優しい味のチョコ
電話の1時間後ぐらいに父がやってきた。チョコレートとどら焼きを持って。私が摂食障害だという事は知っているけれどそんなに詳しくは理解はしていないと思う。普通に食事が出来ないことは分かってるけれど高校の時から過食嘔吐をしていたなんてことは絶対に知らないだろう。だから、いつも来る時は「お寿司でも買っていこうか? 食べたいものはないか?」そう聞いてくれる。父は私が食べている姿を見るとホッとする顔をする。そんな父の顔を見たくて無理して食べる事もある。でも、結局は父が帰ったあとに全て吐き出してしまう。とても自己嫌悪に襲われる。父の優しさを無駄にしてしまっているから。今日はあらかじめ電話で何も買ってこなくていいよと言っておいた。残念そうな感じだったけれど頭痛も酷いし、食べて吐く事はしたくなかった。でも、チョコとどら焼きを買ってきてくれちゃった。チョコは前に、私がはまっていて父にリクエストした事があるから。其れ以来、いっつも買ってきてくれる。どら焼きは…何故なんだろう?確かに嫌いじゃないけど。甘いものといえば、父の中でどら焼きなのかもしれない。チョコが食べれるなら、どら焼きも。って感じなのかな。今日買ってきてくれたチョコは私が大好きな『アルフォート』というチョコ。板チョコなんかよりは高級品。ビスケットとチョコの組み合わせでサクッとした歯応えとチョコの甘さがたまらない。しかも今日は大袋を買ってきてくれた。油断すると、過食嘔吐の引き金になってしまう。チョコは高カロリーなので大好きだけれど、食べるのには勇気がいる。でも、折角買ってきてくれたのだから父の前で2枚食べた。1枚ずつ個別包装なので、湿ける心配も無い。大事に頂こうと思う。30分程度の短い時間だったが少し会話をして一緒にリリィと遊んだ。私は幼い頃から高校卒業するぐらいまで父と殆ど会話した事がない。父の仕事上、一緒に居る時間も少なかった。それに、家では寡黙な人だった。酔っぱらうと饒舌になるのは知っていたけど。高校を卒業して1年後には私は家を出てしまって家とは疎遠になってしまった。二十歳頃から、父の事が大好きになって実家に帰るとベタベタしたりしたけど其れは母に甘えられなかったからだと思う。今でも、母と溝があるから父とのほうが接し易い。父には迷惑のかけどおし。自分の娘が自殺を繰り返すだなんて思ってもみなかっただろう。私が母親の事を憎んでいるなんて知りたくもなかっただろう。こんなダメ娘になってしまった事が申し訳ない。私が引きこもっている事も知っているから父は頑張って、話をしようとしてくれる。家での出来事、近所の人の事、世間話。私が暗い顔で返事をしなくても黙って一緒に居てくれる。短い時間でも其の時間は貴重だと思う。帰り際に必ず「何かあったら電話するんだよ」そう言ってくれる。ちっちゃくなった父の背中を見送っていると本当に胸がいっぱいになる。父が帰ったあとの部屋は淋しい。有り難うお父さん。