ソニーが苦境のスマホ事業から決して撤退してはいけない理由
今のXperiaはつまらないということである。とはいえ、モバイル事業は2つの意味で非常に大切な事業だ。 1つは、5Gの通信プラットフォーム開発に最も近い事業であり、5Gのための技術蓄積をする部門であるからだ。5Gになれば、スマホに何でもやらせるのではなく、各機器に5Gの通信機能が搭載され、もう一度スマホからさまざまな機能が専用機に戻るという時代が来るかもしれないし、ソニーとしてはそうしたいだろう。 一例を挙げれば、新しい「AIBO」は魂がクラウドにあるという。かつてのAIBOはスタンドアローンで個々の機器の中で完結して動作をしていたが、現在のAIBOはLTEで通信を行いながら、クラウド上でAIBOの動作のアルゴリズムが計算されている。こうした通信を行いながら動作する商品カテゴリーがもっと増えるのが5Gの時代だろう。そのときに5Gのインフラを整えておくことは、仮に現在のモバイル事業の業績が悪かったとしても、極論すればコストセンターであったとしても、残しておくべき事業なのかもしれない。 もう1つの理由は、エンタテインメント企業としてのソニーのアウトプットデバイスはテレビとスマホであり、ディスプレイは吉田ソニーが標榜する「人に近づく」ことを実現する上で、非常に大切なインターフェースであるからだ。その意味でも、重要なインターフェースを手放すのはもったいない。大きな課題になっていることが予想される。 ただ、そのキャリア中心のビジネスモデルも再考していいのではないか。まだまだ大手キャリアの存在感は大きいが、彼らの主力商品は「iPhone」である。一方、Xperiaが採用するAndroid端末は、MVNOスマホ(いわゆる格安携帯)市場では主要な商品である。大手キャリアにはない中国ブランドのAndroid端末が活躍しているのも、この市場だ。 通信が目的から単なる手段に転換するとき、一段と通信サービスの低価格化は進むだろうし、スマホ自体もコモディティ化が始まっているので、今後の伸びが期待できるのは格安スマホ市場かもしれない。価格圧力は強いかもしれないが、ソニー主導でユニークな商品をつくれるかもしれないことを考えれば、大手キャリア一本やりのビジネス形態は、転換のときが来ているのかもしれない。 いや、もはや5Gインフラを開発するためのコストセンターだと割り切れば、一切の制約を気にせずに、思い切りエッジの効いた商品を出していく方が、長期的にはソニーを支持するユーザーが増えるのではないだろうか。SAPを活用してアイデアの多様性にチャレンジすべき一番の事業は、モバイルかもしれない。出典:https://diamond.jp/articles/-/191896?page=3