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男の腕に ROLEX パールマスター 39 86348SABLV >>その一 から読む 左端のトリから作業を始める。 鶏冠と背中がくっつくように、トリの喉を反らして折り曲げ、長い刃物を当てる。 ヒトの骨でいえば頬骨だろうか。 その下あたりにある頸動脈を長い刃物で、一息に斬る。 正確に頸動脈を斬らないと、トリは長時間悶え苦しむことになってしまう。もう一度刃物を滑らせて、トリの首を頸骨ごと切断する。 頭のない胴体をそのまま吊るして放血させれば、トリは次第に絶命する。 ところが今日は、まず最初の一羽で失敗した。 頸動脈を切るつもりが、刃先が深く入りすぎて頸骨に当たり、のこぎりのようにガリガリとひいて、ようやく首を切断した。 しかもそれが三羽つづいた。 トリは苦しそうにくちばしをあけ、舌を伸ばした。 血があふれ出して手袋や衛生服をまっ赤に染め、それでも骨が切れないので二、三度首を持ち直して、ガリガリと刃先をひいた。 トリは脚の指を目一杯開いて痙攣させ、金色の眼のなかの黒い瞳が、問いかけるように僕を見つめた。 本来、こうした作業はチェーンが全自動でしてくれるはずだった。 電気ショックを与えてトリを失神させ、チェンソーで首を切り落とし、湯に浸けて、羽毛を毟り――。だがなにしろ故障しているし、出荷数の減少で、うちの会社は修理する意欲すら失っている。 手作業でやらなけなければどうにもならない。 斬り落とした頭部は、工場によっては利用するところもあるらしい。 たとえば鶏冠はコラーゲンの塊である。美肌に良いからと好むご婦人もいるという。 でもうちの工場では何もしない。廃棄用のバケツに抛り込むだけだ。 つづけて五羽を吊るし、頸動脈を斬り、頭部を切断する。――が、またしてもここで僕はミスをやらかしてしまった。 首を斬り取られたトリの体は、すぐに脱力するわけでない。たいていはしばらくはばたきつづける。 血を噴きながらバタつくので、血飛沫が散る。 まともに返り血を浴びることもある。 僕はその血を頭から思いきりかぶってしまった。 しばらく目が開かなかった。 どんなに気を付けていても多少は血で汚れるものだが、まともに血を浴びるとやはりいい気はしない。 それが始業早々となると、かなり不快な気分になる。 舌打ちをして、四羽目、五羽目と首を斬り落とす。 放血を受ける金属の溝がジョロジョロと音を立てる。 仕事を始めたばかりの頃は、この生臭い血のにおいに貧血をおこしそうになった。 今はなんともない。人はこういうことにも慣れるのだ。 放血の終わったトリから湯浸け機の中に抛り込む。 チェーンに備え付けの湯浸けタンクは高性能だが、何度もいうようにチェーンそのものが故障してプラグも抜いている状態なので使えない。 使用するのは昔から使っている、石臼状の古いやつだ。 湯は七〇度に設定している。 湯に浸けるのは、毛穴をひらき、羽毛を抜き易くするためなのだが、湯に浸けておく時間は、短すぎると羽毛が抜けないし、長すぎると肉が煮えてしまう。 この時間を見極めるのは結構職人芸だと僕は思っている。 平均すれば一分くらいだろう。 湯からトリを上げると、今度は昭和の二槽式洗濯機の脱水槽に似た脱羽機にかける。 これも昔から使っている古い遠心分離機で、チェーンが登場した時にもういらないと思って倉庫の奥に投げていたものだ。 内側にゴムの突起が無数についていて、湯を噴出するノズルが上部に装着してある。 この脱羽機の底面が回転することで、中に入れたトリも勢いよく回転し、羽毛が抜けていくという仕組みだ。 その間にも、プラスチックケースからトリをつかまえては五羽ずつさかさに吊るし、頸を斬り、ジョロジョロ放血させる。 クリックをお願いします↑ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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