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カテゴリ:古代ギリシア
先日購入した『ギリシア悲劇1 アイスキュロス』及び『ギリシア悲劇2 ソポクレス』を読み終えたので紹介します。
今までギリシア悲劇について概要は知っていましたが、原典を紐解くことはしていませんでした。そこで、残りの学生生活も僅かですし、あまり時間に追われていない今こそそれを読む時であると感じ、購入に至りました。 『ギリシア悲劇3 エウリピデス』も合わせて購入しましたが、エウリピデスだけ現存している悲劇が多いのか、上下巻構成の上にそれぞれ分厚いので、まずはアイスキュロスとソポクレスの感想を書くことにします。 アイスキュロスとソポクレスは、それぞれ対照的な時代を過ごしたと言えるでしょう。アイスキュロスはペルシア戦争と同時期で、サラミスの海戦の華々しい大勝を目撃しており、したがってアテナイ全盛期の栄光溢れる時代に悲劇を書いていました。対して、ソポクレスはペロポネソス戦争によるアテナイの凋落を目撃しています。 この時代の違いからか、アイスキュロスはアテナイの栄光を賞賛する題材を採用しているのに対し、ソポクレスは運命に翻弄される英雄を好んで扱っています。 アイスキュロスの『縛られたプロメテウス』では、ゼウスの横暴にも屈することなく、己の信念を貫かんとするプロメテウスが語られます。ヘシオドスの描くゼウスと、アイスキュロスの描くゼウスでは、全く性質が異なっているように思われます。前者が絶対的な正義の君主であるのに対し、後者は僭主的な独裁者であるからです。 これは、ペルシア帝国とゼウスを重ね合わせた結果なのではないでしょうか。ペルシア戦争の折、神託でも何度もギリシアの窮地が語られました。勝ち目の無い戦いだと思われていたのです。しかし、ギリシア軍は勝利を収め、絶頂を迎えます。これが、ゼウスとプロメテウスの対立の背後にあるのでしょう。ゼウスは結局、(悲劇中では語られませんが)プロメテウスと和解し、「己の息子が自らの王位を奪う」という運命から脱します。ゼウスは横暴で独裁的だった自らを反省し、威厳ある正義の君主へと変貌を遂げます。ゼウスとプロメテウスの和解は、プロメテウス(ギリシア人)の忍耐と正義は、神々の王(ペルシア帝国のような、最強の権力)をも変えうるという、アテナイ人たちの自信だったのでしょう。『ペルシア人』も続けざまに読むと、この考察は確信へと変わります。 オレステイア三部作『慈みの女神たち』も、オレステスの放浪の末にエリニュスがアテナイの守り神となりますし、アテナイ人の誇りと自信に満ちた作品群と言えます。 一方、ソポクレスは、運命に翻弄される人物にクローズアップした作品が多いように見受けられました。『アイアス』では、アテナ女神に翻弄され、アキレウスに次ぐともされた英雄は致命的な恥を被って自殺せざるを得なくなりますし、『トラキスの女たち』では、ネッソスの憎しみとデイアネイラの愛情によってヘラクレスが死にます。『オイディプス王』もそうですが、全てに共通することは因果応報でしょうか。どんなに栄えある英雄でも、逃れようの無い運命の輪に絡め取られれば、破滅へと導かれていくのです。神々に比肩する宇宙最強の男、ヘラクレスであっても。 それと、死者の弔いも何度も語られる重要なテーマになっています。特に『アンティゴネ』にそれは顕著です。ソポクレスにおける死者の弔いは、ホメロス『オデュッセイア』でもその重要性を語られるほどですから、その再確認という用途もあるでしょうが、やはりペロポネソス戦争の悲惨さと関係があると私は思います。 ペロポネソス戦争は、従来の戦争とは一線を画しています。西欧の戦争における「徹底的に虐殺」という概念が初めて登場した戦争といえます。 今までの戦争は、相手を追い返したり、負けを認めさせたりすれば勝ちでありました。重装歩兵戦も形式的で、戦争における様々な礼儀がありました。(ペルシアのような外敵の場合は、これらのルールは適用されませんでしたが) だから、戦争に敗北しても、致命的な損害を被ることはありませんでした。過去の戦争は、言うなれば、都市間の危険なスポーツという位置付けでした。 しかし、ペロポネソス戦争によって、敵を徹底的に破壊し、殺戮し尽くすという概念が登場します。アテナイとスパルタという、どちらも強大なポリスであった上に、それぞれ同盟を従えて、全ギリシア的大戦争に発展したからでしょう。礼儀を守っていては、勝ち負けは判定不可の領域に達してしまったのです。 したがって、ギリシアは見る見る内に疲弊していきます。アテナイの栄光は、病気の蔓延とシチリア遠征の失敗により失墜します。虐殺において、死体が葬られずに野晒しにされるのは目に見えています。 だからこそ、ソポクレスは因果応報と、死者の弔いに注目したのでしょう。因果により破滅を迎える英雄たちと凋落のアテナイを重ね合わせただけでなく、野晒しの死体を見て、おざなりにされた死者への礼儀の必要性を訴えかけたのです。 それでいても、『コロノスのオイディプス』から読み取れるように、アテナイ復活の夢を語るのを忘れない辺りに、ソポクレスの生き様が感じられます。 このように、アイスキュロスとソポクレスは、同じ悲劇作家ですが、読み取れることが異なっていて、非常に興味深かったです。純粋に面白かったですしね!特にオレステイア三部作と、『トラキスの女たち』、『オイディプス王』がお気に入りです!『トラキスの女たち』では、ヘラクレスが死ぬシーンに切なさを覚え、感動してしまいました。笑 ギリシア神話の世界に浸りたい方には、オススメの本です! お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2015.10.17 17:27:30
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