もうひとつの世界

​
日没 [ 桐野 夏生 ]​


【内容情報】（出版社より）
小説家・マッツ夢井のもとに届いた一通の手紙。それは「文化文芸倫理向上委員会」と名乗る政府組織からの召喚状だった。出頭先に向かった彼女は、断崖に建つ海辺の療養所へと収容される。「社会に適応した小説」を書けと命ずる所長。終わりの見えない軟禁の悪夢。「更生」との孤独な闘いの行く末はーー。
装丁:鈴木成一


■ 推薦のことば

筒井康隆
これはただの不条理文学ではない。
文学論や作家論や大衆社会論を内包した
現代のリアリズム小説である。
国家が正義を振りかざして蹂躙する表現の自由。
その恐ろしさに、読むことを中断するのは絶対に不可能だ。

荻上チキ
息苦しいのに、読み進めずにはいられない。
桐野作品の読後には、いつも鈍い目眩が残ると知っていてもーー。
自粛によって表現を奪い、相互監視を強める隔離施設。
絶巧の文章が、作中世界と現実とを架橋する。

石内 都
個人的な価値観、個人的な言葉、個人的な行動をもとにして作品を創る。
それは自由への具体的な希求であり表現だ。
その基本がいつの間にか奪われ拘束される。
『日没』は桐野夏生でさえ越えられない身のすくむ現実がすぐそこにあることを告げる

武田砂鉄
絶望の中でも光を探すことができる、と教わってきた。
だが、この物語にそういう常識は通用しない。
読みながら思う。今、この社会は、常識が壊れている。
どこに向かっているのだろう。もしかして絶望だろうか。


■ 著者のことば
私の中の「書かなくてはならない仕事」でした。
桐野夏生


久しぶりの桐野さん。
図書館の新刊コーナーにあったものを、何も考えずに借りてきました。

うわーーーー。
これは一体……

桐野さんの作品は、読後感が何とも言えないものになるものが結構ありますが。
これは……

なんというか、『希望』なんてものは持っても意味がないと、そんな気持ちにさせられるっていうか。
読んでいて暗い気持ちになるのは分かっているのに、どうしても読み進めてしまうっていうか。

今の時代にどうしても感じずにはいられない……
いくら嫌だと思ったところで、それがどこかで決まってしまえば従うしかなく、もう、反対する気持ちを持っているだけ無駄だと、そう思わせられてる感じっていうのか。

待ってるのは『絶望』みたいな…。

これ読むと、本当に怖くなります。
私も素人ながらお話を書いている身として、ここ数年はコンプラとかヘイト的なことを、無意識に意識してましたしね。
なんか日本語おかしいけど。

これ書いていいやつかな？
どっか問題あるかな？
って、今までより考えること多かったですし。

なにせ、アメブロさんは公開させてもらえなくなるしね。
勝手な向こうの判断で。
物語として、これは表現しておきたいんだよなーと思うことも、向こうがダメと思えば、読んでもらえなくなる。
これは、今もですけど、結構悩ましいところだったりしますから。

それが、この作品はもっと深刻なことになっていて。
強制的に矯正させられて、それに従わなければ酷い扱いを受けて。
最終的には…ってことになっちゃうんだから。

表現の自由っていうのは、なんでもかんでも言っていい、書いていいっていうことではなくて。
だからといって、そこに介入され過ぎちゃうと、制限のある中でしかものを言えなくなったり書けなくなったりして。
そこには、聞き手、読み手の感覚の違いももちろんあるだろうし。
問題のあることを考えたり、してしまう人もやっぱりいるわけで。

難しい問題ですけど。

この本の中のような世界になったら、本当に恐ろしい。
けど、今の日本は、着実にそこに近付いてるって気がしてならないのは、私だけでしょうか。