『やさしい訴え』
小川洋子(文藝春秋)初めて読んだ小川さんの作品『妊娠カレンダー』は強烈な印象でした。その後、それほど多作というわけではない小川さんの小説に出会うたびに、私は新鮮なショックを受けています。小川さんの文章は、そしてストーリーの舞台そのものは、とても静かで美しく、清流のような清らかに流れます。でも、そのなかに、とてもおだやかに、さりげなく猛毒や鋭いトゲが潜んでいるのです。これは強烈な暴力や悪意、おどろおどろしい描写よりもよっぽど真に迫ってきます。本当に、しんみりと怖く、深い悲しみを感じたりします。だから、私は自分の体力や気力が弱っているときには不用意に近づかないようにしています。それほど、私には影響力が強いのです。さて、先日手に入れた文庫本『やさしい訴え』。これまた、まだ最後まで読んでいないのですが、今回も描写が断然美しいです。そして、そこはかとなく孤独や悲しみが漂います。秋の読書にとても似合う味わい。おすすめです。