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カテゴリ:詩集「ナーハム」
ナーハム
ナーハム、ナーハム(慰めよ、慰めよ) わたしの民をと おまえたちの神は語られる 「イザヤ書」40章1節 1 風邪をひいてしまったので 珈琲豆を挽きます あさの雨はドリップしたての珈琲が似合っているので 眼のなかのガラス窓に これぼる冷たいしずくを集めて ドリップした珈琲が 似合いすぎているので 風邪をひいてしまって あさのつれてくる雨には 僕の部屋の七つ目のドアから 忘れていた旅人がひょっこり帰ってきそうだ ナーハム、ナーハム 2 僕の知らないうちに客が来て 僕の知らないうちに帰って行く 僕の毎日はいつもそんなふうだ 3 とじる翼 雨が横たわる 冬のビルのように心細い 欲望のかたち 空き缶が転がっているような ありがちな、荒廃した風景の表紙に 草色の文字を書き込む 僕は赤い砂漠を知らないので 赤い砂漠で煮込む、山羊の乳をしぼったチャイを知らないので 透明な水だけを飲んでうまれてきた 僕の歩いてきたあとには 水たまりができて やがて乾く はじめからなかったみたいに 愛されることが できないみたいに 4 空がこんなに青いのなら 心くらい、それできれいになるのではないか 汚れたり 落ちたり したがるのは なぜ? 海を見たことがないから? 5 鳥たちがどうして北へ帰ってしまうのか 僕たちがどうして一人になることを選んでしまうのか 風が僕にやさしかったことは、一度もない 6 村は、村の社会は、僕らを抹殺し あるいは抹殺したみたいに 鎮守の杜には古い石の祠があって 青い苔のむした語り伝えと言い訳と 積年の怨念が塗りこまれていて そうしたなにもかもを僕らは伝説と呼んで 底なしの宇宙へと放した 舞い上がった、小さな鳩 軽くなった僕らはそうして ナーハム、ナーハム またしたたかに嘘を、つき始める 7 もういいから、そこで賢そうに黙っていろ 知っているけどここでは言わないという顔をしていろ 林檎は本当は赤くないんだという顔をしていろ いつでも告発する用意があるという目つきをしていろ 8 いつまでも死なないとすれば 後世の人たちに迷惑をかけてしまうという 僕らには死ぬべき道義的理由がある だけど理由があるという理由で 死ぬやつなんか見たことがない 9 神の声は、嵐のまっただなかでこそ 聞きとるもの ナーハム、ナーハム 【PR】----------------------------------------------- 【送料無料】 聖書 聖書協会共同訳 引照・注付き SIO43 / 日本聖書協会 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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