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祈りと幸福と文学と

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もず0017@ Re[1]:福山文学合評会に出席(05/16) 象先生 コメントありがとうございます。 …
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2018.11.27
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>>その一 から読む

 そのとき、

 犬と老人の自転車が、なぜか道路を横ぎろうと、僕の前で、右から急に曲がってきたのだ。
 自転車が、激しい音を立てて転倒した。

 ぶつかった僕も、勢いよくうしろに吹き飛んだ。
 尻もちをついただけでは済まず、仰向けに倒れてしまった。

 裕司も含めて、踏み切りを待つ人々が、みんな一斉に振り返った。

 老人はしばらく唸り声をあげていたが、やがて天にも届くほどの大声で、
 この馬鹿野郎、
 と怒鳴った。

 僕は上半身をどうにか起こした。

 裕司と目が合った。

 僕は笑顔を作った。
 追いかけて、一緒に商店街へ行くつもりだったと、瞬時に言い訳まで用意した。

 しかし、その必要はなかった。
 僕が何をしようとしたか、裕司の目は悟っていた。

 裕司がふっと笑ったように見えた。

 遮断棹が上がると、僕に一言もかけることなく、裕司は踏切を走って渡った。



 帰宅したのは、マミーが夜勤に出かけた後だった。

 キッチンに、夕食のチキンピラフが用意してあった。
 部屋にカバンを置き、床の上に横になると、すぐに波のような眠気が襲ってきた。

 髪を金髪に染めた、キュウリ顔の裕司の姉が、アパートの階段を下りていく姿を、僕はまどろみの中で見た。

 あいつが帰って来ないのは、当たり前だ。
 あいつは、僕より先に檻を破って、自由な草原へ逃げたのだ。

 そんな思いが、テレビ画面のように、勝手に浮かんでは、流れて消えた。
 いつのまにか、僕は眠っていた。

 右足首に激痛が走って、目が覚めた。
 夕方、転んだ時、どうやら足首をひねったらしい。
 その痛みが、今頃になって、出てきたのだ。

 すでに部屋は、真っ暗だった。

 キッチンのチキンピラフを思い出し、這って、キッチンへ移動した。
 床にすわりこみ、冷えたチキンピラフをかきこんだ。
 煎餅がサルのエサなら、この不味いチキンピラフだってサルのエサだと、僕は考えた。

 それから僕は、足首の痛みに耐えかねて、気を失った。

 仕事から帰って来たマミーが、キッチンに倒れている僕を見て、悲鳴を上げたのは、翌日の昼近くだった。
 連れて行かれた整形外科で、僕は、右足首捻挫と診断された。

 足首を包帯でぐるぐる巻きにされ、マミーに手を引いてもらって、ようやくアパートの階段をのぼった。

(この女も、早く死ねばいい)

 腹の中でそう考えることが、僕には快感だった。

「なに?」

 マイーが階段の途中で立ち止まって、僕の顔をのぞきこんだ。

(息がくせえよ、ババア)

 そう言ってやりたかった。
 僕は笑顔を作った。

「マミーの手は、あたたかいな」

 マミーは、くすぐったそうな表情を浮かべて、なに言ってるのよ、と笑った。



 徹夜明けのマミーが、ようやく仮眠をとりはじめたので、僕はそっと壁に手をついて、コーヒーのにおいのするキッチンに立った。

 こっそり、米を研ぐ。
 転ばないよう、流しに体重を預ける。
 音を立てないよう、慎重に。

 だが、それでもかすかな物音を聞きつけて、マミーが眠そうな顔で、部屋から出てきた。

「何してるの? 寝てなきゃだめでしょ」

「ごはんを炊くんだよ」

 僕は、マミーの顔を見ないで答えた。

「塩おにぎりが食べたいんだ」

「おにぎり?」

 マミーは、素っ頓狂な声をあげた。

「そんな不潔なもの、アメリカの子どもは食べませんよ」

 だからなんだ。
 僕は腹の中で、嘲った。

「お腹が減ったのね。マミーが、ツナとレタスのサンドイッチを作ってあげるわ」

「塩おにぎり食べたいんだよ」

「恭ちゃん、あなたはマミーの子なのよ、サルの真似はよして。ね、マミーのサンドイッチは――」

「僕は 不潔なおにぎりを食べるんだ!」

 空の鍋を振り上げて、思いきり、流しの縁に叩きつけた。
 思った以上に大きな音が響いた。

 十三年間、僕を閉じ込めてきた、愛の檻。
 その檻は、実にあっけなく壊れた。

 壊してみて、その脆さに、拍子抜けがしたほどだ。

 マミーは一歩後ずさった。
 目がうろたえている。

 快感だった。
 誰もかれも、僕から遠ざかればいい。

 生まれてはじめて、僕は、自由に呼吸をしていた。(了)





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Last updated  2018.11.29 23:11:59
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