ラヴソング
音楽から離れていたおっさん(?)が力強い歌声をもつ吃音の20代女性と出会い変わっていく話。吃音の扱いが興味深かった。こんなことに苦しむんだな、というのは当事者じゃないとなかなかわからない。自分の仕事相手でもいるが、しっかりされた方なのであまり気になったことはない。いろいろと葛藤はあったのだろうなと思う(失礼だからつっこんで聞かないけど)。過去と向き合う主人公。吃音と向き合うヒロイン。なかなか出せない想いをカタチにしようと苦しむ展開はよかった。ギョーカイの話と手術の話が余計だった。主人公の過去を考える上で欠かせないとはいえ、安易なシンデレラストーリーとしての小道具でしかない。「都合のいい男が複数見守ってくれる少女マンガ」と納得するには視点は男寄りだった。ガラスの仮面の速水さんだって結構悩んでいるぞ。もっと悩め。 主人公の恋愛に対する虚無感も解決していない。解決しなくてもいいから話の落とし前をつけろ。 たとえば部屋の扱いが雑なのだ。部屋とは他人との距離を測る場所のはずだ。 あれだけオンナと遊んでいた男が簡単にヒロイン入れるなよ大事に思うなら、とか。音楽にストイックであるというならなおさらだろ、とか。パーソナルスペースがない主人公に嘘を感じてしまう。 フクヤマがフクヤマでしかなかったのが話の流れをどっちつかずにしていた。善意が動かしたおとぎ話にするなら年齢差があったほうがよかった。たとえば松重豊ならどうなんだ?なんか飯食いにいきそうだが(偏見)。 まわりに魅力的なおっさん俳優揃えていながらおっさん要素への話のアプローチが薄い。クリエイターとしての野望。おっさんとしての振る舞い。封印して社会人として過ごす日常。過去の別れ。壁がたくさんあるはずなのに、壁をみせない主人公にいらいらした。壁というかもやもやというか、とにかく40代50代が抱えるいろいろだ。捨てられないもの、守りたいもの、まとわりついてくるもの、とにかくそういうそれ。 いや、壁なんかないヒーローなんだよ!といわれたらそうですかとしかいえないのだが。 弱さとか、老いとか。エゴとか、悪意とか。 カッコ悪くならないのが話をカッコ悪くしている。 ここまで長く書いたのは「いろいろケチはついても藤原さくらがとにかく可愛い」ということで許される作品のような気もするからだ。 ラストに背中向けるのは予想つくけど、空一まっすぐでバカっぽいし、あのまま幸せになれるとも思えない。 それぞれの居場所の物語と考えたときに本当にそこでいいの?という問いに対する答えが無自覚なのが許せない。いいひとしかでてこなくて、なんとなく話がすすむけど、ゆるさをねらうほど話の展開もゆるくないという。 実際はあのキャリアなら広平はあの位置に行けないし、さくらたちも自己プロデュース能力低そうだし、なんかみんな不幸になりそうなんだが。 とにかく、もったいない。(♂)