通信は「5G」か「DSRC」か、対立する大手自動車
第5世代移動通信(5G)技術への期待の高まりを受け、米自動車大手 ゼネラル・モーターズ (GM)や トヨタ自動車 が推す別の競合技術に暗雲が立ち込めている。最先端技術でインターネットに接続する自動車の実現に向けて各社がしのぎを削る中、両社のライバル勢が有利に立つ可能性もある。 米政府は自動車と「スマート」な信号間での通信を可能にするWi-Fi技術「狭域通信(DSRC)」に、これまで開発費として数億ドルを投資してきた。この技術は前方で渋滞や事故が発生したことや天候の変化といった情報を自動車に送信するもので、GMやトヨタから強い支持を受けている。 だが米フォード・モーターやドイツの高級車メーカー BMW などはドナルド・トランプ米政権に対し、DSRCシステムを飛び越して5G技術を自動車に導入できるよう求めている。5Gは現在のブロードバンド通信よりも最大で10倍速い通信が可能だ。現状のネットワークでは自動運転車の停止距離は1ヤード(約0.9メートル)ほどだが、5G技術を使うことでその距離は1インチ(約2.5センチ)ほどにまで縮小される可能性があり、信頼性も向上するという。 DSRCと5Gのどちらがコネクテッドカー(端末としての機能を持つ車)の標準規格に選ばれるかによって、他の産業と同じように自動車業界も勝者一人勝ちの構図となり得る。自動車メーカーにとっては、ソフトウエア開発が新たな戦いの舞台だ。米国内では自動車の死亡事故が近年増えていることに加え、メーカーは自動車同士の通信によって渋滞が緩和され安全性も高まるとしているため、どちらが選ばれても影響は大きい。 携帯電話メーカーは端末をインターネットに接続できるよう早くから開発を続けてきた。後れを取った自動車業界にとって、新たな技術を素早く開発することは優先事項だ。調査会社カウンターポイント・リサーチによれば、世界のコネクテッドカー市場は2022年までに現状の3倍近くにまで拡大し、インターネットに接続した自動車の出荷台数は5年間で1億2500万台以上に達する。 4Gと呼ばれる現在のブロードバンド通信はWi-Fiホットスポット(接続地点)を実現し、ストリーミングを可能にした。これによって自動車内からインターネットに接続し、動画を見ることができる。だが無線技術の新たな波が押し寄せればエンターテインメントの形も変わり、安全機能も変化する。自動車は別の車に搭載されたカメラにアクセスして前方で事故が発生したと警告し、障害物や道路の状況についても伝えることができるようになる。 ダッシュボードから スターバックス のドリンクを注文し、人工知能(AI)が運転を担う間に仮眠を取る――このようなことも最終的には可能になるかもしれない。BMWなどの企業は次世代ブロードバンドがもたらす通信速度が、こうした技術の開発を推し進めるために不可欠だとしている。 BMWのピーター・シュワルツェンバウワー取締役は、「われわれは通信企業に対し、なるべく早く5Gを本格的に展開するよう広く要求している」と話す。 DSRCを支持するメーカーとその課題 一方でGMとトヨタはDSRCに対応したモデルをすでに展開。トランプ政権に対しても、2021年までに同技術の新車への搭載開始を義務付けるとした2016年の計画を支持するよう求めている。ただし各自動車メーカーはすでに2021年モデルの設計に取り組んでいる時期だが、米運輸省はバラク・オバマ前政権時に示されたこの計画について最終的な判断を示していない。 GMのコネクテッドサービス部門などでディレクターを務めるスティーブ・シュウィンケ氏は、「業界内の残りのメーカーも追随するように仕向けるのはなかなか難しい」と話す。 GMとトヨタが支持するDSRC技術の問題点のひとつが、そのコストだ。5Gについては既存のネットワークを使って提供できるよう、通信企業側が基地局の改修や道路上のアンテナ設置費用を負担する予定だ。だが運輸省の試算によれば、DSRCを完全に実現するには政府が数十億ドルをインフラ向けに支出する必要がある。 また米運輸省道路交通安全局(NHTSA)の試算によれば、DSRCを使うために必要な機器を自動車に搭載する場合、自動車そのものの価格は300ドル(約3万2000円)ほど上昇する。一方で新型の自動車のほとんどには必要なモデムがすでにインストールされているため、利用者が5Gを利用するとしても追加的なコストはわずかだ。 米国内で販売される新車のうち、GMとトヨタのシェアは約3分の1に及ぶ。世界市場を見れば、両社のシェアは約20%だ。トヨタはDSRCを搭載した自動車を日本で10万台以上出荷。2020年代半ばまでには米国で展開するほとんどのモデルに携帯通信向けモデムと共にDSRCを搭載させるという。 GMとトヨタはWi-Fi技術を基本としたDSRCについて、5G通信網が確立されるまでのつなぎだと見ている。5Gは自動車での本格的な試験がまだ実施されておらず、広く搭載されるようになるまでには数年かかる可能性があるからだ。 一方、5G通信を支持する自動車メーカー団体「5GAA」のクリストフ・ボイト会長は、「自動車が初めて互いに交信するようになる中、これらが同じ言葉を話せるようにすることが重要だ」と指摘。独自動車大手 フォルクスワーゲン 傘下の高級車メーカー、アウディでコネクティビティーに関する研究開発を担当する同氏は、5Gが業界の標準規格になれるとみており、連邦政府の規制当局に対して「技術面で勝者と敗者を直接あるいは間接的に選出しないよう」求めているという。 業界の専門家らは5Gに対応したスマートフォンが来年にもデビューするとみており、5G用モデムが搭載された自動車は早ければ2020年に登場すると予測している。出典: http://jp.wsj.com/articles/SB11564419389268263594104584208700357726912