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祈りと幸福と文学と

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もず0017

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もず0017@ Re[1]:福山文学合評会に出席(05/16) 象先生 コメントありがとうございます。 …
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もず0017@ Re[1]:「盆トンボ」表彰される(03/11) obasan2010さんへ ありがとうござ…
obasan2010@ Re:「盆トンボ」表彰される(03/11) 「盆トンボ」の表彰おめでとうございます!…
もず0017@ Re[1]:「狼の女房」 「ふくやま文学」第36号に掲載(03/02) 象先生 メアドは変わってないのですが、…

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2018.11.24
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 僕は思わず、裕司を振り返った。

「おれ、いつかババや、あの愛人男と決着をつける。
 いつとは決めてないけど、あるいは今晩かもしれない。
 どうせやるなら、恭平のマミーも、一緒に片付けてやってもいいんだ」

 そして裕司は、僕を見た。

「本当はマミーのこと、邪魔だろ?」

 この時、犬を連れた老人が、自転車で僕らの後ろからやって来た。
 老人は、こちらにまっすぐ突っ込んできて、

「だああっ」

 と、大声をあげた。

 裕司も僕も、あわてて車道に飛び退いた。
 さいわい、車道に車は、走っていなかった。

 それが毎晩アパートの前の公園に来る、あの犬を連れた老人であることは、すぐにわかった。

 はじめて近くで見る犬は、ひどく醜かった。
 鼻が赤く、両眼は充血していて、不潔そうな目脂が溜まっていた。
 口は大きく裂けていて、その両端が、だらしなく垂れていた。

 老人自身も、肝臓を悪くしているのか、黒ずんだ顔色をしていた。

 老人は振り返って、危ねえだろうが、と野太い声で怒鳴って、通り過ぎた。

 なんだクソジジイ。

 裕司が、甲高い声で怒鳴り返したが、老人は行ってしまった。


「とっておきの場所」は、町の店舗や娯楽施設でなかった。

 裕司は、神社へつづく細い石の階段を、のぼり始めた。
 石の階段は、端に手すりがついていて、五十段くらいずつ、三つに分かれていた。

 階段の両脇は、鬱蒼とした暗い木立で、キジバトの声が、無数の蝉の声とともに、梢から降ってきた。
 階段は、両脇の生い茂る木々の枝で日陰になっていて、涼しく思えた。
 それでも、階段をいつまでものぼることで、不快なほど汗が滲み出た。

 蚊柱が立っていて、手で払いながら、僕は、裕司の小さな背中を追いかけた。

 のぼり慣れているのか、裕司は、手すりにつかまることなく、暗く細い階段を、どんどんのぼって行く。
 上までのぼりきると、そこから、薄暗い参道が伸びていた。

 僕だけでなく、裕司にも蚊が群がった。

 古い石の鳥居があり、それをくぐった先に、石の手水舎があった。

 水は出ていなかった。
 黒い蝶が、先を行く裕司のまわりに翻った。

 裕司がまっすぐ足を進める先には、風雨に朽ち果てた拝殿があった。

 賽銭箱は木製だったが、傷みが激しく、石のような色をしていた。
 拝殿の前に来ても、裕司は足を止めなかった。

 参道を外れて、拝殿の横を通り過ぎ、声をかけようとする僕に、裕司は、

「こっち」

 と、手招きした。

 裕司は、藪の中に分け入った。
 よく見ると、藪の中にも、人の行き来を示す、足あとや、滑り止めの枕木などが、みつかった。

 藪はやがて、杉の林に変わった。

 杉の樹木は、どれも幹ばかりが目についた。

 枝や葉は、樹木の高いところに、ちょっぴりついているだけだ。

 林のなかを、十分くらい歩いたところに、遠目にも立派な、杉の神木があった。

 幹は、二抱えでも足りないほど太く、大樹を囲み、高さが三メートル弱のベニヤ板が、四方に立ててあった。
 ベニヤ板は、ちょうど神木を取り囲む塀になっていた。

 この大樹の周囲だけ、肌に触れる空気が異様に冷たく感じられた。
 裕司は、ベニヤ板の塀の前で、足を止めた。






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Last updated  2018.11.29 22:56:08
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