カテゴリ:よしなしごと
古典の世界の倫理観は、今とは違うもののはずです。
だから、我々の感覚からすると突飛な内容であっても、 それがテキストに書いてあったら「正しい」のです。 もっと言えば、現代国語でも、感情移入できるかどうかは別問題で、テキスト通りに登場人物の心情を読むことが基本です。 さて、前回からの続きで、2013年度センター試験から、 古文の問4の選択肢を見ていきましょう。 「「雲居雁(くもいのかり)」の夫である「夕霧(ゆうぎり)」は、妻子を愛する実直な人物で知られていたが、別の女性(「落葉宮(おちばのみや)」に心奪われ、落葉宮の意に反して、深い仲となってしまった。 以下は、これまでにない夫の振る舞いに衝撃を受けた妻が、子供たちのうち姫君たちと幼い弟妹たちを連れて、実家へ帰る場面から始まる。 これを読んで、次の問いに答えよ。」 こんなシチュエーションを前提に、 夫の心情について選ぶのですが、 =========== (1)妻をずっと実家に居座らせるわけにもいかず、 一方でおとなしく自宅に戻りそうにもないので、 どうしてこんな女を良いと思ったのかと、 妻をいまいましく思っている。 (2)妻には出ていかれ、落葉宮は落葉宮で傷ついているだろうと想像され 心労ばかりがまさるため、 恋のやりとりを楽しいと思っている人間の気が知れないと、 嫌気がさしかけている。 (3)眠っている我が子の愛らしさに、 この子を残して家を出ていった妻の苦悩を思いやって心が痛み、 自分はつくづく恋愛には向いていないのだと悟り、 自分の行動を反省している。 (※ 妻が連れて行ったのは小さい子らで、大きい子たちは家に残っています。) (4)落葉宮と深い仲になったものの、 不思議と落葉宮と妻との間で心が揺れ、 妻の乱れる心の内を思うと、気持ちが落ち着かず、 自分の行動を後悔して、死にそうなほど苦悩している。 (5)落葉宮を愛していても、妻がいる限り先が見えず、 落葉宮も現状に悩んでいるかと思うと心穏やかではなく、 世間の目も気になって、 妻との生活が嫌になり、別れたいと望んでいる。 ---------- まずからもって、(1)の選択肢。 自分が不倫しておいて、「いまいましく思う」ってどうなのよ、って話ですが、世の中、自分勝手な人はこんなことを思ったりしなくはないのでしょう。 でも、それを高校生に選ばせるの?って思います。 (2)も、「恋のやりとりを楽しいと思っている人間の気が知れない」って、ただの八つ当たりですし、自分が不倫愛にうつつを抜かしておいて、何を言っているんだ、と思います。 (3)(4)は、まぁ、身勝手は身勝手ですが、現代でも通じる反省かな、と思います。 (5)は、なんか、この先、犯罪小説に発展しそうな展開ですね。 答えは、前後の文脈と、傍線部の訳からして、(2)なんですけどね。 心労の種を蒔いたのはお前だろ、って話です。 ========== しかも、この夕霧(夫)、落葉宮は会うことすら拒否していたのに、無理やり押し入って、不倫に及ぶ、という非道っぷり。 その後も拒否する落葉宮に、「もう噂になっているから、僕を拒否したら、余計に世間体が悪いよ」と言ってのけます。 そんな野郎に「恋のやりとりを楽しいと思っている人間の気が知れない」って言われてもね。 =========== 『源氏物語』を書いた紫式部はもちろん女性ですが、当時の倫理観がどうであったのか、誰にどんな感情移入をしながら書いたのか。 また、当時読んでいた女性がどう感じたのか、「このクズ」なのか、「私もこんな人に言い寄られたい」なのか。 まぁ、現代の倫理観に照らすのは、古典の理解の仕方としては、良くないこと、なんですけどね。 このお話は、問5に続きます。 ※前回と同じく、わかりやすくするために、選択肢に少し手を加えています。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
January 28, 2014 11:28:47 PM
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