『トゥルーへの手紙』
犬を主人公にした、フォト・エッセイならぬ、ムービー・エッセイ。トゥルーは、写真家にしてこの映画の監督、ブルース・ウェバーの飼い犬です。エッセイなので、特に筋はありません。冒頭、監督が言うように、「一種のホーム・ビデオ」。それが立派に「作品」として昇華されているのはさすが。何より、「絵」が美しいのです。いくつもの詩が朗読され、様々なエピソードが、犬の映画が引用されます。それは、平和に向けたメッセージ。特にマーティン・ルーサー・キングJr.の演説音声は、すごく力強くてメッセージフル。音楽のセンスも最高!オープニング近くでかかっているのは…「荒城の月」のジャズアレンジバージョン?パンフレットを見たら「Japanese Folk Song」となっていました。音楽に力があるから、映像も引き立つ。映像が美しいから、音楽が引き立つ。素敵な関係性だなぁ、と思います。--------------------------全体的に、「良かったなぁ」なのですが、農場のおばちゃんのシーンには、「アメリカ的マッチョ」に対する違和感を感じてしまいました。このおばちゃん、明るくて良い人、なんでしょうけど、その発言には首を傾げざるを得ません。「子供たちが投げ縄で遊んで、他のお客さんを標的にしてたら、お店を追い出されたのよ」って、明るく語ってますが、いや、そりゃそうでしょう。「お母さんが一番楽しんでいたじゃないか」「そうね、ふふふ。」って、いや、あんたたち、迷惑親子ですから。しかも、全然悪びれていないし。「自由」と「無法」をはき違えてないか?「働かない犬なんて、蹴っ飛ばす以外に役に立たない」というセリフも何だかなぁ。--------------------------このおばちゃんが9.11に関連して「いつ死ぬか分からないって恐怖」について語ってましたが、それを日本人は第2次大戦の末期にはずっと感じさせられていたのですよ。アメリカ人は、防空壕がある生活なんて、考えたことないでしょう?(日本やナチスの犯罪については今回は触れずにおきます。)そして、その恐怖をアメリカはイラクに与えた…与え続けているのですよ。「家宅捜索」として、勝手に家に外国人兵士が侵入してくる恐怖、犠牲になった民間人、刑務所で横行する蛮行。おばちゃん、気付いていますか?想像できていますか?「誰が悪いのでもない、悪いのは戦争だ」って言うのは簡単ですが、私はこのおばちゃん的な「想像力の欠如」を弾劾します。自分が傷つかないと、いや、自分が傷ついても、他人の痛みを知ることが出来ない、そんな人々が戦争を助長しているのだと。その意味では、私だって戦争に加担しているのだ、という自戒を込めて。--------------------------『ボーリング・フォー・コロンバイン』でしたっけね、ベトナム戦争の退役軍人が、イルカの保護運動をしている話。彼にとっては、黄色人種よりイルカの命の方が尊いという歪みが、映画の中で語られていました。今回の映画の中で、犬が特権的に扱われれば扱われるほど、それと同種の違和感を、ほんの少し感じてしまいます。いや、もちろん、それで良いのですよ。私だって、犬は大好きですし。別に、イラクで苦しむ人々の映画を撮れとか、そんな野暮なことは言いません。声高に「反ブッシュ」を叫んでみせた『華氏911』より、多くの人の心にじんわり伝わる映画でしょうし。だから、そうですね、感想、というより、自戒ですね。「この映画に感動する前に、忘れてはいけないことがある」という。--------------------------今朝の新聞に、「災害とペット」の話が載っていました。地震、台風、その他の災害が起きたとき、避難所ではペットをどう扱うか。「ペット可」の避難所を作る…ペットの食料は?ワニは避難所に連れてこれるのか?先日のアメリカでのハリケーン被害の時、お金持ちの方々は「ペット可」のホテルに避難したそうです。その気持ちは、分かります。しかし、その一方で、多くの貧しい人々の命が奪われてしまった現実。その時、自分に出来ることは何なのか、自分がその立場なら、何をするのが「正しい」のか。考えなければならないことが、あまりにも多すぎて、私の貧しい想像力は悲鳴をあげそうです。この映画の中で、ジョン・レノン&オノ・ヨーコの、あの言葉が引用されます。「War is over.....if you want」- 「戦争は終わった! もしあなたがそう望むなら」考えること、想像すること、願うこと、そこからしか、何も始まらない。考えて、想像して、願って、そして何をするのか。何が出来るのか。Think - Imagine - Wish - Do the Action.世界が平和でありますように。世界が平和になりますように。--------------------------青山で、この映画に関連して、ブル一ス・ウェバーの写真展をやっていたのですが…終わってしまいましたね。写真展の感想はこちら。-------『トゥルーへの手紙』 - "A letter to True"2004年 キネティック 78分http://www.excite.co.jp/cinema/special/alettertotrue/index.dcg監督:ブルース・ウェバー出演:True,Palomino,Sailor,Polar Bear,Big Skye and so on★★★★☆