|
カテゴリ:カテゴリ未分類
それからまた、彼女とかなりの話をした。
「ねえ、君は誰なんだい?」 『私は私。それ以外の何者でもないわ。』 「そんな事は分かってるよ。僕が聞きたいのは、君の名前。」 『名前?…貴方…そう…忘れているのね。』 「忘れてる?僕は、君と会ったことがあるのかい?」 『ええ。私は、貴方をよく知っている。そして、貴方も私をよく知っているはず。』 「…すまない。僕は、どうやら忘れてしまっているみたいだ。だから、教えて欲しい。君の名前はなんていうんだい?」 『私は私。貴方の中にいる私。名前は貴方がつけてくれた。』 「…?いってる意味がわからないんだけど。」 『いずれ分かるわ。だから、今は深く考えない事ね。』 「分かった。じゃあ、質問を変えよう。 君は、どうしてここにいるんだい?」 『貴方が呼んだから。そして、貴方が選ばれたから。』 「僕が君を呼んだ?記憶をなくしているのに、君を呼んだというのかい?」 『そう。貴方は、私を呼んだ。だから、私はここに来ることができた。嬉しかった。とっても、嬉しかった。』 「…」 恥ずかしかった。 彼女に喜ばれた事よりも、こんなに喜んでいる彼女の名前すら、『僕』が思い出せない事に。 死んだときに、記憶が消えてしまったのだろうか? だが、死んだ記憶は、彼女の声で思い出せた。 ということは、やはり『僕』は僕の意思で忘れたわけではないという事だろう。 ひょっとしたら、他の記憶も何かのはずみで思い出すかもしれない。 思い出したくないような気もするのだが… 『僕』は、また彼女と歩き始めた。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
|
|