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カテゴリ:本
こないだの休みの日、部屋の掃除をしました。
そしたら懐かしいものが出てきました。これっす。 『のらくろ 復刻版』 講談社 田河水泡著 いやあ、凄く懐かしくて思わず読みふけってしまった。 これ、私が中学生の頃に復刻版が発売になっていて、 『今買わないと二度と手に入らないぞ』との思いから貯金を注ぎ込んで購入したもの。 買っといて良かった。今では図書館とかじゃないと読めないのでは。 とりあえず一見の価値はアリです。 天涯孤独のノラ犬、野良犬黒吉(のらくろ)が猛犬連隊に入隊し、 数々の勲功を立てながら出世していくというストーリー。 ブル連隊長やモール中隊長、デカ伍長など味方は犬キャラで、 戦う相手は猿、ゴリラ、カエルなど様々な動物となります。 著者の田河水泡が『子どもが好きなのは犬と戦争ごっこ』ということで、 こういう話にしたようです。 TVアニメも放送されたりしていたので、若い人にも知られた作品だと思います。 私はアニメ版は観なかったので良く分かりませんが、この復刻版は、 当時の時代背景が読み取れてなかなか興味深いものなんです。 中身は戦前に発行されたものをそのまま文庫サイズで復刻したもの。 セリフは旧字・旧かなづかいですが、全ページカラーなのが特徴。 戦前でもカラーってあったんですねえ。何気に凄い。 表現も昔のままなので、当時の雰囲気が良く窺えます。 昭和59年に刊行された講談社のらくろカラー文庫(原本が戦前発表のもの)の 内容は以下の通り。(原本の発行月を併記) 表紙は斬新なレイアウト。裏表紙はのらくろのその時々の階級章になってます。 (写真の上段左から下段右へ) 『のらくろ上等兵』 昭和7年12月発行 『のらくろ伍長』 昭和8年12月発行 『のらくろ軍曹』 昭和9年12月発行 『のらくろ曹長』 昭和10年12月発行 『のらくろ小隊長』 昭和11年2月発行 『のらくろ少尉』 昭和12年5月発行 『のらくろ総攻撃』 昭和12年12月発行 『のらくろ決死隊長』昭和13年8月発行 『のらくろ武勇談』 昭和13年12月発行 『のらくろ探検隊』 昭和14年12月発行 雑誌『少年倶楽部』での連載が始まったのが、満洲事変のあった昭和6年(1931年)。 その翌年から単行本化されていたのですね。 タイトルを見て分かる通り、上等兵から順次昇進を重ねて最後には大尉にまで昇ります。 これがいわゆる『15年戦争』の時期に重なってくるところが興味深い。 特に昭和12年(1937年)の日中戦争勃発後に発行された 『のらくろ総攻撃』・『のらくろ決死隊長』・『のらくろ武勇談』の3作は、 明らかに当時の日本側の主張を代弁しているかたちになっています。 そこには様々な動物キャラが登場しますが、熊はソ連、豚は中国、羊は満洲、 山羊は蒙古を表していると思えます。 豚の国の豚勝(トンカツ)将軍が、そこに駐留する猛犬連隊に腹を立て、 熊の国の支援を頼りに戦争を仕掛けてきます。 豚の国の一部と見なしていた羊の国を猛犬連隊の力で独立させてしまったからでした。 猛犬将校 オイオイ、豚勝将軍 君の方ではまた戦争をする気だそうだがやめた 方がいいぜ 平和のために 豚勝将軍 そんなら羊の国を返すあるか 猛犬将校 君はまだ分からないのだな 羊の国は羊が独立したのだ 犬がとったのじゃないのだ だから豚は豚でおとなしくしていればいいじゃないか 豚勝将軍 そんなら犬は犬の国へ帰れ 豚の国に出しゃばって守備隊なんかに来て呉れんでもよいある 猛犬将校 バカ言え 犬が守備してやらなければ豚の国は熊に食われてしまうぞ その時に困るから守備してくれと君の方で頼んだのじゃないか 豚勝将軍 アハハア そうか それ忘れてた どうか守備隊様々頼むある でも結局豚勝将軍は戦争を仕掛け、犬の国との大戦争に突入します。 その中でのらくろと猛犬連隊が戦場で大活躍をし、豚京(トンキン)城、 豚県(トンケン)城、土古豚(ドコトン)城と次々陥落させていきます。 しかしのらくろは最後には負傷してしまい、それを契機に除隊。 次は大陸へ石炭を掘り当てるための探検に行くところで終わります。 のらくろは力説します。 せっかく大陸がわれわれのためにあけはなたれたのに 人が行かなければなんにもならないのだ 今こそわれわれは大陸にのびる時だ 大人も行け花嫁も行け 義勇軍も行け 開拓だ開拓だ われわれの民族が大陸を開拓するのだ ここでまた興味深いのが、この探検隊。 のらくろを隊長とし、半島の同朋(つまり朝鮮人のこと)金剛、 豚の包、羊の蘭、山羊の汗の五人。 つまりこの五人って、当時喧伝された『五族協和』そのものなんですよね。 『のらくろ探検隊』が登場したのは昭和14年。 既に中国大陸では泥沼の長期戦に入り、ヨーロッパでは二度目の世界大戦が勃発した年。 実際には首都であった南京を陥落させても日中戦争は終わらなかった。 当時の時代背景を探って読んでみると、単なる『犬の戦争ごっこ』のマンガ以上のものも 見えてくると思います。 でも『のらくろ』は実は軍からは良く思われていなかったようで、 紙の不足を理由に太平洋戦争開戦直前の昭和16年(1941年)10月で 連載終了となってしまったようです。 色々と書いちゃいましたが、単純にマンガそのものの方はなかなか面白いです。 当時の『少国民』が夢中になったのも頷けます。 手塚治虫よりも前にこれだけの作品があったというのは、 このまま埋もれさせてしまうのがもったいないくらい。 当時の子どもがどんなマンガを読んでいたのか。 その一端を窺い知れる貴重なマンガだと思います。 ちなみに没年は田河水泡、手塚治虫共に平成元年(1989年)。 昭和と共に去って行ったマンガ家なのでありました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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