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男の腕に ROLEX パールマスター 39 86348SABLV >>その一 から読む だが、なにせ相手は生き物である。 しかも知能の高い鳥類である。 隙あらば逃げようと画策するし、攻撃もしてくる。 ニワトリは飛べないというけれど、はばたきながら浮力を使って逃げれば、ヒトの脚ではそう簡単には追いつけない。 新人の頃は、逃げたトリを捕まえるのに、一時間以上追いかけまわしたこともある。 実際、この時も、プラスチックケースからトリの首をつかんで引っ張り出そうとして、スルリと逃げられてしまった。 あっとあわてた時、さらにもう一羽がケースから飛び出した。 追いかけようにも、一方では湯浸け作業も進んでいて、目を離すわけにはいかない。 二羽のトリは元気に工場内を歩きまわる。 コオ、コオ、コオ、コオ、と首を縦に振りながら、時々床を嘴でつつき、優雅に脚を進める。 トリの歩く姿というのはなかなか優美なもので、とくに鶏冠の大きなオスドリは、胸を張り、堂々とした歩き方をする。 こういう場合、優先するのはもちろん湯浸けのトリの取り出しだ。 ケースにフタをした後、工場内を散策するトリはしばらく放っておいて、脱羽機の中のトリを取り出して、チェーンの金具に吊るしていく。 脱羽機を空にしてから、羽毛の抜け具合を見て湯浸け機の中のトリを取り出し、脱羽機に抛り込む。 それから逃げたトリの捕獲にとりかかる。 気配を察して、ばたばたと逃げるトリ。 大事なのは慌てないことだ。 虫取り網を大きくしたような柄の長い網をとって、埃を立てないようにゆっくりトリに近づいていく。 トリは逃げる。 こちらは関心なさそうな顔で近づいて行くが、トリにはすぐに気取られる。 なにしろヒトと違って、トリの眼は横についている。 全方向に視界が広がっているので死角がない。 なのでトリが何かに関心を向けた、その一瞬の隙を突くしかない。 十分に距離を詰めて、素早く網を振り下ろす。 この辺の勘は経験が必要だ。 網の中でトリは羽毛を散らして暴れる。 まず一羽捕獲成功。 首をつかもうとすると、網の内側からトリは僕の手を鋭い嘴で突いてくる。 最後の渾身の攻撃だ。 だが怪我をすることに怯えてはならない。 落ち着いてトリの首をつかみ、網ごと運んでチェーンの金具に吊るす。 そして残りの一羽の捕獲にかかる。 鳥類は現存する恐竜だと僕は思っている。 トカゲやカメといった現生爬虫類は、恐竜とはあまりに隔たりが大きい。 たとえば恐竜は、ほぼ一日中活発に行動していたと考えられているが、これは変温動物の爬虫類には不可能なことだ。 恐竜は恒温動物か、それに似た体内メカニズムを獲得していたと思われる。 それに現生爬虫類は手脚の付き方からして、恐竜とは大きく違う。 トカゲもヤモリ、カメ、カメレオンやイグアナに至るまで、爬虫類は体幹の側面から垂直に手脚が突き出ている。 これに対して恐竜の手脚の付き方は鳥類や哺乳類と同じだ。 霊長類と海藻類とが根本的に違うように、恐竜と爬虫類とは根本的に異なる生き物だと僕が考える根拠がこれだ。 だが、恐竜一般と現生鳥類との相違は、一部の骨の構造くらいのもので、それも獣脚類の羽毛恐竜ともなれば、差異を探す方が難しいくらいだ。 僕の説が正しければ、僕は毎日工場で、恐竜を処分していることになる。 そして世界中の人間が、恐竜を食べているのだ。 照り焼き、焼き鳥、目玉焼きにオムレツ、チキンナゲット、唐揚げ、とり天、親子丼。みんな恐竜料理だ。 どうにかこうにか、逃げ回っていたもう一羽のトリも捕獲する。 コウー、ココココ、と抗議しながら暴れるトリを、さかさにしてレールの金具に吊るす。 右手に刃物を握り、最初に逃げたトリの頸動脈に当てた。 斬り方が悪くてトリがケエーと啼いた。 ごめん、と謝り、もう一度斬り直す。 血が僕の顔に飛び散った。 斬り落としたトリの首は、白くて薄いまぶたを閉じていた。 うっすらと涙がにじんでいる。 臙脂色の羽毛を深紅に染めた胴体のほうは、わさわさと翼を打っていたが、放血が進むとそれもやがて止まった。 僕は斬り落とした首をポリバケツに投げた。 残りの一羽は吊り下げられたまま、黒目がちな眼をぎょろぎょろと動かしていた。 僕を睨んでいるのか、なつかしい風景に思いを馳せているのか、トリの心は読み取れない。 握った首から温かさや震えが手に伝わってくる。 その首をざっくりと斬って、ポリバケツに投げる。 細い血の滝が、ジョロジョロと音を立てて、金属の溝に落ちて行く。 図書館で読んだ本によると、現生生物で鳥類にいちばん近い生き物は、ワニなのだそうだ。 クリックをお願いします↑ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018.11.18 22:45:52
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