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祈りと幸福と文学と

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もず0017

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もず0017@ Re[1]:福山文学合評会に出席(05/16) 象先生 コメントありがとうございます。 …
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もず0017@ Re[1]:「狼の女房」 「ふくやま文学」第36号に掲載(03/02) 象先生 メアドは変わってないのですが、…

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2018.11.08
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男の腕に ROLEX パールマスター 39 86348SABLV




 夜明け前の雨のなか、南さんの白い軽トラックが、工場の敷地に入ったところでハザードランプを点滅させていた。
 荷台にかぶせたシートに雨がはげしく飛沫をあげている。
 搬入口の照明を灯すと、南さんは窓から顔を出し、軽トラックをバックさせた。
 工場の搬入口といっても、要はコンクリートに囲まれた天井のある駐車スペースで、広さは四トントラック一台が十分おさまる程度。ここにドアが一つあって工場の倉庫に続いている。

 オーライ、オーライ、はいストーップ。

 タイヤが止まる。誘導なんかしなくても軽トラックなら楽に入るスペースだが、これもコンプライアンスというやつだ。
 サイドブレーキを引く音が聞こえ、つづいて軽トラックの運転席のドアが開いた。
 つばのある緑色の帽子に作業服姿の南さんが車を降りてきた。

「今日はゆっくり出てくるのかと思ったよ」

 おはようございますの挨拶のあと、荷台シートのゴムバンドをはずしながら南さんが言った。僕も反対側のゴムバンドをはずしにかかった。

「雨だからですか?」

「そうじゃくて。おまえ今日、誕生日だろ」

 手が止まった。日付がすぐに頭に浮かばない。ひょっとしたらそうかもしれない。
 僕の誕生日。
 そんな日もあった。

「誕生日も忘れてたのか。ますます人間らしい生活から遠ざかったな、西田」

「憶えてますよ、誕生日くらい」

 荷台シートをはぐると、何段にも積み重ねた青いプラスチックケースが現われた。
 そこには、鼻の奥がツンとする、いつものにおいがあった。
 搬入口のドアを開けた。
 一番上のケースを南さんが、かかえ上げる。

 次のケースをかかえようと、軽トラックに近寄った時、南さんが言った。

「やもめ暮らしだからだよ」

「なんです?」

「自分の誕生日さえ忘れるのは、やもめ暮らしだからだよ。早く嫁さんもらうんだな。もう四十も過ぎてんだろ」

「時給八五〇円ですよ。家族なんかとてもとても」

 僕と南さんとでプラスチックケースを搬入口の中に運び込む。ケースの中から、コオ、コオ、と籠った声が漏れてくる。
 いつもよりケースの数が多いと気付いたのは、ケースを運び終える頃だった。
 案の定、すっかりケースを運び終えると、南さんが伝票を切った。

「今日は七十だから、朝は四十。昼からはいつも通り三十だな」

「ちょっと待ってください。七十ってなんですか?」

 僕が悲鳴をあげたせいで、南さんはとび上がった。

「工場長から聞いてないのか?」

「聞いてませんよ。そもそも、いつもの六十でも精一杯なんです。七十なんて無理ですよ」

「そうか。そうかもしれんな。だけど、おれは工場長の指示通りに運ぶだけだから。あとで工場長とゆっくり話をしてくれ。ほら伝票」

 仕方なく伝票を受け取る。
 なんだか、南さんのしわだらけの日焼けした顔が、憎らしげに見えてきた。
 前日の午後に処理した分を積み込んで、南さんの軽トラックが出て行くと、一人ぼっちになる。
 七十となれば、腹を立てている暇もなかった。
 急いで頭からすっぽり被る白い衛生服に着替えてマスクをし、両手に長い手袋を装着、消毒剤を全身に噴霧した。
 処理室に入り、室内の照明を点灯する。
 湯浸け機のスイッチを入れて、注水を開始。
 注水の間、隣接の倉庫にたった今搬入したプラスチックケースの中身の検査にとりかかる。

 積み上げられたプラスチックケースの中身はすべて、生きたニワトリである。

 ニワトリと一言でいっても、永年の歴史を持つ家禽だけに、その種類も膨大である。
 そのうちこの食鳥工場に運ばれてくるのは、この地方特産の銘柄鳥で、赤色コーニッシュと九州南部の地鶏との交配種だ。
 たとえば、ブロイラーと称される白色プリマスロックと白色コーニッシュとの交配種や、JASに記載された地鶏、鶏卵を採るためのレクボンなどは搬入されない。

 プラスチックケースの一つを床におろして、フタを開ける。
 ケースの中のトリたちは、みんな全身が火焔のように赤く、頭部に恐竜時代の名残のような赤い鶏冠を立て、喉もとにも肉髭という赤い皮膚を垂らしている。
 オスは鶏冠が大きく、メスは小さい。
 喉を鳴らしながら、急にまぶしくなった室内を金色の美しい眼で、珍しそうに見まわしている。

 搬入されたトリは全部で四十羽。
 チアノーゼが出ているものはないか、変な病気を持っていそうなものや削痩のひどいものはないか、一羽一羽チェックする。
 全羽のチェックが終わってから、プラスチックケースを三つほど、処理室に運び込む。
 フタを開け、トリの首をすばやくつかんでさかさにし、チェーンと僕らが呼んでいる巨大機械のレールの金具に、その両脚をかける。
 機械といっても、電源は入っていない。
 電源を入れても動かない。
 早い話が故障しているのだ。
 さかさになったトリは、コケコケ啼きながら、赤錆色の翼を打ちはじめた。

「心配しなくても平気だよ。すぐ終わるからね」

 僕は、さかさになったトリにやさしく微笑みかけ、同じような具合に、四羽のトリをつづけてさかさに吊るした。




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Last updated  2018.11.18 22:46:40
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