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2005年07月30日
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テーマ:ニュース(100222)
カテゴリ:カテゴリ未分類
昨日分ブログの続き・日航機事故生存者、落合由美さんの証言を紹介します。

お時間があれば是非こちらのサイトをご覧になっていただきたいと思います。

管制部と操縦室のやりとりが肉声、それと飛行機のたどったルートがわかりやすく解説してあります。

冷静さを保ちながらも「これは駄目かもわからんね」と。
頭から離れません。




 昨日分続き・生存者落合由美さんの証言。


そのうちに酸素が出なくなりました。
いつだったか、私がフライトをしていたとき、お客様から、酸素マスクは何分くらいもつのか、とたずねられたことがありました。
全員が吸った場合、18分くらい、と計算したことがあります。
そのくらいの時間が経過していたのかもしれません。
でも、ほとんどのお客様は、そのままマスクをしていました。

ちょうどそのころになって、私のうしろのL5(最後部左側)ドア受持ちのスチュワーデスが、まわりのお客様に「座席の下にある救命胴衣を取りだして、つけてください」という指示を出しました。
その指示がどこからきたのか、わかりません。
ふだんのコックピットからの連絡はチーフ・パーサーを通じて各スチュワーデスに伝えられたり、急な場合は、乗務員席の電話が全部コックピットと同時につながって受けることができる「オール・コール」でくるのですが、今度の場合は、それはありませんでした。
ライフ・ベストをつけるように、という指示は、機内アナウンスではなく、スチュワーデスの口頭で行っていました。
まず、スチュワーデスが着用して、このようにつけるんです、と教えながら、座席をまわることになっています。
今度も、そうしていました。

前のほうでも、いっせいにベストの着用がはじまっている様子が見えました。
スチュワーデスは口頭で、座席ポケットのなかにある『安全のしおり』を見て,救命胴衣をつけてください、と言いながらまわりはじめました。
私はすぐに座席下から救命胴衣をひっぱりだして頭からかぶりました。

私は羽田にもどれればいいな、と感じていました。
しかし、まだ雲の上で、高度も高いし、ちょっと無理なんじゃないかな、とだんだん不安になってきました。
 
しかし、ライフ・ベストが座席の下にあることがわからないお客様や、わっかても、ひっぱって取りだすことがわからないお客様も少なくありませんでした。
私の近くにも、ベストの場所がわからなくて、取り乱している若い女性のたちがいました。
そのときになって私は、席を立って、お客様のお手伝いをはじめたのです。
お客様はこのときはじめて、座席ポケットのなかの『安全のしおり』を取りだしました。

 
私が席を立ったとき、となりの窓際の席にいた男性のKさんが「スチュワーデスの方ですか」と、声をかけました。
私は「はい、そうです」と答えて、Kさんが救命胴衣をつけるのをお手伝いしました。
とても冷静な方でした。
ご自分のをつけ終わると、座席から手を伸ばして、前後のお客様の着用を手伝ってくださったのです。

 
私は通路に出て、L5のスチュワーデスの受持ちのお客様のお手伝いをして歩きました。
彼女が私の席よりうしろのほうをまわり、私は、前のほう二列分くらいの左右のお客様を指示してまわりました。

 
しかし、このころになると、機体の揺れは、じっと立っていられないほどでした。
激しい揺れ、というのではなくて、前と同じように、左右に傾く揺れなのですが、その角度が大きくなって、座席につかまって二、三歩、歩いて、お客様の座席の下のベストをひっぱって、ちょっと座って、また二、三歩という感じでした。まっすぐ歩いて、あたりを見てまわる、ということはもうできません。

 
救命胴衣は飛行機が着水して、外に脱出してからふくらませることになっています。
機内でふくらませてしまうと、体を前に曲げて、膝のあいだに頭を入れる安全姿勢がとれないからです。
しかし、私の席の周囲では、ふくらませてしまったお客様が、四、五人いました。
男の人ばかりです。
 
こういう場面になると、女の人のほうが冷静なようです。
泣きそうになっているのは男性でした。
これはとても印象深かったことです。
ベストをふくらませてしまった若い男性が「どうすればいいんだ」と弱気そうな顔でおっしゃるんですが、ふくらませてしまったのは仕方ないですから、そのままでいいですと、安全姿勢をとっていただきました。
ひとりの方がふくらませると、そのとなりのお客様もふくらませてしまう。他のスチュワーデスも私も、それに私のとなりのKさんも、「ふくらませないで!」と叫びました。

 
機内にはまだいくらかの空席がありました。
ひとりだけポツンと座っている人は、不安になったんだと思います。
救命胴衣をつけているあいだに、席を詰めて、固まるようになりました。
 
私は何も聞かれませんでしたが、制服を着ていたスチュワーデスはお客様からいろいろ質問されえいました。
「どうなるんだ」「大丈夫か」「助かるのか」。
聞いていたのは男の方ばかりでした。
家族連れの女性は、男の方が一緒だったせいでしょうか、そういう場合でも、男の人がいろいろ質問していました。

 
スチュワーデスはお客様に不安感を与えないように、できるだけ冷静に行動していました。
いろいろ聞かれても、「絶対大丈夫です。私たちはそれなりの訓練も受けています。絶対大丈夫です。」と答えていました。
そのせいもあって、客室内がパニックに陥るようなことがなかったのだと思います。
ただ、笑顔はもうなく、彼女たちの顔も緊張していたのですが。

赤ちゃん用の小さいライフ・ベストが上の棚にあるのですが、このときにはもう、それを取りだす余裕はなく、大人用のベストをつけたと思います。

 
子供の声が聞こえました。「おかあさーん」という声。
大きくはなかったのですが、短い叫びのような声でした。
大人のお客様は叫んだり、悲鳴をあげたりすることはありませんでした。
声も出なかったのかもしれません。不安と緊張の機内でした。

 
全員が救命胴衣をつけ終わるまでに五、六分かかりました。
つけ終わっ方は、となりの方を手伝ったりしていました。
救命胴衣をつけているあいだに、スチュワーデスの声でアナウンスがあったのです。

正確には覚えていませんが、「急に着陸することが考えられますから」というような内容です。
それと、「管制塔からの交信はキャッチできています」とも言っていました。
私の想像では、二階席のアシスタント・パーサーが操縦室に入って、様子を聞いてきたのではないかと思います。
落着いた声でした。

 
揺れはいっそう大きくなりました。
もう立っていることはできないほどです。
救命胴衣をつけ終わってすぐに、ほとんどいっせいに安全姿勢をとりました。
そのときには、眼鏡をはずしたり、先のとがったものは座席ポケットにしまったりとか、上着があれば、衝撃の際の保護になるように着用してください、と指示するのですが、そんな時間的余裕はありませんでした。

 
私は「56C」にもどりました。
L5のスチュワーデスは通路をはさんでふたつうしろの空席に座りました。安全姿勢は、頭を下げ、膝の中に入れて、足首をつかむんです。
うしろのスチュワーデスも私も、席に座って大声で何度も言いました。
「足首をつかんで、頭を膝の中に入れる!」「全身緊張!」。
全身を緊張させるのは、衝撃にそなえるためです。
こういうときは、「・・・してください」とは言いません。
 お相撲さんや、妊娠してお腹の大きい女性の場合、腰をかがめるのは苦痛ですから、逆に背中を伸ばして、脚でしっかり床を踏み、椅子の背に上体を押しつける安全姿勢のとり方があるのですが、このときにはそういう姿勢をしているお客様はいませんでした。

 
安全姿勢をとる直前、私はとなりのKさんに言いました。「緊急着陸して、私がもし動けなかったら、うしろのL5のドアを開けて、お客様をにがしてやってください」と。
Kさんは「任せておいてください」と、とても冷静な声で言いました。
Kさんと言葉をかわしたのは、これが最後です。

 
そして、そのとき、窓の外のやや下方に富士山が見えたのです。
とても近くでした。
このルートを飛ぶときに、もっとも近くに見えるときと同じくらいの近くでした。夕方の黒い山肌に、白い雲がかかっていました。
左の窓の少し前方に見えた富士山は、すうっと後方に移動していきます。
富士山が窓のちょうど真横にきたとき、私は安全姿勢をとって、頭を下げたのです。

 
頭を下げながら機内をちらっと見ると、たくさん垂れている酸素マスクのチューブの多くが、ピーンと下にひっぱられているのが見えました。
マスクをつけたまま安全姿勢をとったお客様が大半だったのかもしれません。
安全姿勢をとった座席のなかで、体が大きく揺さぶられるのを感じました。船の揺れなどというものではありません。
ものすごい揺れです。
しかし、上下の振動はありませんでした。
前の席のほうで、いくつくらいかはっきりしませんが女の子が「キャーッ」と叫ぶのが聞こえました。
聞こえたのは、それだけです。

 
そして、すぐに急降下がはじまったのです。
まったくの急降下です。まっさかさまです。
髪の毛が逆立つくらいの感じです。
頭の両わきの髪がうしろにひっぱられるような感じ。
ほんとうはそんなふうにはなっていないのでしょうが、そうなっていると感じるほどでした。

 
怖いです。怖かったです。
思いださせないでください、もう。思いだしたくない恐怖です。
お客様はもう声もでなかった。
私も、これはもう死ぬ、と思った。
まっすぐ落ちていきました。振動はありません。
窓なんか、とても見る余裕はありません。いつぶつかるかわからない。
安全姿勢をとり続けるしかない。
汗をかいたかどうかも思いだせません。
座席下の荷物が飛んだりしたかどうか、わかりません。
体全体がかたく緊張して、きっと目をつむっていたんだと思います。
「パーン」から墜落まで、32分間だったといいます。
でも、長い時間でした。
何時間にも感じる長さです。
羽田にもどります、というアナウンスがないかな、とずっと待っていました。
そういうアナウンスがあれば、操縦できるのだし、空港との連絡もとれているのだから、もう大丈夫だって。
でも、なかった。





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最終更新日  2005年07月31日 00時41分06秒



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