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祈りと幸福と文学と

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2018.11.23
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>>その一 から読む

「ほんの一時期、むこうにいただけだよ」

 僕は、掃き集めた砂を、塵取りに乗せた。

「へえ、だから恭平、英語が得意なんだ」

 裕司は、耳のないような顔をして、爪をいじっている。

「着る服も、毎朝おかあさんが選んでるって本当? 服を買うのも、おかあさん?」

「あ、うん、まあね」

「さすがロス帰りよね。自立しててセンスも良くて」

 砂や埃を塵取りに取ってしまうと、女の子は立ち上がった。

「ボクサーにも、少しは掃除するように言ってね」

 女の子は、ちらりと裕司を横目で見た。
 裕司の目の周囲の痣は、たしかに朝より濃くなっていて、試合後のボクサーみたいだった。

 雨は嘘のように上がって、強い陽射しが、アスファルトを焼いていた。

「普通、ロスとは言わねえよな、むこうでは」

 校門を出たあとで、裕司は言った。

「ロサンゼルス」

 僕はうなずいた。

「そうみたいだね。ロス・アンジェルスとか、エル・エーとか」

 マミーは、エル・エーとは言わない。
 たいてい、ロス・アンジェルスと呼ぶ。

 反対にワシントンD・Cは、ワシントンとは言わず、ディー・シーと省略する。
 ラス・ベガスは、ベガスだ。

「朝ごはん、食べてなかったの?」

 僕は話題を変えた。
 裕司は、ちらりと僕を見て、なぜか、薄く笑った。

「晩飯もだよ。おれがすげえ勢いで、給食かきこんでたから?」

 変声期前の裕司の声は、甲高い。

「そりゃそうだよ、あのババ、おれの飯なんか、用意する気がねえもん。
 学校給食、万歳だよ。
 山本のやつ、児童相談所のワーカーに、一応連絡しておくとか言ってたけど、ネグレストでは、児童相談所は動かないんだよ。知らねえんだよな、そういうこと」

 それから突然、裕司が笑いだした。

「恭平、おまえ、マミーのこと、嫌いだろ?」

 とっさに、返事に詰まった。

「マミーの話が出るたび、おまえが顔をしかめてるの、おれはちゃんと見てたよ。
 うちみたいな暴力じゃないけど、
 檻の中で支配されてるのは、おまえも同じだもんな」

 僕は押し黙った。
 マミーは僕を愛してくれている。

 それを「支配」という言葉で考えたことは、一度もなかった。

「だからさ、今日は恭平を、おれのとっておきの場所へ連れて行ってやろうと思ったんだ」

 とっておきの場所?

 木々や草の葉に、まだ雨の雫が残っていて、午後の陽射しを、まぶしく反射させていた。
 道路の窪みのある場所は、まだ湿りを帯びていて、蒸発するにおいが、あたりに立ち込めていた。

 帰宅途中の小学生たちが、ランドセルをカチャカチャと鳴らしながら、すれ違った。

「ボクサーだ」

「あ、ホントだ、ボクサーだ」

 小学生の男の子たちが、くすくす笑った。

 ランドセルの袖から、リコーダーの先をのぞかせている子もいた。
 裕司も笑って見送った。

 横断歩道の信号の、青いランプが、点滅しはじめた。

 左折しようとするタクシー運転手の、いらいらした表情が、フロントガラス越しに見えた。
 街路樹の枝から、セミが一匹、飛び立った。

 コンビニのガラス壁の内側に、雑誌の販促ポスターが貼ってあった。
 それを眺めていて、僕は足を止めた。

 ポスターの上部に、

『進化の旅4 大空への挑戦者』
 と、雑誌名が、大きなゴシック文字で書いてあり、その下に、赤い字で「アーケオプリテクス」とあった。

 文字の下には、爬虫類の頭を持ち、鳥の翼を広げ、木の枝にとまった、尾の長いアーケオプリテクスの想像図が、鮮やかな色彩で描かれていた。

 アーケオプリテクスは、歯を剥き出していて、首を持ち上げ、ギョロリとした眼で、何かを見ている。
 想像図なのに、そこに命も心も、あるみたいだ。

 なにこれ、シソ鳥? これ買うの? 

 横に立って、裕司が訊ねた。
 いつのまにか、ガムをくちゃくちゃと噛んでいる。

 僕は首を横に振り、財布はマミーに調べられるから、衝動買いはできないと答えた。

 それから僕と裕司は、黙って、肩をならべて歩いた。

「マミーを、おれが殺してやろうか」

 ぽつりと、裕司が言った。




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Last updated  2018.11.29 22:52:50
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