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いやはや、いやはや… もはや誰も勝てない。グランプリファイナルのイリア・マリニンの演技を見て、ほぼすべての観客はそう思ったのではないだろうか。 謎の加点で勝つわけでもなく、多分に主観的なプログラムコンポーネンツの爆盛りで勝つわけでもない。ジャンプの難易度に沿った、極めて分かりやすい勝利。フィギュアは基本的に基礎点重視の採点でいくべきだというのが持論のMizumizuにとって、今回のマリニンの勝利は、プルシェンコ独走時代の幕開けとダブる。時代が違うから、ジャンプの難度は当時とは雲泥の差があるのだが、世界中の一流選手を集めたワールドの場でも、「頭ひとつ抜けた確かなジャンプ力」のある選手。それがプルシェンコであり、マリニンだという印象。 ほとんど誰も跳べない超高難度ジャンプである4Aの基礎点を下げるという、暴挙に等しいルール改正を受けて、「4Aは入れないかも」と言っていたマリニンだが、シーズンの幕があくと、このハイリスクジャンプをきちんと入れて、さらに、4ルッツ、4ループ、4サルコウ、4トゥループまで入れる。さらにさらに、3ルッツからの3アクセルという、すんげ~~シーケンスまで決めてみせた。 あえてケチをつけるとすれば、フリップがないのが不満。4回転時代になってからのジャンプの偏りはずっと気になっているのだが、やはりここはルール改正が必要かなと思う。ボーナスポイントによる加点ではなく、アクセル、ルッツ、フリップ、ループ、サルコウ、トゥループをまんべんなく「入れなかった」場合に全体のポイントから減点をする、というのはどうだろうか。 これならば多回転を競うだけではなく、ルッツとフリップの踏み分けができるか、高難度とされるジャンプは跳べても実は苦手とするジャンプがあるのではないか、という点が明らかになり、ジャンプの技術を見るうえで非常に有意義だと思う。 ループを避け続ける加点爆盛り女王とか、アクセルが苦手なスケート技術絶対王者とか、要はMizumizuは個人的に、そ~いうのが嫌いなのだ(読者は分かってると思うが)。フィギュアスケートは世界レベルになればなるほど、莫大なカネが絡む。だからこそ非常に政治的意味合いが強くなる。タイムを競うような競技ではないから意図的な操作も可能だ。だからといって、「誰か」を五輪で勝たせるために、理不尽かつ無茶苦茶なルールをまかり通すなど、あってはならないことだし、いつまでもそれは言い続けると思う。 ルッツとフリップの踏み分けと言えば、忘れられないエピソードがある。不正エッジによる減点という明確なルールができるずっと前、マリニン選手の母、タチアナ・マリニナ選手がNHK杯で優勝したことがある。表彰台の中央で喜びを全身で表すマリニナ選手。彼女に対する解説の佐藤有香の賛辞の言葉が忘れられないのだ。「トリプルジャンプ、トリプルジャンプと追い立てられて、ルッツとフリップを正しく跳べる選手がほとんどいない。マリニナ選手はきっちりアウトとインにのってルッツとフリップを跳べる選手」。記憶ベースなので表現は多分違うだろうけれど、そういった意味のことを言っていた。慧眼だと思う。 話をマリニン選手に戻して、彼が「皇帝」の名にふさわしいと思う、もう1つの理由は表現力の格段の進歩だ。 宇野昌磨選手の洗練を極めた表現とは比ぶべくもないが、マリニン個人としては昨シーズンに比べてぐっと「魅せる」プログラムになってきた。昨季までは、「あ~あ~、スタイルいいのに。やっぱりそれだけじゃないのね、フィギュアの表現力って」という感想だった。1年でこれほどブラッシュアップしてくるとは、素晴らしいの一言。 回転力は神がかり的なので、もう少しスケートが伸びればよいし、ジャンプ以外の表現を磨いてほしいところだが、この1年での進歩を見れば黙っていてもやってくれるだろう。 凄い選手が現れた。羽生選手が去り、ネイサン・チェンが去り、宇野選手も次のステージへ行く時期が来ている。それでも、次の輝かしいスターが生まれた。願わくば、怪我なく五輪まで行ってほしい。そしてその稀有な才能で、他の選手のレベルも引き上げてほしい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
2023.12.10 22:21:17
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