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京都へ来たのはよいが、教養部が封鎖されていて、正規の授業はなく、囲碁部の門を叩いて、毎日朝から晩まで囲碁三昧の日々を送っていました。そんな時に囲碁部の4回生に蝶屋さんが二人もいて、丁度その時に京都で開かれた日本鱗翅学会へ誘われて聴講に行きました。その当時、『幻の蝶』と言われていたヒサマツミドリシジミの生活史についての発表がありました。記憶が曖昧なんですが、ヒサマツは麓のウラジロガシに卵を産んでそこで育った成虫が山の上の方へ飛んできてテリ張り、求愛行動をするらしいと言う発表だったと思います。京都付近で有名なテリ張り場所として鞍馬の奥にある北山の杉峠と言う場所があり、シーズンには1日数本しか出ていないバスが物干し竿を持った蝶屋さんでいっぱいになると言う状況でした。私もヒサマツを求めて1回生の時から杉峠通いが始まりました。2回生の時からはホンダのスーパーカブを中古で買ってカブで杉峠まで通いました。よいポイントを取るためにテントを持って泊まり込んだことも一度や二度ではありません。毎日30人くらいの蝶屋さんが来て、ヒサマツが採れたと言う幸運に巡り合える人は1日に一人いるかいないかと言った状況でした。エゾやジョウザンは一日に数頭は採れましたが、ヒサマツに出会う幸運は1年目も2年目も訪れませんでした。3年目のある日のことです。もう4時を回って日が傾きかけて来た頃です。「今日も駄目だったか~。」と帰り支度を始めた時です。ポイントに夕日を浴びて、エゾやジョウザンとは違う金緑色に輝く1頭が入って来たと思ったら、何処にいたのかもう1頭がスクランブル発進をしてグルグル卍巴を始めました。アドレナリンが一気に出て心臓が破裂しそうになりながら渾身の一振りで2頭を一緒に網に納めました。近くで裏翅のV字を確認するまでドキドキは続きました。三角紙に丁寧に入れて、峠までの道を戻る途中、出会う蝶屋さんに喜びを悟られないようにするのは大変でした。1961年7月5日、45年前の昔話です。
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