今季のフィギュアスケートだが、坂本選手という、実にフツーに成熟した美しい体形の選手の、長年積み上げてきたスピード感あふれる素晴らしいスケーティングと、その流れを止めることなく跳ぶ高さと幅のあるジャンプを見ると、フィギュアスケートが本来もっている魅力、その醍醐味を再認識させてもらった気分だ。 細い軸の高速回転で高難度ジャンプを跳ぶ、ロシアの少女たちが席巻してきた昨今の女子シングルだが、ここで「健全な競技に戻れ」という見えざる神の手が働いたかのよう。そもそも、最近のシングルはやたらクルクル回りすぎる。いつの間にか滑る競技から回る競技になってしまったかのよう。それによって、「長年滑り込むことでしか体現できない」スケーティングそのものの味わいを損ねてきたのも事実だろう。しかし、この勝利がフィギュアスケートの原点に戻るきっかけになれば、これほどうれしいことはない。 そしてもう1つ。多くの有力選手が、さまざまな理由でこの舞台に立てなかった。オリンピック前は「(ロシア女子の)唯一の競争相手」と称されてきた紀平梨花選手。Mizumizuもロシア女子がコケた場合、表彰台の頂点に立てるのは紀平選手だろうと思っていた。坂本選手はトリプルアクセル以上のジャンプがなく、しかもルッツのエッジに不安がある。 だが、ワールドが終わってみればトリプルアクセルを武器にしようとした選手は軒並み回転不足判定に泣き、大技はもたないものの、ジャンプの質が抜群によい坂本選手がぶっちぎりの点数を叩き出しての勝利となった。 いかに、トリプルアクセルが女子にとって難しいか。その難しいジャンプを軽々跳ぶ一部ロシア女子選手がいかに疑わしいか。 回転不足による減点の厳しさについては、Mizumizuは常に反対の立場だ。この厳しさが女子に過重なまでの減量を強い、選手生命を短くしている。体重が軽い、若いというよりもはや幼いといっていい時代の女子選手なら回転不足なく跳べるが、年齢を重ねるにしたがって、軒並みこの判定に苦しむようになる。回転不足を厳しく見ること自体には反対しないが、減点はもっと抑制すべきだ。エッジ違反の減点がひと頃より抑制されたように、回転不足の減点ももっと抑えるべき。 だが、悪法だからといって、それが現行の法ならば、それにそってジャッジするのは審判の立場に立てば当然のこと。今回の坂本選手の勝利、いろいろな要素があるが、最大の理由はセカンドに跳ぶ3Tの確実性と質だったと言える。リザルト(プロトコル)を見ると分かるが、3回転+3回転のセカンドジャンプは多くの選手が回転不足(<やq)を取られている。 坂本選手は「セカンドに跳ぶ3回転」を後半に2つも入れてきて、その落ちないスピード、回転不足になりにくい幅(高さももちろんあるが、セカンドでは特に幅が大事だ。垂直跳びに近くなると回転不足になりやすい)を見せつけて、高い加点を引き出した。 欠点であるルッツに関しては、判定が好意的だった。ショートではエッジ違反を取られずに加点、フリーでは「!」にとどまったことで、ここでも加点を引き出した。 クライマックスにもってきた得意の3ループはいつもよりは慎重だったかもしれないが、チャンピオンを決定づけるにふさわしいドラマチックなものになった。 そして、なんといっても後半になっても落ちないスピード。連続ジャンプは、ファーストがむしろ抑え気味でセカンドを高く、遠くへ跳んでいる。前後のスピードもまったく落ちない。この跳び方は高く評価されるスタイルだ。やれと言ってできるものではない。 高難度ジャンプを入れることで顕著になってきたジャンプの種類の偏りもない。アクセル、ルッツ、フリップ、ループ、サルコウ、トゥループ…全部跳べる。まさにジャンプ構成のお手本。こういう選手こそ女王にふさわしい。 五輪後は調整が難しい。にもかかわらず、五輪以上のパワフルな滑り。これは坂本選手の体力、つまりは健康の勝利だと言える。 逆に、深刻なのは河辺選手。ルッツにもフリップにも「!」…これはエッジの使い分けが曖昧だというメッセージだ。トリプルアクセルは不安定、セカンドに跳ぶ3回転ジャンプも回転不足気味…。これだけ技術に突っ込みが入ると… お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2022.03.26 15:46:21
[Figure Skating(2021-2022)] カテゴリの最新記事
|