415637 ランダム
 HOME | DIARY | PROFILE 【フォローする】 【ログイン】

祈りと幸福と文学と

祈りと幸福と文学と

【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

PR

Profile

もず0017

もず0017

Recent Posts

Favorite Blog

たますだれ・・・〜 New! jiqさん

21日朝の日記 New! 象さん123さん

前世の記憶を持つ子… タオ5433さん

いい名前 obasan2010さん

歌とピアノを友として cecilia6147さん

Comments

もず0017@ Re[1]:福山文学合評会に出席(05/16) 象先生 コメントありがとうございます。 …
象さん123@ Re:福山文学合評会に出席(05/16) 私もそういう文学の合評会に出席してみた…
もず0017@ Re[1]:「盆トンボ」表彰される(03/11) obasan2010さんへ ありがとうござ…
obasan2010@ Re:「盆トンボ」表彰される(03/11) 「盆トンボ」の表彰おめでとうございます!…
もず0017@ Re[1]:「狼の女房」 「ふくやま文学」第36号に掲載(03/02) 象先生 メアドは変わってないのですが、…

Free Space

Category

2018.11.25
XML
カテゴリ:カテゴリ未分類




>>その一 から読む

「入ってみて」

 裕司が、ベニヤ板の塀の扉を、顎でしゃくった。

 鍵は、かかっていなかった。

 なんとなく不吉なものを、僕は感じた。
 不吉
 というのが不適切なら、
 不穏なもの
 と言い直してもいい。

 僕は震える腕で、ノブを握り、静かに扉を引いた。

 神木の幹には、いろいろなものが、釘で打ち付けられていた。

 いちばん多かったのが、大小の藁人形だ。

 そのほか、人の型に切り抜いた紙や、ぬいぐるみなどもあった。

 履物やストッキングなど、脚に関係するものが、いくつも釘に打ち付けられていた。

 藁人形や、人型の紙には、呪いたい人物のものと思われる、名前、住所、年齢などが、うすい墨で記されていた。

 一つの藁人形に、太い釘が、縦に三つ、四つと、打たれていた。

 赤い水着の、女性の写真もあった。
 女性は若く、海を背にして、笑顔を見せていた。
 その胸元を錆びた太い釘が、斜めに貫いていた。

 写真に記された住所は、遠い町のものだった。

 結婚式の披露宴を撮った写真もあった。
 写真は三枚で、同じ会場で撮影したものらしい。
 三枚とも、新婦の顔に、容赦なく太い釘が打たれていた。

 写真からは出るはずもない血が、新婦の顔から、溢れているように、僕には見えた。

 我慢できなくなって、僕は塀の外に出た。
 あとをゆっくり追ってきた裕司が、恭平の耳もとで、な、すげえだろ、と自慢げに言った。

 僕は吐きそうになった。
 裕司があわてて、僕の口を、手で覆った。

「神域だぞ、吐くな」

 だが、ますます吐き気は強くなった。
 ばか、我慢しろ、裕司の声が、かすれた。

 神木のそばにいることに耐えらず、僕は、拝殿のところまで、口を押えたまま、夢中でもどった。

 草を踏む音を立てて、裕司が、うしろからついてきた。

「あれが、おれの心の中の風景だ」

 僕はうつむいたまま、裕司を横目で見た。

「裕司も、あそこで――」

「しねえよ。おれが親をやる時は、神仏に縋ったりしねえで、直接やる」

 裕司は、僕の先を歩きはじめた。

「はじめて扉を開けて、あれを見た時、おれ、窓の外から、自分を見た気がした。
 おれの中にあるのは、憎しみだけなんだ。
 顔色が悪いな、恭平。
 イヤな気持ちになったんなら、ごめんな」

 参道をもどり、石の階段を、僕と裕司は、黙って下りた。

 蝉はまだ、やかましく鳴いているはずだが、僕の耳には届いてこなかった。

「あれがおれなんだ」

 裕司はくり返した。

「おまえにあれを見てほしかったのは、おれが殺人者になった時、一時的にカッとなったとか、勢いでやったとか、そんなふうに思われたくないんだ。
 おれは、あの神木に打ちつけられた、憎しみそのものなんだ。
 な、おれがマジだと、わかったろ?」

 空は、夕方の色になっていた。
 アスファルトの蒸れたにおいも、もう消えていた。

 裕司は、交差点を渡って、踏切のある夕暮れの街に、消えて行った。






クリックをお願いします↑





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

Last updated  2018.11.29 23:01:31
コメント(0) | コメントを書く



© Rakuten Group, Inc.
X