自動運転、昨日の敵も友
自動運転のロボットカーが24時間走り回る。運転手なしで相乗りの客を運び、荷物や熱々のピザを家まで届ける。1月上旬に米ラスベガスで開かれた技術見本市のCES。トヨタ自動車は、そんな近未来をスクリーンに映し出した。 幅広いサービスを担う箱形の電気自動車「eパレット・コンセプト」を、社長の豊田章男が紹介。「トヨタはクルマをつくる会社から、モビリティーサービスの会社に変わる。可能性は無限大だ」と宣言した。 世界初の量産自動車、T型フォードの発売から110年。豊田は危機感を募らせる。「業界は100年に1度の大変革期」を迎え、「生きるか死ぬかの戦い」を強いられている、と。 環境規制を背景に、エンジン車から電気自動車など電動車へのシフトが進んでいるだけではない。割安な相乗りサービス「ライドシェア」が海外で普及し、タクシーやマイカーの需要を奪いつつある。人件費のかからない自動運転車と結びつけば割安なロボットタクシーが実現し、流れを加速させる可能性がある。 先取りしているのはIT企業だ。米ウーバー・テクノロジーズや中国・滴滴出行(ディディチューシン)のライドシェアは世界各地に浸透した。1日の利用者が延べ1千万人を超えるウーバーは、自動運転車への移行をめざす。 米ボストンコンサルティンググループは、運転手がいらない自動運転車が2035年に世界販売の2割超を占めると試算。半数をロボットタクシーとみる。 米グーグル、米アマゾンに代表されるIT企業は、スマホなどの電子端末を基盤に、小売りや通信、メディアといった幅広い業種で既存企業を脅かす。その波は自動車にも押し寄せる。 自動運転ではグーグルが人工知能(AI)の開発で先行。中国の百度(バイドゥ)は母国の人口を生かしデータ収集を急ぐ。百度はCES会場で北京での実験を生中継し、「将来は中国が世界中にAIを届ける」(グループ総裁の陸奇)と強調した。 ロボットタクシーやロボット宅配が普及し、根幹をIT企業に握られれば、自動車メーカーは市場を奪われるだけでなく、サービスにあったクルマを供給するだけの存在になりかねない。消費者との接点を失えば、自動車ローンや保険で稼ぐのも難しくなる。 自動車メーカーはもはや自前主義にこだわっていられない。ホンダや欧米FCAは、自動運転でグーグルと提携。米ゼネラル・モーターズは、ITを駆使するライドシェア大手の米リフトと組んだ。 トヨタも同様だ。「eパレット」では提携相手の第1弾として、すでに協力関係にあったマツダやウーバーに加え、滴滴出行やアマゾンを紹介した。 アマゾンは、社長の豊田がグーグルやアップルと並ぶ「新しいライバル」と名指ししてきた。物流費が課題になっている通販の巨人だ。 アマゾンは音声認識のAIにも強く、トヨタはこの分野でも提携する。今春に米国で売り出す新型車は、声で様々な操作ができる機能を備える。車内にいながら自宅の家電も操れる。 「音声AIを使った我々のサービスは、家や職場だけでなくクルマもカバーする」とアマゾン幹部のジョン・スカムニオタレス。声を使った操作は、パソコン時代のキーボード、スマホ時代のタッチパネル操作に続く次世代の中心になる、と目されている。 トヨタのIT戦略を長く担ってきた副社長、友山茂樹は言う。「同じビジョンを持てれば、グーグルでもフェイスブックでも、ライバルはパートナーになり得る」(敬称略)出典:https://digital.asahi.com/articles/DA3S13327146.html?_requesturl=articles%2FDA3S13327146.html&rm=150