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テーマ:本のある暮らし(3312)
カテゴリ:本
最後の勤務地では、気軽に話が出来るお客さんが結構いました。
田舎のせいか書店が少ないからか、とにかく本に対する思いを共有出来たのは嬉しかった。 その中でもあるお爺さんは忘れ難い。 背が高く、白く整ったヒゲがまるで映画俳優のようなお方。赤いスカーフがまた似合っている。 なぜか話し方が江戸っ子風で、どこか栃木人ではなさそうな雰囲気が漂っていました。 音楽雑誌『スイングジャーナル』を定期購読していた方だったので、 ジャズの好きなおしゃれな人なんだな~といつも感心して見ていましたが、 いつの頃からか来店するたびに話し込むようになりました。 で、ある時出身は東京なのかと思い切って聞いてみました。 『とんでもねぇよ。半世紀前から市内の○○書店で本を買ってたくらいでぇ。 ただあすこはよ、もう閉店しちまったんだよな』 へえ、と思っていると矢継ぎ早に早口でまくしたてる。 『『スイングジャーナル』な、10代の頃からずぅ~っと買ってるんだよ。 あんた、古い号見てみたいか? 全部取ってあるんだよ。良かったら今度持ってくるわ』 ほうほう、そういうの大好きなので即お願いする。 そしたら1週間と待たずに黒いバッグを持って登場。 『これなんだわ。どうよ、あんた若いから見たことねぇだろ?』 そりゃあ、このお方からすれば若いですよ。 で、その時撮らせてもらったのがこの写真。 1960年5月号。 『スヰングジャーナル』。 半世紀前だわホントに。 しばらくしげしげと観察してしまった。お客が少ない時間帯で良かった。 『映画とかも好きで良く観に行ったなぁ。映画雑誌もたくさん残ってるんだぜ。 ほれ、こんなのも』 おお、『映画の友』。これも古いなあ。 値段も数十円とか時代を感じます。 今ではもう廃刊になってしまった雑誌。 半世紀も大切に保存していたとは余程好きだったのでしょう。 そういやこのお方、CD売場ではジャズをよく買われてました。 在庫のないものが多く、ほとんどが取り寄せのケースでしたが。 それからも来るたびに色々と珍しいものを見せてもらったりしてましたが、 私は退職が決まってしまった。 それとほぼ時を同じくするように、 『スイング・ジャーナル』も63年の歴史に幕を閉じた。 『最近は読みたいものがねぇんだよな・・・』 そう呟いていたあのお爺さん。 お爺さんが毎号買っていたという『平凡パンチ』も『プレイボーイ』も今はもうない。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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