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カテゴリ:本
彼らはなぜ、終わったはずの戦争で命を落とさなければいけなかったのか。
『終わらざる夏 上・下』 浅田次郎 集英社 発売直後、書店店頭で山積みになっているのを見て気になり、 ちらと内容を確認すると、どうやら終戦後の占守島ソ連軍侵攻をテーマにした本の模様。 以前これのノンフィクション本を読んでいたのでますます気になり、購入して読んでみました。 感想。 上・下合わせて920ページほどもあるこの長編、完走するのにえらく時間が掛かりました。 方言、旧字旧かなづかいが多用されているため、なかなかスムーズに 読み進められなかったこともありますが、地理的関係、歴史的事実を確認しながら 読んでしまったので余計にそうでした。 一気読みは出来ませんでしたが、最後まで読み終え、特に最後の数ページを読み終えた時、 読んで良かったと思いましたね。自由とは、平和とはこんなことなんだろうなと。 しかし、それを夢見ながらも果たせず、多くの人命が失われてしまったことは忘れてはならないと。 終戦直前にありえない召集を受けた3人の男たち。彼らが向かった先は、 北の果ての最前線『占守島』。 『ほたるの光』の4番で、『ちしまのおくも、おきなはも、やしまのうちの、まもりなり・・・』と 歌われた、まさに千島の奥がこの島でした。 それだけに、同島守備隊は戦車・砲を多数有する日本軍一の精強部隊として、 また、それまで攻撃を受けてこなかったこともあり、無傷のまま残されていた。 そのなかで迎えた8月15日の玉音放送。 戦争は終わった。 ところが、彼らには矛を収め日常へ戻ることは許されなかった。 その後突如としてソ連軍が武力上陸を行ってきたために・・・ 中心となる3人の主人公以外にも、学童疎開の児童と訓導、都会に暮らす妻、 召集する者される者、田舎の年老いた母、ソ連軍兵士などなど、 多彩な登場人物が織りなす多色刷りの『戦争』が描かれる。 決して十把一絡げでは語りつくせない戦争というものを、 あらためて考えさせてくれる力を持った作品だと感じました。 以下余談。 作中で上陸したソ連軍を迎え撃つ際、こんなやりとりが出てきます。 鬼熊は再びトラックに飛び乗ると、荷台前縁の托荷に対空機銃を据え付け始めた。 『富永軍曹殿-』 もういちど呼びかけると、鬼熊は面倒くさそうな舌打ちをした。 『やがまし』 『お訊ねいたします。日本は国際法に基づいて降伏をしたのに、 なぜソ連は攻めてきたのでありますか』 『殺されてってが、この野郎』 『殺されても知りたくあります。八月十五日をもって、戦争は終わりました。 ソ連軍はそれを知らずに攻撃してきたのでしょうか』 『樺太でも満洲でも、まだ戦は続いとるらしい。止めても止まんねんだべ』 『いえ、それはおかしいと思うのであります。樺太や満洲は噂は、 自分も耳にしておりますが、止めて止まらぬ戦争と、終わってから仕掛けてくる 戦争とでは、同じ戦争でもまるでちがうと思うのであります』 先日、『ソ連軍は南サハリンとクリル諸島(千島列島)を解放して戦争の終結を早めた』 として、ロシアでは日本が降伏文書に調印した9月2日を『第2次世界大戦終結の日』 として記念日とする法改正を定めた、というニュースを読みました。 ロシアは9月2日を終戦の日とするのだから、その日までに手に入れた島は ソ連(ロシア)の支配下であり正当であるという主張。 だから、8月15日以後も軍事的に侵攻したことは問題ないのだ、と。 父祖の血が流されて手に入れた北方領土は返さないぞということなのでしょうか。 スターリンが8月15日以後に、敢えて平和的手段を使わず、 準備不十分のまま、無理やり精強な日本軍のいる占守島に侵攻し、 逆に多数の死傷者を出さしめたことは、島を将来に渡って手に入れ続けるための、 いわばアリバイ工作として自国兵士に死ねと命令したとしか思えません。 そこで斃れた日ソ両軍兵士にとってもあまりにもやるせない、非情な話だなと思います。 それにしても上記のニュース。アメリカがいつも言っている、 『戦争終結を早め、多くの命を救った原子爆弾は正しかった』と同じ理屈に聞こえる のがなんだかなあ・・・ *音声あり 集英社 『終わらざる夏』 公式HP ↑著者の浅田次郎氏のインタビュー映像もあり。 本作品には解説がありませんが、こちらで詳しく読むことが出来ます。 また、占守島の戦いについて、『終わらざる夏』では詳しく語られなかった部分、 戦闘状況や停戦交渉については、下記の本が詳しいです。 『終わらざる夏』のモデルとなったであろう登場人物やエピソードも書かれています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2010.08.13 03:12:08
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