オオムラサキ幼虫(家) (1) posted by (C)ドクターT
オオムラサキは日本の国蝶です。昭和32年日本昆虫学会40周年記念大会の決戦投票で、ミカドアゲハ、ギフチョウを抑えて選ばれました。私が初めてこの蝶に出会ったのは大学2年の夏、19歳の時でした。京大囲碁部の先輩に2人蝶屋さんがいて、そのうちの一人、滝先輩に誘われて、夏休みに信州の方へ採集旅行に出かけました。一人で行って、日野春の駅で滝先輩と待ち合わせ、その付近のクヌギの雑木林を探索しました。今では丁度その辺りに北杜市のオオムラサキセンターが出来ていますが、昭和45年の話ですからまだ何もない時です。クヌギの樹液にたくさんのオオムラサキが集まっていました。それが飛び立つ時にバサバサと音が聞こえ、まるで鳥でも飛び立つようで、今までの蝶の常識を覆すほどの驚きでした。その後、アサマシジミや当時採集禁止になっていなかったミヤマモンキチョウなど採集して回りましたが、忙しくて展翅をせずに年明けまで半年ほど放置してありました。半年ほどして展翅をしようと三角紙を出してみて驚きました。何とまだ生きていたのです。オオムラサキの生命力の強さに感動し、こんな可哀そうなことをしてはいけないなと思ってそれからしばらく採集をやめるきっかけとなりました。
その後、蝶の写真を撮るようになって、オオムラサキと再会したのは北杜市のオオムラサキセンターでした。愛知県にもオオムラサキがいてもおかしくはないと思っていましたが、まだ愛知県で成虫に出会ったことはありません。冬にエノキの根元でゴマダラチョウの幼虫探しをするようになって、あちらこちらでエノキを見ると幼虫探しをする癖がつきました。豊田市でなにげなく幼虫を探していたら、突起が4対ある幼虫を見つけました。ゴマダラチョウとオオムラサキの幼虫はよく似ていますが、ゴマダラチョウの背中の突起は3対です。これはオオムラサキの幼虫に違いないと思いました。確かめるためには飼育して成虫まで育て上げる必要があります。
冬に採ってきた幼虫をエノキが芽吹いたらエノキの葉に移して育てます。最初は、エノキの枝をペットボトルに挿して飼育していました。そしたら、ある日いなくなっていました。よく見るとペットボトルの水の中に水没しているのです。幼虫はあちらこちら動き回りますが、枝を降りてきてそのまま水の中へ入ってしまったようです。移動したいと言う欲求が水没の恐れよりも勝ると言うことでしょうか?次の年は、越冬中、飼育箱に土を入れてエノキの落ち葉を敷き詰めてそこで越冬させるのですが、つい戸外の雨の当たる場所に置いていたら大雨の日に、飼育箱の中に雨が入って大洪水となりまたまた水没。3年目は気を付けて、そんなことはしなかったのですが、春になって庭の小さなエノキに移して観察していたら、写真のように色も茶色から緑色に変身して可愛くなってきた矢先、大雨の日にまたまたいなくなってしまいました。
今年こそ、飼育に成功させようと意気込んで、豊田でまた越冬幼虫を採集して来ました。ポイントは水に気を付けることと、移動して何処に行ったか分からなくなるといけませんので、袋がけなどする必要があるのではと思っています。
この話は、ドクターT作「レクイエム」の中の1節として星空文庫で公開中です。