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カテゴリ:古代ギリシア
古典ギリシア語を勉強するようになってから、「古代ギリシア語の各方言にはどのような特徴があり、なぜそのような違いができたのだろうか」と思うようになりました。そこで、古代ギリシア語に関する学術書を検索したところ、出てきたのがこの書籍『歴史言語学の方法:ギリシア語史とその周辺』です。お値段が約6000円もする代物でしたが、即決で購入。最近あんまりお金が貯まらないなーなんて思ってましたが、こんなにも高い本をポンポン買い、ギリシア旅行の前払いや土日を利用した国内旅行も加われば、そりゃ貯金できませんよね・・・笑
さて、この『歴史言語学の方法』ですが、大学で言語学をまともに勉強してこなかった私にとっては、極めて難しい書籍でした。本というよりは論文集に近く、専門用語が解説無しにバンバン出てくるという鬼仕様です。大学では「言語学概論」なる講義を受けたことがありましたが、あの講義が生温く思えます。 各章では、*s消失による二次的長音(代償延長や母音縮約によって生じた長音)発生や、イオニア=アッティカ方言でεの長音がなぜηと表記されるように至ったのかなど、かなりマニアックな論が展開されます。正直、気軽に読める内容では毛頭なく、赤線と付箋で整理してやっとぼんやり分かるレベルでした。 しかし、そこから導き出される結論は非常に壮大なものでした。アイオリス方言をミュケーナイ時代の第3の方言圏由来とする説や、ホメーロスとアイオリス方言の関連性、ギリシア先住民原語における印欧語要素など、従来の学説を覆すものも少なくなく、読んでいて非常に刺激的でした。今まで史学や神話学からの知見に偏っていたのもありますが、言語学からの視点だとここまで見方が変わるものなのですね・・・!頑張って読み込んでも100%理解はできませんでしたが、分かる部分だけを切り取っていても、実りのある情報を得ることができました。 線文字Aに関しても論説が収録されており、未解読ながらも現在分かっていることがまとめられていました。5母音のギリシア語に対して、線文字Aは3~4母音の可能性があるというのは衝撃的でしたし、日本語と同じくrとlの区別が無いというのも驚きでした。ここまで研究が進んでいて、線文字Bと整合することで90%も「読める」のにも関わらず、未だに解読できていないとは、言語学の世界は奥が深すぎます。 このように、『歴史言語学の方法:ギリシア語史とその周辺』は、極めて難解な専門書ですが、それを読み解けば、古代ギリシアの深層に切り込んでくれる非常に壮大な書物でした。私は読むのに苦労しましたが、言語学者ならば楽しく読めること間違いなしの良著です。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2017.05.24 18:33:49
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