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祈りと幸福と文学と

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もず0017

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もず0017@ Re[1]:「狼の女房」 「ふくやま文学」第36号に掲載(03/02) 象先生 メアドは変わってないのですが、…

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2018.11.22
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>>その一 から読む

 顔に痣を作って登校した裕司に、担任の山本先生は、ちょっと息を飲んだようだった。
 だが、何も言わずに出席をとった。

 山本先生が、裕司と二人で話をしたのは、ホームルームが終わってからだった。

 僕はそれを、遠目に眺めながら、ロマンスを知らないサルという、マミーの言葉を思い出した。

 マミーは、宇奈月の稲作農家で生まれ育ったが、その頃の話をしてくれたことは、一度もない。
 マミーの思い出話の舞台は、いつもロサンゼルスだ。

 歌姫だったマミーは、その街で、いくつものロマンスを経験したらしい。

 華やかなロマンス。
 切ないロマンス。

 マミーの語るロマンスの相手は、いつも西洋人で、音楽家だったり、芸術家だったり、情熱的な実業家だったりした。

 僕はハーフでなく、生粋の日本人だ。
 そして父親が誰なのか、知らない。

 午前のいくつかの授業では、期末考査の答案が返され、答え合わせがあった。
 僕はおおむね、満足のいく点がとれていた。
 中には満点に近い教科もあった。

 裕司はといえば、答案が返されると、すぐに折りたたみ、机に突っ伏して、寝てばかりいた。

 この暑いのに、寝られるわけねえよな、寝たふりだよ、あれ。

 そんな声が、教室の中で、密かに交わされた。
 そんな時、僕はいつも黙っている。
 
 後ろの席の少年が、僕の答案を覗いて、恭平、おまえすげえな、と言った。
 それを聞いて、前の席の少年も振り返った。



 午後の最初の授業は、理科だった。
 まだ採点が済んでないので、次の授業で答案を返す、と男性教師は言った。

 授業の途中で、突然、空が暗くなり、雨が窓をたたき始めた。
 窓際の席の生徒たちが、あわてて教室の窓を閉めた。

 理科の先生は、ゆっくり教壇をおりて、教室の蛍光灯をつけた。
 窓の外が、いっそう暗くなったように思えた。

「進化したから、飛べるようになったのか。
 飛ぼうと志したから、進化できたのか」


 理科の先生は、そんなことを語りはじめた。

「あるいは、飛ぶ使命を与えられた者に、飛ぶための条件が、併せて与えられたのか」

 僕は耳を澄ました。

「ともかくも、現実に鳥は、空を飛んでいる」

 理科の先生はそう言った。
 そして話題を変えてしまった。




 授業のあと。
 階段を箒で掃いていると、カバンを肩から提げた裕司がやって来て、黙って階段に腰かけた。
 裕司がこうして待ってくれる時は、一緒に帰ろう、という合図だ。

(さっさと、先に帰れよ)
 
 ちょっとだけ、うんざりした気持ちになる。 

 自在箒で、丁寧に、階段の隅の埃を、掃き取っていく。
 女の子が、塵取りを持ってくれた。

「恭平のおかあさん、ロス育ちって、本当?」

 一瞬、口の中に、砂の味がした。



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Last updated  2018.11.29 22:49:31
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