傑作か、駄作か――膨大な手塚治虫の中で、おそらく評価が真っ二つに分かれるだろう作品のひとつに挙げたいのは、『サンダーマスク』。
最近見つけた記事で手塚版『サンダーマスク』を傑作認定している人(松浦晋也氏)がいた。
手塚治虫の知られざる傑作「サンダーマスク」:日経ビジネス電子版 (nikkei.com)
あまり知られていない作品の中にも「すごい」と感嘆せざるを得ないような作品も存在した。その中のひとつが「サンダーマスク」だった。
(中略)
私にとって「サンダーマスク」は、まごうことなき傑作である。確かにラストは打ち切り作品らしく早足なのだが、それを補って余りあるオリジナリティーが込められている。変身ヒーローのサンダーマスクと魔王デカンダの対立というテレビ版の構造は、完全に換骨奪胎され、かなりハードなSF作品となっている。それどころか、映画「タイタニック」を思わせるメロドラマでもあるのだ。
物語の語り手は、手塚治虫本人。この時期の手塚作品には「バンパイヤ」に代表されるように手塚本人が時折登場している。手塚が命光一という若者と知り合うところから話はスタートする。(引用終わり)
この記事を読んで、「おお、同志よ!」と思ったのだ。Mizumizuは最近になって初めて電子書籍版で読んだのだが、この『サンダーマスク』、相当面白い。
手塚作品の中ではマイナーな『サンダーマスク』を、なぜ電子書籍版で買おうと思ったか・・・それは、ガチ手塚(真の手塚マニア)であるyou TUBER某(なにがし)氏が同氏の手塚治虫全巻チャンネルで、珍しくテンション下がりっぱなしの口調で「面白いとはいえない」と評したからだ。
ファンがつまらないと言ってる作品、どのくらいつまらないの? と興味をひかれたのだ。
【都市伝説】手塚治虫パンデミックを予言!支配者層の闇を暴露? (youtube.com)
某氏は、手塚治虫自身もこの作品を気に入っておらず、その証拠にあとがきがあまりにアッサリしていること、書籍化の時に描き直しをする手塚治虫が手を入れていない(らしい)ことを挙げている。
本人が駄作だと思ってそうしたのかどうか、Mizumizuは断定できないと思うのだが、「力が入ってない」と思うのは、作品の中身ではなく、講談社全集版の表紙の絵。手塚治虫の元チーフアシスタントが証言しているのだが、この全集版、手塚の力の入れようは並々ならぬものがあり、表紙の絵は新しく描きおろし、金の額縁の着色も、アシスタントに細かくダメ出しをしたそうなのだ。
だが、『サンダーマスク』の表紙の絵は、過去に書籍化されたものをアップにしただけ。新しく描き直した形跡はゼロ。
あとがきの短さ、全集版に向けての描き直しなし、表紙絵使いまわし――その作品が、今頃になって話題になるなんて、ご本人もびっくりかもしれない。
漫画の文庫本には反対のMizumizuだが、電子書籍に関しては、利点があると思っている。それは、スマホと一緒にどこにでも持っていけること。本だとしまい込むと捜して出すのが億劫になる。それに、新幹線や飛行機の中に本を持参するのは面倒だが、電子書籍なら気軽に読める。手塚作品は楽天KOBO電子書籍ストアで安く買えるので、結構最近は買って、新幹線や飛行機の移動中に読んでいる。
『レオちゃん』なんて、絵が好きだから、絵本版と電子書籍版の両方を買ってしまった(内容が少し違っていたが)。
話が逸れたが、この『サンダーマスク』、Mizumizuにはかなり面白かった。夜中に真黒な大きな手が出てきて、クルマをつぶすところなんてホラーそのものだし、飛行機が乗客乗員ごと石になって落下してくるところ、町全体が石になってしまうところなんて、「山崎真監督の特撮映画で見たい!」と思うような発想だ。人類の敵となるデカンダーの正体も、「うわー、そうきますか」という奇想天外なもの。これがサイエンスフィクションというものですか、と妙に納得してしまう。こういったアイディアが秀逸で、次から次へと出てくるのがスゴイ。
山崎真監督の映画で見たい、と思うのは、ラブロマンスもちゃんと入っているからだ。『タイタニック』のようだとは思わなかったのだが、『ゴジラ-1.0』にも、こういうロマンス要素がちゃんと入っていたことを思い出し、「さすが手塚作品、ツボは外さない」と変に感心してしまった。ラストシーンでのヒロインの姿には、悲劇でありながら、ほんのわずかな希望を必ず残す手塚治虫ならではの味わいがある。こういうラストは、他の誰も書けないのではないか。
そして、個人的にツボったのは、ところどころにあるギャグ。5回は大笑いしてしまったわ。手塚マンガが好きなのは、ふいうちのように繰り出されるギャグがなんといっても理屈抜きに面白いこと。
永井豪が登場する温泉のシーンは、力が抜けたおふざけで、大好きだ。こ~ゆ~のも、描けませんよ、なかなか。
ところで、あのダサいサンダーマスクのマスク・・・手塚治虫のアイディアではないらしい。
テレビドラマが先行した『サンダーマスク』は、サンダーマスクのキャラクター設定と怪獣のキャラクター設定は別の人がやったよう。
テレビ版『サンダーマスク』の権利関係のごたごたが最近やっと解決したらしく、動画があがっているが、エンディングには
サンダーマスクデザイン 上山さとし
怪獣デザイン 成田マキホ
とある。上山さとしって、誰? 成田マキホはウィキペディアに情報がある。
手塚版『サンダーマスク』では、デカンダーの姿はドラマとはまったく異なっているが、サンダーマスクのマスクはかなり似ている。似ているが、ちょっと違う。違うのは、手塚版はまさにマスクで口元は普通の人間のそれのように見えること。テレビドラマ版では口元までマスクで覆われている。
推測するに、テレビ版のサンダーマスクデザインを手塚作品でも使ってくれるよう制作側が依頼したのではないか。手塚版『サンダーマスク』の中で、このマスクのデザインを手塚治虫がさらさらっと描くシーンがあり、なぜか「デザイン料はいらんぜ」とわざわざ言っているのだ。
この不自然なセリフ、ちょっと気になったのだが、テレビ版のキャラクター設定を踏襲したものだとしたら合点がいく。テレビでは上山さとしデザインと出てるんだから、そりゃデザイン料はナシでしょう。
手塚版『サンダーマスク』、楽天KOBOで安く買えるので、読んでみて。
サンダーマスク|マンガ|手塚治虫 TEZUKA OSAMU OFFICIAL
面白いか、面白くないかは、アナタ次第。