カテゴリ:演劇
久しぶりのお芝居は、劇団ここからさんの本公演。
チラシの説明で、題材が重いことは知っていたのですが、 役者さんの上手さのおかげで、一層ズシンと心に刺さるお芝居でした。 題材が題材だけに、不愉快な表現も混じるかもしれませんが、ご理解ご容赦ください。 ============ 舞台は、性犯罪の被害を受けた経験を持つ4人の女性が共同生活を送る山奥のロッジ。 そこにオーナーの孫娘であり、実家の雑貨屋を手伝う女性が訪ねてきますが、生憎の雪で帰れなくなってしまいます。 折悪しく、メンバーの一人は、裁判を終えて帰ってきたところ、しかも、裁判結果が思わしくなかった上に、裁判員の一人が知り合いであったことに傷ついていました。 語られる現在の裁判制度の欠陥、加害者の背負う罰の軽さ、被害者の人権への無配慮。 そんな中、一人の男性遭難者が、寒さに凍え、身動きも取れない状態で、助けを求めて訪ねてきます。 遭難者を助けるのが当然と思っている雑貨屋の娘の前で、何もしようとはしない4人。 あまつさえ、遭難者を見殺しにしかねない状況の中、雑貨屋の娘は4人の説得を試みますが、助けて欲しい時に助けてもらえなかったそれぞれの心の痛みが、それを邪魔します。 膠着する「議論」の中、雑貨屋の娘はある行動に出ます。 その行動は、その後の彼女達の人生を変えていくきっかけとなっていくのでした。 ============ とまぁ、あらすじを書いたわけですが、いや、本当に重いお芝居でした。 明るさの見えるラストの展開に希望を見ることは可能ですが、とはいえ「午後からまた新しい人が来る」という、リアルな重さも同時に描かれるわけで。 作品の中でも言及されますが、「男性社会」の中で積み上げられてきた法律体系の下では、被害者、特に性犯罪被害者の人権に配慮しきれていない部分があるのは当然なのかな、とも思います。 ---------- 先日、どこぞの野球選手が、殺人の被害にあった女子高生を揶揄して「自業自得」と呟いて炎上したそうですが、相手の同意なくそのような写真を流出させるのこと自体が言語道断ですし、バラ撒くことを脅し文句にするのは立派な恐喝であって、殺した方、脅した方、バラ撒いた方が悪いのは、自明の理。 例えば、被害者を自分の彼女に置き換えて、元カレが写真をバラ撒いたとしたら…この選手は、まぁ、それを理由に別れるか、彼女に対して暴力を振るうのでしょうね。元カレを糾弾するのではなく。 選手として何流なのかは存じませんが、人としてはそのレベルだと言うことです。 恐ろしいのは、この選手の考えに共感するような人間が少なからずいること。 彼女の脇の甘さはあったのかもしれません。それでも、殺される謂れはない。 そして、この話は、殺人を媒介にしているからこそ公に語られていますが、性犯罪の被害は、もっと陰湿で危険、悪質なものに他なりません。 痴漢の冤罪事案や、女性車両の導入を指して、逆差別等を堂々とのたまう輩もいますが、被害者の気持ちへの配慮、サイレントマジョリティに「思いをいたす」ことの出来ないそういう考え方には、正直、怖さを感じます。 ---------- さて、肝心のお芝居のことですが、何より、役者さん達に、心からお疲れ様と言いたい。 役を演じるのは、ただでさえエネルギーのいる行為ですが、今回のお芝居は、それぞれの役が「重い過去」を背負っている以上、そこまで背負う必要があります。 話を聞くだけでもつらい内容なのに、それを自分の口で、自分の体験として語る。 演じててつらかったろうな、と思います。 (ただ一人、そこまでの重い「過去」を背負わない守永さんは、方言指導入ってましたし(笑)) そして、さすがの斉藤さん。 唯一の男性役で、ほとんどセリフがないにも関わらず、その存在感、「復活」してからのセリフの冴えは本当に見事。 男性出演者は斉藤さん一人ですが、演出も、男性が演出するからこそ難しい部分は多々あったのだろうな、と。 ---------- そして、ホールはアラベスクホール。 コンサート主体の、船底みたいな天井が特徴のホールですが、声の響きに微妙な反響があって聞きにくい部分があったのが残念。 音楽ホールは芝居用ではないのだなぁ、と思いました。 以前見たのは音楽とか子供のミュージカルとかだったからなぁ。 しかし、こんなホールだからこそ、ほとんど音響を使わず、澤田さんによるギターの生演奏を幕間に挟む演出が活き、暗くて重い物語の幕間に、温かな演奏が心を和ませてくれました。 ============ いろいろ考えさせられる、本当に「社会派」なお芝居でした。 正直、次は、カラッと明るいコメディが観たいです。 (アンケートでは「推理劇」に○しましたけど。) ============ 劇団ここから 第28回公演 『春の遭難者』 @アラベスクホール (兵庫・加古川) 2013/10/13(日) 作;滝本祥生 演出;戸野本和久 出演;守永知世 / 田口陽子 / 冨田京子 / 橘美恵子 / 井川瑛美 / 斉藤宰(フリー) ギター;澤田繁一 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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