父上と富士山登山2(牛歩の3,000m突入編)
遠足前夜の小学生状態だった俺は、なかなか寝付けなかったが、それなりに寝ることが出来て、朝5時起床。おちちうえも寝られたよう。 6時に朝食。夕べは3組6人が、この民宿に泊まったようで、1組は俺達が食い始めた後に食い始め、先に食い終わって出ていった。 残る1組はまだ起きてこない。 おちちうえと俺は、じっくり腰をすえ、それぞれ茶碗大盛り3杯ずつ飯を食い、保温ジャーの中の飯が、残りの1組の客には足りないと気付いたところで、おちちうえはトドメにもう1杯食い、そそくさあたふたと食堂を逃げるように後にした。 部屋に戻って窓を開けると、OH!FUJIYAMA!これから挑戦する山が全貌を現し、否応なしにモチベーションが上がる。 朝飯食ってる最中の最後の1組の客に見付からぬよう、宿をチェックアウトし、富士スバルラインへ突入。 スバルライン四合目、標高ほぼ2,000m。既に富士山の懐にはいっているので、全貌は見えないが、なんか雲ひとつなく、いい感じではないか! スバルライン終点の五合目駐車場は既に満車で、2キロほど手前の路肩駐車場に車を止めた。ここから五合目までは、無料のシャトルバスが運んでくれるので、楽チンのチンなのである。 路肩駐車場と五合目で合計1時間半ほどのんびりした。 既に五合目で標高2,300m。それを車で一気に上がったから、高山病予防に体を慣らすためだ。とにかく、60歳台半ばのおちちうえの体への負担を極力減らすことを心がけた。 そして、午前10時、靴ひもをしっかり締め、五合目を出発、歩き始めた。 目指すは八合目の山小屋、蓬莱館だ。 しばらくは、広くなだらかな道なので、おちちうえもペースが上がる。 オッ、俺よりも早い・・・。 あわてて制して、ゆっくり行って貰う。最初を飛ばすと後でバテるし。 六合目、1ピッチは短いが、それなりにおちちうえも足を前へ進める。なんてったって、これまで1年間、この富士山の為に、毎日10kmを欠かさず歩いてトレーニングしてこられたのである。 気合いが入っているのである。七合目、標高2,700m。花小屋を過ぎた辺りから、フラットな道が岩々のルートに変わった。ここで、おちちうえ、ペースがガクンと落ちた。やはり山道に慣れてないせいか、5分おきに座って呼吸を整えている。 負担軽減のため、おちちうえのザックから水2リッターを俺のザックに引っ越し。これでおちちうえのザックは6kgになった。それでもおちちうえのザックには、コンパクトデジカメと、デジタル一眼が入っている。重・・・ちなみに俺のザックは、13kg。小屋泊まり1泊にしてはちょっと重い。水2リッターと、デジタルビデオカメラ、コンパクトデジカメ、隠し歩荷の缶詰なんかが入っている。これにおちちうえの水が加わり、15kg。だいぶん高度感も出てきた。登ってきたつづら折れの道が下に続いている。登りはじめは無かった雲もポコポコ出現してきた。雲と競争で上を目指すのである。七合目から八合目は牛歩のごとく、一歩一歩確かめるように歩を進め、休み休み。標高3,150m、本日の宿、蓬莱館に15時15分、ようやく到着。おお、槍や奥穂とたいして変わらん標高じゃん。これでまだ八合目。恐るべし富士山。おちちうえも意外と元気・・・という訳でもないが、特に高山病の症状も無く、ただ疲れているというだけ。少し安心。眼下は雲だらけ。到着したのが早かったので、まだ誰もいないが、定員200人のこの小屋も予約で満員。自分の肩幅分しかスペースは与えられない。黄色い固まりはシュラフ。アルプスみたいに1枚の布団を2人で使えという状況にはならないのが救われる。期待はしていない晩飯は、やっぱり期待通りにこれだけ。お代わりできるか聞いたら、ごめんなさいと言われた。俺は山に入れば晩飯は1食1.2合の米を食うのだが・・・。1泊2食、8,400円・・・。ビールはもちろん別料金。っと、おちちうえ、カップ酒なんかを飲んでおられる。酒を飲む余裕があるのなら、明日も大丈夫だろな。飯食って、トイレ行って、19時には横になったが、なんとまあ、ひっきりなしにバスツアーの団体客が到着してきて、騒がしい。そして、横になってる人の中にも、高山病になってる人がいて、「きぃもぉちぃわぁるいぃ・・・吐きそぉ・・・」と苦しがってる声が聞こえたり、あちこちで、「プシュー」と酸素缶を使用する音が聞こえたり、酸素缶の「プシュー」に紛れるように、ほんとに、「ぷぅ~」とやっちまう人も複数いたり・・・(気圧が低いと出やすいらしい)すがすがしい登山のイメージとは正反対、ぎゅうぎゅう詰めタコ部屋難民状態なのである。これじゃあ、ナイーブな性格の俺は、とてもじゃないが寝られたもんじゃない。20時を過ぎてもまだ客が続々やってきて、しまいにはいったん消灯していた客室の電灯が再び灯された。一体どんな山行計画なんだろ・・・。21時を時計で確認したとき、またしても団体客が入ってきて、俺も開き直った。『こりゃ寝れん、徹夜登山だ。とにかく横になって少しでも疲れを取ろう。』そう開き直って肩の力が抜けたところで、意識が遠のいていった。明日はいよいよ登頂日、そして下山である。(つづく)