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テーマ:お勧めの本(7401)
カテゴリ:本
久しぶりに魂が震える本を読みました。
『届かなかった手紙』 クレスマン・テイラー著 北代美和子訳 文藝春秋 ずっと前に購入してそのままになっていたところ、先日の本整理の際に発見。 100ページもない薄い本なので、すぐに終わるだろうと思い読んでみました。 (買った当時になぜ読まなかったのか、自分でも謎) 1930年代が物語の舞台となります。 アメリカで画廊の経営で成功した二人、サンフランシスコ在住でユダヤ系のマックスと、 祖国ドイツに帰ったドイツ系のマルティンは親友同士。 大西洋を挟んでアメリカ-ドイツ間で手紙のやり取りをしていき、 その手紙の内容がそのままこの小説の内容になります。 つまり、手紙以外に説明的なものは一切ナシ。 アメリカのマックスからドイツのマルティンへの最初の手紙の日付が1932年11月12日。 最初は他愛のない親友同士の手紙だったのですが、ドイツの政情の変化と共に 次第に二人の間に溝が生じていき、中盤以降は驚きの展開となります。 ヒトラーの政権奪取と、ナチスによるユダヤ人政策が物語に大きく影を落としていきます。 20通ばかりの手紙のやり取りを読者は読んでいくわけですが、 『転居先不明』で戻って来た手紙、『届かなかった手紙』の持つ意味を知った時、 背筋にゾクっとするものがありましたね。 (あまり詳しく書いてしまうとつまらなくなるのでやめときます) この本には解説があるので、時代背景や物語をより深く味わうのに大きな苦労は要りませんが、 出来れば想像力を最大限発揮して読んでみるのが良いでしょう。 1時間もかからずに読めるので、そういう点でもよろしいです。 ドイツ文学者の池内紀氏の解説 ・・・それでも作者は断乎として説明を省いただろう。 読者に言いたかったからだ。 目をよくあけ、耳をよくすまして、気づいてほしかったからだ。 日々の報道の裏にひそんでいるもの。 たとえ巧みに美化されて、国家権力によりカモフラージュされていようとも、 目をよくひらき、耳をよくすましさえすれば、 イヤでも気づかないではいられないはずのことだった。 もう一つ驚いたのが、この風変わりな小説が最初に発表された時期です。 『ストーリー』誌1938年9-10月号に掲載されたとのこと。 翌、1939年には単行本として出版され、多くの人に読まれて 『もっとも効果的なナチズムへの起訴状』という評価を得たそうです。 まさにこの年、ヒトラー率いるナチス・ドイツがポーランドに侵攻し、 第二次世界大戦がはじまっていたのですよね。 この作品、当時無名だった女性作家が書いた・・・というのも凄いなあと。 とにかく良い読書でした! しかし、現在品切れ中らしいです。 なんでこういう本が品切れなのか・・・ 本屋さんは悲しい。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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