ひまじんさろん

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• 平井さんの記事のコメントのつづきです

  かざはな【山桜】さん 　　2011年03月17日 10時33分 世界の人々に対しても日本国民に対しても誰が、責任を取るのでしょうか？ とうとがなし☆さん 　　2011年03月17日 11時35分 衝撃を受けました。でも　これが真実なのでしょうね。途中で涙が溢れました哀しみ、恐怖、衝撃・・・そんな言葉では表せない気持ちです。これから　生まれてくる子どもが　可哀想で。。 micchiさん 　　2011年03月17日 14時52分 本当に祈らずにはいられません。厳粛な気持ちになります。何故私達は知らずに日々の便利さに慣れてしまったのでしょう。これからどうしたらいいのでしょう。 みいちゃんさん 　　2011年03月17日 17時01分 恐ろしい日記読んでしまいました。ど素人の集団なんですね。事故が起きて当たり前。怖い世の中です・ 流星４６４９さん 　　2011年03月17日 20時11分 言葉にならない・・・。情報をありがとうございます。 とんとんさん 　　2011年03月17日 21時33分 怖いお話です。でも、わかります。本当に怖い、ということが…私は昔、原発に反対して、署名運動なんかしていたひとりです。でも、時に流され、便利さに慣れ、いつの間にか、反対運動は恥ずかしいことのように観られ、自分でもうやむやに…チェルノブイリのことが、頭から離れません。本当に、怖いです。今、緊急地震速報です。 かよちゃんの趣味さん 　　2011年03月18日 00時01分 平井さんの日記読ませていただいて驚き間はした、７５歳にもなって知らずにいましたが説待っている事にかわりないって事にも各号があって夕ことでとばかしは言える見ことでいない事なんですね。之で電子視力がこのまんま閉鎖されたならよほどの補選にまぐれられない事にはかわりないこととおもうのですもね。言っていたことが現実になってしまいましたね之からわれわれはどうしたらいいのかもわかりませんですね。 おいちゃんさん 　　2011年03月19日 01時08分 人は初めての事態に出会うと、それをなんとか自分の思考体系に取り込もうとし、ときに取り乱す。それが顕著なのは他人の死に出会った時。または肉親が重篤になった時。そして、自分が他人に対して何も出来ないことがわかる。至る所の日記に、祈るという文字がある。でも、年賀状のつもりで祈るという文字を使うのは浅はかである。（この日記の投稿に向けてではない、前の記事の文脈でそのようにしか表現できない応答だろうから）深く考えもせずに、祈るという言葉を使うな！祈るのであれば、それしか出来ないと自覚して祈るなら、それでいい。危機の中に身を置いている人、他の人間の祈りは聞こえない。もし、聞こえるとしたら、神の声、声とはいえない、言葉である。言の葉である。聞こえなくても、人は危機に立ち向かう。ふぅこさん 　　2011年03月20日 03時49分 アメリカの見解と日本の報道が大きく違うことが不安です。先日、アメリカ人の友人が日本に来ましたが、両親に死にに行くようなものだと、日本行きを大反対されたそうです。 やっくんさん 　　2011年03月20日 03時57分 陣頭指揮を執る総理だけでなく与野党議員は原発だけでなく避難所にも行って惨状を自分の目で確かめることも必要だと思いますが、議員全員が行く必要はないでしょう。今回の地震対策・原発対策に関わる議員だけでいいのではないでしょうか。加えて菅政権の対応が遅いと批判している野党の幹部議員も東京で地震情報を得ているだけでなく、現地入りして、そのうえで建設的批判もしくは提言をすべきでしょう。野党は責任を民主党政権に転嫁したがために、直接この問題にかかわることを拒否しています。協力はすると言っていますが、私がマスコミなどで得た情報だけを思い起こせば、具体的な対応策の提言は皆無に等しい、つまりこの非常事態に政権を支える具体的行動すら行っていません。菅政権の対応を高みの見物で、国会が開催したら一斉に政権を批判し始めるのでしょう。菅総理の外国人献金などに加えて政権を追い詰める材料集めに躍起になっているかもしれません。こういう未曾有の国家機器さえも政争の具にしようとする野党、特に自民党の対応には苛立ちを超えて怒りさ覚えてしまいます。一方与党である民主党も、枝野官房長官は良くやっているといます。日増しに顔つきが変わっていくのが見て取れます。他の議員は確かに現地視察には行っていません。民主を擁護する訳ではありませんが、特に閣僚が何人も現地入りすれば内閣の機能不全に陥りかねません。現地入りするのであればその辺も考慮して行動すべきでしょう。発表される数字は正確な数値ではないものも多く、特に原発関連の数値は概算値が殆どでしょう。そういう意味では必ずしも実態を現わしているとは言い難い側面はあります。枝野氏が発表する数値も国民を安心させるためのものでしょうが、それを知る術のない我々はその数値を取りあえずは信用するしかないのではないでしょうか。その数値の受け取り方は人それぞれであり、また日頃使い慣れた、または全く知らない数値単位ですから国民が聞いても理解し難いところもることも事実ですから、ごまかそうとすれば容易にできます。しかしながら、原発問題が鎮静化すれば、それは必ずばれます。民主党・経産省・東電にとっても、そうなれば致命的なダメージを受けることは分かっているはずです。因みに町全体が避難区域に入っている双葉町は全員退去しました。実際の支援で頑張っているのは政府より自治体の方であろうと思います。政府の役割、自治体の役割、自衛隊・消防・警察の役割それぞれ異なります。その総合調整機能が正確な情報が得られないこともあって上手く機能していないところも散見されることは事実だと思います。

  2011.03.16

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  被災地は日本、ある原発技術者の「遺書」

  地震・津波で壊滅的大被害に遭われた方々にはお気の毒で、申し上げる適切な言葉が見あたらない。月並みだが、ただお見舞い申し上げるとしかいえない。すでに宮城の文芸仲間を通して申し出てあるが、もし、家を失った被災者でしばらく地元を離れて信州で暮らしてもよいというご家族があれば、ご連絡を頂きたい。空いている建物と暖房器具、山荘で使っていた10組ほどの寝具がすぐに提供できる。被災地では食料や燃料も不足しているという状況も聞いた。阪神大震災の直後に被災地に車で運んで思ったが、時間と労力をかけて運んだものが、配分する体制が手薄で体育館の裏で山積みに腐っているのを何度か目撃した。また地元ボランティアと称する人たちが先に必要なものを確保する姿もみかけた。それらについては個人レベルで手配するより、国や自衛隊、行政組織など、明確に管理できるところが責任をもってやって欲しい。さて、平行して心配なのが福島原発のことだ。政府、保安院、東電もなすすべもなく、推測で根拠のうすい不確かな情報を流し続けている。フォトジャーナリスト森住卓氏のグループが放射能の計測器機をもって現地近辺から報告している。三月一三日午前１０；２０双葉町役場玄関付近で放射線を計測。三台の機器を使用。すべての測定器が振り切れた。（BEIGER COUNTR DZX2は1000マイクロシーベルト/時以上,VICTOREEN 209-SI１０ミリレントゲン/時以上,MYRate PRD-10/１９，９マイクロシーベルト/時)なりふり切れた。記者会見で政府が人体に危険のないレベルと言っているときに、すでに測定不能状態にまで放射能レベルが高まっているのだ。また、ブログのリンク仲間からもさまざまな情報が寄せられている。そのなかで、原発の技術者で1997年に放射線に起因するガンで亡くなっている平井憲夫さんの「遺書」ともいえる「原発がどんなものか知ってほしい」という報告書のことを知った。少し長いが、福島原発のことにも触れていて、被災地が東北沿岸地域だけに留まらないかもしれない重要な情報が書かれているので、リンク先に飛んでぜひ眼を通して欲しい。「原発がどんなものか知ってほしい」

  2011.03.15

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  地震、津波……………、、、、言葉になりません。

  皆さ～ん、大丈夫ですか？　怪我はありませんか。地震も津波も現在進行形ですが、お見舞い申し上げます。しばらくは日本中がメチャクチャになりますね。経済的な打撃も甚大なものになりますが、何はともかく国民の暮らしと生命を守ることが大事です。命を、家を失った方々にはお声がけする言葉もみつかりません。ただただ、お見舞い申し上げます。政府よ、全議員よ、政治の空白をつくるなど許されません。自衛隊はただちに被災地に飛び救助にあたって欲しい。国会は閉鎖して、全国会議員はすぐ災害対策にあたりなさい！　炊き出しに出なさい！

  2011.03.11

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  ある結婚式があって…

  ごぶさたしてすみません。今は、ブログ更新より大事なことが山積していて、それを片付けてから晴れて書きたいことをぶっつけようかなと思っているところです。ところが、今日はちょっと書きたいエピソードがあったので、ひとときすべて投げ捨ててブログに綴ってみようと思います。人々のエピソードは、他人にとっては面白くても、当人にとってはプライバシーに相当することです。僕は、政治家やタレントの痴話騒動のような単なる興味本位の暴露的なことをことさらに晒すことには不快感さえありますが、本人の尊厳を損なわない範囲での問題提起であれば、一定のプライバシーの紹介は許して貰えるのではないかと思っております。しかし書く以上、そのことで対象者を傷つけることがあってはなりません。したがって、いつもお断りすることですがほどほどにフィクションをまじえてあります。どこがフィクションでどこが実話とは聞かれてもお答えしません。もっとも、人のことはわからないものです。かくいう自分のことでさえ、わかりにくい人間だと思っているのですから…。三平クンは分類でいえば知的障がい者です。障がい者ながら、彼のウイットな人柄と絵のセンスは健常者といわれる人たちをはるかに上回っています。事実、彼の周囲から５分と笑い声が絶えたことがありません。彼は５０歳になりますが、僕は彼の２０歳頃から知っています。どこの祭り、どこのイベントに行っても、必ずといってよいほど彼と出会ったからです。そういえば選挙事務所でも顔を見ました。右から左まで、僕が印刷物を届けに行くとかならずご飯を食べに来ていました（笑）。当時はなかなか可愛い顔をしていましたが、今はタコ八郎といおうかすっかりお笑いタレントの風貌。ご飯も、平均ドンブリで２杯、オカズも２、３人前は食べるので、ちょっとドラエモン体型になっています。今日はその彼が、ケンカ友達のＹクンと連れだってあるボランティア団体の主催する行事に出かけました。そのケンカ友達のＹクンも知障で、僕のところに通っています。そうそう、二人は周囲では有名なケンカを何度となくして、そのために三平クンの前歯は全部折られてしまい、前は入歯です。…と、そのことは内緒にしておくという約束でした。僕のところで再会して一緒に仕事をすることになったのですが、もしふたりがケンカをしたら二人ともここには置かないという条件で握手をさせて、１．５ヵ月。周囲の心配をよそに、今ではすっかり親友同士のような関係になっています。いつものように「こころん」（今度始めた事業所）で待ち合わせです。三平クンは、８０歳になるお母ちゃんと弟と暮らしていますが、今日は家族はみんなお嫁に行った姉ちゃんの娘の結婚式に行って留守だといいます。そういえば最近、お姉ちゃんから三平クンの好きな氷川きよしのコンサートチケットを貰ったといって大喜びです。嬉しいのはいいのですが、ＣＤを山ほど持ち込んで、毎日聴かされるのにはちょっと閉口気味です。昔の祭り会場のようにガンガンと氷川きよしが流れるのですからたまりません。実は、お姉ちゃんが、けして安くないチケットを彼のためにとって隣県まで連れていってくれることと、今日の結婚式にはなにか関係がありそうです。そう、結婚式には肉親では彼だけ招待されなかったのです。お姉ちゃん一家も、娘の結婚式に彼を呼ばないことに心の痛みがあったのでしょう。それで、結婚式に呼ばないかわりに、彼の好きな歌手のチケットをとってくれたのです。もちろん彼はそのことを口にするわけでも、出席できないことを寂しがるようでもありません。しかし、思ったより早くお楽しみの行事から引き上げてきて、お茶を飲みながらもう２時間もいます。やはり、誰もいない家に戻るのは淋しいのでしょう。ちなみに、彼は僕のことを「お父さん」僕の妻を「お母さん」と呼んでいます。ことに妻には親しみがあるらしく、日曜日でもきて犬の世話をしてから、ほかに何か手伝うことがないかと妻に催促しています。こころんでは笑いが絶えず、まるでマンガのような生活をしているこの三平クンですが、少年から青春時代は凄まじい暮らしを送っていました。父親が幼少時代に女と出て行ってしまった彼の一家は、長屋のような家に２棟を借りて住んでいました。その一棟は母親の家、もう一棟に兄弟が住むという変則的な家族です。夫に家出された母親は、幼い子供たちを養うために二号さんのような生活をしていたのです。しかも、そこに出入りしていたオジサンは一人だけではなかったと、彼はいいます。昔のことを語るときだけは、彼の口は重くなります。でも、母親に対して怨みがましいことを言ったのを聞いたことはありません。そして彼の青春時代は、暴走族のバイクの後部座席で大きな旗をもつ役目です。バイクからも何度か落ちて、彼の足にはその頃の傷跡がのこっています。手の指も三本ほどありませんが、これは勤め先の製材所で落としてしまいました。そんな身体になっても、何の補償もとれず、農家に働きに行ったり、福祉の世話になって何とか生きてきました。そんな彼ですが、根っこはとてもやさしく、仕事も熱心です。朝、みんなより１時間ほど早く来て、犬たちに餌や水をやり、しばらく犬たちと遊んでいます。それから、室内の観葉植物や野菜の苗に水やりをして、みんなの来るのを待ちます。仕事も、言われたことは「ハイ」と手抜きすることなくやります。間違うと「ゴメンナサイ」と大きな声でいいます。指が少ないため、細かい作業はニガテですが、力仕事はお手のものです。その彼がなかなか味わいのある絵を描きます。僕はそれを生かした作品ができないかと、いま企画中です。その彼の障がいは、どうみても「知障」ですが、指がないことによる軽度の「身障」と認定されているため、障がい者年金が５万程度しか貰えていません。しかも彼は、老いた母親のためにそのほとんどを手渡してしまいます。だから、友だちとのつきあいも「こころん」での手当が頼りです。そんな彼にも、恋人（？）がいます。新年の抱負と夢をそれぞれに聞いた時に、「恋人と結婚できますように」と言われわかったのですが、その後それとなく調べたら相思相愛のようです。相手は別の施設にいて、逢うのは何かの行事とか、職場訪問のようなときの一瞬だけです。だから、必然的に「清く正しく美しく」、昔の純愛小説のようなつきあいしかできません。もっとも彼も「結婚」とは、街で一緒に買い物をしたり、公園で手を繋いで歩くことだと言っていますから、本当の意味（笑）をどこまで知っているのかはわかりませんが…。ということで、つらつら書いてきましたが、この仕事を始めて感じるのは、全部とは言えないまでも、「障がい」に至る一定割合には、家族関係に何らかの原因が潜んでいる。そうして、いつかしら負の連鎖をつづけてしまっているということです。この三平クンの家族も、「障がい者」がいるということを、堂々と新しい家族に紹介できなかったことで、またもや「障がい」というものに正面から立ち向かう機会を逸してしまった。そのように感じてならないのです。「障がい」とひと言でいってもいろいろな種類や程度がありますが、どれだから恥ずかしいということはありません。もし恥ずかしいとしたら、恥ずかしいと思う卑しい心が恥ずかしいのです。ひとり一人と接していてますます思うのは、「障がい」という試練が与えられたぶん、優しさや、潜んでいた能力、生きるということへのバネのようなものが備えられたと思えてなりません。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2011.02.19

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  途中経過

  昨年11月に認可された障がい者自立支援事業(正式には、就労継続Ｂ型事業所)も、定員までは届いていませんが、利用者も１０人近くとなり毎日賑やかに過ごしております。職員は日常の作業の段取りはもちろん、利用者一人ひとりの現況にあわせた就労計画や生活のケアにあたらなければなりません。その間に、担当当局への請求や報告事務、研修などをこなしてゆくわけですが、それがなかなか大変です。就労への世話をすことにより事業所の運営経費が降りてくる仕組みになっていますが、当然ながら公正明快に報告できなければなりません。また、法律や条例が変わるごとに加算減算ポイントなども変わったりします。そのチェックや訂正もしなければならず、利用者(障害者)へのケア負担もさることながら、事務負担もばかになりません。といいながらも、そういう難しいところは他のスタッフにまかせて、僕はもっぱら利用者と共同作業やスキンシップの毎日です。実は、利用者も一緒になってこの事業所を支えている面が多く、それが「信州こころん」の最大の特長かも知れません。事業所にくる人たちには、家族のように打ち解けた雰囲気で過ごせるように心がけています。自分で言うのもはばったいのですが、僕たち夫婦は、利用者にとってのお父さんお母さんという位置づけで、そのように呼んでいる人もいます。どのような支援が必要なのか、一人ひとりの現況や生い立ち、家族関係なども調査しますが、大部分の利用者が、あまりにも過酷な人生を歩んできていることに唖然とさせられます。　ここからは、個人のプライバシーを特定されかねない内容にもなりますので伏せ字となっています。ここへの入所者第一号は、僕とは20年以上も前からの知り合いの女性でした。そのＡ子は知り合った頃は、まだ20歳くらいだったと思います。あるスナックで働いていて、宮崎あおい似の可愛い女の子で目立っていましたから彼女目当てに通っている常連客も多かったように記憶しています。僕もときどき通っては、会話を楽しんでいました。店では求められるままに俳句らしきものを教えたり、ときには仕事で受けたパンフレットのモデルになって貰って撮影したり、友だちを誘って美術館へ一緒に行ったりもしていました。Ａ子は当時、店では僕のことを「お兄さま」などと呼んでいたと思います。その後、嬉々として結婚することになったという報告をしにきたのを境にして、僕もスナックには通わなくなり、疎遠になっていました。それから４、５年経った頃、Ａ子から事務所近くのレストランに突然の呼び出しがあり、当時の宝石のようにキラキラしていた人と同一人物とは思えないような、変わり果てたＡ子と出会うことになりました。そこでは、結婚したはずの夫とは別れ、僕の文芸上の友人だったひとりとつきあっていると告げられました。彼は既婚者で、言葉は巧みで女性扱いも上手でしたが、けして女性を幸せにできるタイプではありませんでした。身の上話も始め、別れた夫からは、性的興奮を高めるというような薬物を無理に使われたとのことで、何かの副作用で薬物中毒のような状態になっていました。ろれつは回らず、食べ物はときどき口からこぼれました。元夫は、店の経営者の弟。イケメン風でしたがマル暴にかかわる人物でした。たぶん違法な禁止薬物でも使われたのでしょう。このままでは殺されてしまうと思って夫のもとから逃げ出して、失意のうちに怯えた生活をしているときに、飲食店をしていたその知人の店に行き、慰められて…という絵に描いたようなパターンです。その知人は特別に悪人ではありませんが、女との関係は無責任でよしという、独特の世界観をもっていました。といっても、いつか僕がＡ子に(文芸仲間として)紹介していたようです。そんなわけで、とても話題が豊富な面白い人ということでもあり、訪ねたのでしょう。だから、そのつきあいに関しては賛成しかねる気持ちでしたが、さりとて僕が彼の代わりに何ができるというものではないので、あたらず触らずそっとしておきました。それから１、２年、そうこうしているうちにまたひょっこり顔を出して、自分の父親の友人であったという土建会社の社長と再婚することになったと報告に来ました。そして子供を出産。このまま落ちついた幸せな生活に入るのかな、と思いましたがそうはなりませんでした。ある日Ａ子が、子供のための詩と絵を描いたからそれを本にしてくれないかと事務所を訪ねてきました。なかなか気持ちのこもった内容でしたので、料金は材料費だけでいいよと喜んで引き受けて、数週間後にできあがった本を届けにＡ子の家に行きました。ちょうどＡ子の夫が玄関を出て来るところでしたので、来訪の用件を告げました。すると「あんたが俺んとこのキチガイを騙して金を引き出していたんか！」と突然に怒鳴りだして、「これ以上騙したらぶっ殺すゾ」とけんもほろろの態度で出てゆきました。後からＡ子に事情を聞いてみると、異常に嫉妬心と猜疑心が強い人で、Ａ子を訪ねて男の人が来るとみんなにそんな態度をするんだと悲しげな顔をしました。しかしその後、Ａ子は神経科病院への入退院を繰り返すようになります。Ａ子に親しいＡ子の女友だちに事情を聞いてみると、家事の用件以外に家から外に出るのが許されず、ストレスが堪ると野菜でも何でもダンボールごと買ってきてしまうなど浪費をするようになり、そのたびに入院させられてしまうのだと話してくれました。たまたま僕の友人の奥方がそこの病院の看護師長をしていたので、それとなく様子を尋ねてみると、以前の薬物の後遺症などもあって、中途半端な状態におくと自殺などの心配があるのでそれを抑える治療中だというようなことをようやく聞き出しました。ちなみに、こうした病院の守秘義務は固く、Ａ子のことではなくあくまで一般論として、ということで何とか語ってくれたものです。やがてＡ子は夫から離縁され、子供を置いて実家にもどりました。その後、Ａ子は１年か２年に１度、ひっこりと僕の事務所に顔を出しては、自作の俳句を読んでくれと置いてゆく、つかずきれずのつきあいで、１０年以上の経過を経てきました。そして、今度の自立支援事業を立ち上げたのをきっかけに、こちらに通わないかと声をかけ、利用者第一号として登録することになったわけです。それから約２ヶ月。利用者として入院時代の仲間を誘ったり、もともとの水商売時代の会話術なども活かして他の利用者の世話をやいたりと、大活躍です。Ａ子を通じて通うようになった他の利用者も、いつしかＡ子のペースで声を掛け合うようになり、役所の福祉関係者からもアットホームで明るい事業所として、評判も上々です。見学に来る福祉関係者も、利用者がみんなイキイキしていて、職場としてとても羨ましいと褒めてくれます。そんな雰囲気づくりにＡ子が貢献してくれているのはいうまでもありません。ちなみにＡ子にはかなり年配のボーイフレンドが何人かいます。ときどきはそうしたジイサンたちが年老いたＡ子の母親の買い物の世話をやいたりしています。僕が「ずいぶん好みが渋いね～」と揶揄ったら、「だって若いとすぐに恋愛絡みになったりして面倒だもの」と、だいぶ大人になったようです。あっ、それから僕とも長～いつきあいになりましたが、一度たりともＡ子とは不適切な関係はございません。念のため。妻もずっと前から経過を知っていたこともあり、Ａ子はここで拾ってくれた両親のようだと思っているといいます。そのＡ子も４０歳台半ばともなり、当時の姿とはだいぶ変わってしまいましたが、２０数年ぶりの溌剌とした様子に戻ってくるのを見ると、この仕事を始めたかいがあったなと思うこの頃です。もちろん、Ａ子のことはほんの一例で、彼ら一人ひとりにまるでドラマ以上の人生があり、聞き取り調査をしていても圧倒されっぱなしです。逆境に耐え、はねのけてきた力をもつ彼らと接していると、僕らの心が洗われ勇気づけられることがしばしばです。時間のゆとりがとれるようになったら、そんななかのエピソードも少しずつ紹介できるかも知れません。当然のことながら、この話がフィクションなのか否か、Ａ子個人についての一切の質問などはお受けできません。だれの人生も起伏があり、ときには大波にさらわれることもありましょう。こうした事業所の存在によって、一度は大波に出会った人でも社会復帰へと踏み出すお手伝いをすることができるのだということを、少しでも知っていただければ嬉しいのです。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2011.01.29

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  今年の抱負などを

  あけましておめでとうございます昨年は思いがけず激動の一年となりました。山荘森樹につづき自立支援事業を立ち上げたわけですが、当初は現地の環境を活かした形で山荘業務と平行して行うつもりで準備をしていましたが、それが許されないさまざまな事情が重なったため、結局山荘を休止し自宅を開放してのスタートになりました。山荘はリピーターの方々を始め大勢の方が閉鎖を惜しんでくれましたが、長い間温めていた想いを実現するために決断しました。森樹を愛してくださった方々には申しわけ無く忠心よりお詫び致します。ただ、自宅のほうに宿泊もできるゲストルームも用意しましたので、これまでのご縁を頂いた方々と交詢を交わしたいと思っておりますので、どうぞ遠慮無くお出掛けください。自分で言うのも何ですが、中アが眼前に迫り山荘の場所より風光ははるかに良い場所です。人生を打ち上げロケットにたとえれば、３段目の切り離しに成功して、衛星軌道に乗ったかなというところです。１段２段は何かとアクシデント続きでしたが、３段目はスタッフに恵まれ現在のところ順調に推移しています。いいスタッフとめぐり会えたことや、支援者の強力なバックアップあってのことと感謝致します。ところで今年の年賀状。プリンターの不調で届かない人や２枚届く人など出てしまう見通しです。例年のように届かなかった方あしからずお許しください。就労支援作業所は、現在６名のスタッフと８名ほどの利用者。これが年内には、８名のスタッフと２０名ほどの利用者にふくらむ予定です。それとともに、さまざまな事業が展開されてゆきます。興味のある方はどうぞヒヤカシにきてください。事業についてのアイデアもいただければなおありがたいと思っております。新年のご挨拶ですからまじめに書きましたが、落ちついたら脱力ブログも再開してゆくつもりです。なお、『旬感』をお待ちかねの方々、大変遅れて申しわけございません。この休み中に全力をあげて仕上げたいと思っております。もう暫くの猶予をお願い致します。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.12.31

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  顔を出すのがなんとなくこそばゆい

  おひさしぶりです！しばらくご無沙汰していましたが、生きていましたよ。信州の方はこちらの新聞やテレビなどで採り上げられていたのでお気付きの方もあったかと思いますが、「信州こころん」という、自立支援法に基づく障害者のための就労支援作業所を立ち上げました。 福祉の新参者が認可を得るためにはシビアでなかなかデリケートなハードルをくぐり抜けなければなりません。苦労しましたが、同業者に言わせると超スピード認可ということらしいです。しかし、当事者にとってはなかなかのドラマと出会いながらようやくたどり着いた感じです。大勢の方々にお世話になってきたので、しばらくは過激(？)な発言は控えさせていただきますが、「障害者」といわれる彼らとつきあって、その精神的ピュアさに圧倒されています。彼らはほんとうに可愛いし、共に仕事をすることが楽しい。いや、あるいは自分が彼らに面倒をみてもらっているのではないかという気分になります。人間同士のつきあいには少なからずの打算がともなうものです。僕にもそんな打算がありました。しかし、彼らは僕ら(スタッフ)に対してまことにピュアに接してきます。僕も毎日が(自らの)贖罪と新しい人間関係の発見の日々といっても過言でないでしょう。ということで楽しい日々を送っていますが、一日を終える(なんと夕方の５時)とちゃんと疲れているんですね。体重もこの半年で５キロほど減り、ベストコンディション。ここち良い疲れ、一杯がおいしい、そうして熟睡。そんなわけでブログともご無沙汰しておりました。世間の情報にも疎い。利用者という言い方になりますが、まず信州こころんの屋根の下に入ってくる彼らの聞き取り調査をします。そうしてみると、障害をもつにはそれなりの理由が見えてきます。この間に、あまりにも凄まじいさまざまな人生を見聴きしてきました。もちろん個人を特定されることは詳しくは書けませんが、幼くして両親の不和や別離、目の前での母親の自殺、父親の失踪、孤独ゆえの非行、自死願望…etc、いろいろあって、ピュアゆえに最後に逃げ込んだ先が現実という何もかもを消し去るさまざまな障害。もちろん、その原因は千差万別。しかし、そのなかには一種の求道者のような悟りも見えてくるんですね。教えられることがいっぱいで楽しくてしかたがありません。もうひとつ見えてきたこと。「障害者」というお墨付き(笑)の要保護の人たち以外に、もっと深刻な人たちが大勢いるという現実。マスコミでとりあげられたこともあり、「障害者」という認定を受けられない、しかし仕事を与えられない中間層が何人も訪れています。この人たちは外見から判断しにくい病気をもったり、DVなどで表に出にくい場合がありますが、年金もなく、公的援助もされにくい(生活保護も条件の壁が高くなってきている)、そうした人たちが少なくということもわかってしまったということ。そのようなわけで、とりあえず僕の(とりまく)範囲で解決出来る差し迫った問題を解決するために奔走しています。いうまでもなく、自分のできることは限られています。こんな諸々に楽しく翻弄されながら、今年も暮れようとしています。そんなわけで山荘は休止しましたが、来年になれば少しは落ちついてくると思いますから、そのときにはまた遊んでください。よいお年を！こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.12.29

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  山荘感謝まつり

  更新の仕方を忘れてしまいそうな今日この頃皆さんいかがお過ごしでしょうか。ということで、心血を注いで育ててきた山荘ですが、新しい仕事を立ち上げると同時に移転することになりました。場所は、現在地より２キロ上流で標高９００ﾒｰﾄﾙの眺望のよい場所です。ロケーションは現在地より良いかも知れません。しかし、現在地は僕の汗がたっぷりとしみこんでいるため、名残惜しい気持ちもいっぱいです。今日も、敷地のなかでシメジやナラタケ、黄金タケが収穫できました。これまで、茸を採るたびに、根っこの部分をばらまいた成果が現れてきているのです。今度の土曜日の夕方から日曜日にかけてお別れ祭りということで、庭に大きな焚き火をたいて、きのこ汁もドカンと置いて、岩魚やニジマスも釣り放題（居るだけですが…）、食べ放題というような、お祭りをします。イベント好きな友人たちが設営してくれます。ということで、近くで来られる人はお越しください。土曜日に山荘に泊まって飲む人には、無料で寝具も用意します。通常の更新までは、もうしばらくお待ちください。

  2010.10.20

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  近況

  短詩に携わるものとして一度は訪れてみたかった四国は松山市にある「子規記念博物館」を訪れてきた。実は、ブログ仲間のドクター悠々さんのところで、「豊田勇造ライブ」があってそれも１０回目ということなので一度行ってみたいと思っていたところに、飛んで火にいる夏の虫ならぬ運送の仕事をしている友人から、「三連休だし、どこか行かねーか」という電話。この彼とは高校時代に奥の細道を辿って東北一週の無銭旅行をして以来の長～い友人。長距離の運転も慣れているので、よし、四国に行こうとたきつけたところ乗ってきた次第。正岡子規は今や誰もが知る俳人。僕が正岡子規に興味をもったのは評論「芭蕉雑談」の中で、芭蕉の高名な俳句を次次に批判したことだ。もちろん芭蕉の業績を全面的に否定したわけではないが、芭蕉の俳句は説明的かつ散文的な要素が多くて、詩としての純粋性が欠けていると難じているところだ。そのへんを書くと長くなるし、読む方も面白くもないので書かないでおくが、松山という街もなかなか趣のあるきれいな都市だった。夜の俳諧ならぬ徘徊もオツなものだった。翌日は、徳島の悠々さんの病院まで一直線。といっても、高速道路を３時間も走るのだから、四国は思った以上に広い。豊田勇造ライブは悠々さんの病院の一室が会場になっていたが、悠々さんを先頭にスタッフの皆さんがテキパキと会場の設営をしており、４、５０人ほどの観衆を集めて行われた。その様子は近々ドクター悠々さんのブログに書かれると思うが、すばらしく熱気あふれるもので、はるばる出かけた甲斐があった。出かける前には焚き火の会などもあったりして…、ホントなにをやってるのか。ほんと、まだ詳しくは書けないが福祉関係の事業を立ち上げ中で、そのうえ山のキノコも大豊作だし、焚き火もしなければならないし（笑）、個人誌の秋号も出さなければいけないし、今の僕は身体が幾つあっても足りない状態のなかの四国行きは、家族や支えてくれている友人たちの大顰蹙ものだったが、良い命の洗濯となった。そんなわけで、ブログがのびのびになっていて、皆様にご心配をお掛けしていることをお詫びしつつも、元気いっぱいなのでご安心を。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.10.14

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  オバケを捕まえようとする子

  先頃、子供のパフォーマンスで銀行のなかが一瞬になごんだことを書いたが、子供は和ませてくれる天才だと思う。この夏に山荘で、「子供自然学校」を開いたときの出来事も面白かった。ほんとうはすぐに書きたかったのだが、保護者か関係者がこのブログを読んでしまう可能性があるのでほとぼりが冷めるのを待っていたという次第。それというのは子供たちの夏の話題『トイレの花子さん』である。夕食の後、子供たちが話していたのは、アニメで描かれたあのツリ目の女の子が、トイレで待ち伏せをしている、僕も見たというような話で盛り上がっていた。そして夜も更け消灯になって、僕は夜中にひとり事務室でパソコンを開いてブログの更新をしていた。そのときコンコンと部屋の窓を叩く音がする。目をやると、名古屋から参加していた小学生の男の子が立っていた。「どうしたの？」　と尋ねると、彼は眉を八時二十分の形にしてこころ細そうにいう、「オバケが出るかもしんないからトイレについてきて…」「なんだ、男の子がトイレ恐いのか。大丈夫だよ花子さんはしばらく出てないからたぶん居ないと思うよ」と冗談で応えたらもういけない。「今日はいるかも知れないから、ついてきて…、おねがい」と泣きそうになって言う。本人は真剣なのだが、その真剣さが却って可笑しくて、ついげらげらと笑ってしまう。すると彼は怒って、「あ、ボクのことバカにしてるんだね。そうなんだね。いいよ、いいよッ。そんならここで出しちゃうから。トイレに連れていってくれなかったって帰ってからママに言っちゃうからね」なあんて僕を脅迫する。それでもしかたなく、面倒ながらも彼のトイレに付き添うことになった。「じゃ、一緒に行こうか」と言ってトイレに向かおうとすると、彼は急にハッとして立ち止まった。「ちよっと待ってて！」と言い残すなり、部屋にもどっていった。何事だろうと思って、その場で待っているとほどなく彼は何故か昼間蝶を追いかけた捕虫網を手に戻ってきた。「なに、それ？」トイレに持っていくにしては異質なものなので、念のため尋ねてみると、彼は撫然とした顔でこう答える。そんなことも分からんのかあんたは、とでも言いたげな口調である。「虫とり網だよ」「どうすんのそれ？」「オバケが出てきたらね、これで捕まえてしまうんだよ」「うーむ……」付き添う僕としては、何だか非常に複雑な気分である。そんなもんで捕まえなれるようなオバケなら、わざわざ僕を連れてゆく必要もないではないか。「ということはオレは捕虫網以下か…」と怒りたいところだが、まあ相手は小学１年生。彼としては、捕虫網を手に僕に付き添ってもらえば、それこそ鬼に金棒だい、という気持ちなのだろう。「早く早く。もれちゃうよう」急に便意を思い出したのか、彼は僕の手を引き、トイレヘと駆け込んだ。そそくさとズボンとパンツをずり下げ、便座にちょこんと座ると、どうやら大きい方らしい。いくら子供だとはいえ、そんなところはあまり目にしたくはない。扉を閉めようとすると「閉めないで！　見ててくれなきゃイヤだよう」と訴えかけてくる。その表情にはまことに切実なものがある。仕方なく扉を半開にし、ふんばっているその子とニラメッコをするハメになる。ちょっと想像してみてもらいたい。捕虫網を片手にお尻丸出しで便座に座り、「んむむむむ……ッ」と力んでいる子とニラメッコをするおじさん。何だか情けない。しかしまあ、この超腰くだけ的情けなさの中で、プ～ンと臭ってくるような経験はめったにできるものではない。この情けない光景は、きっと彼の記憶になが～く残るにちがいない。それにしてもさぁ、トイレに捕虫網もってくるのはやめてもらいたいなぁ。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.30

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  痴漢グッツはお試しできません

  少し前になるがコインランドリーで洗濯物を乾かす待ち時間に、女性雑誌というやつをぱらぱら捲っていたところ「ＯＬ１００人に聞いた悩みベストテン」といったものが載っていた。僕がＯＬたちの悩みをどうしても知りたいと思ったわけではないし、それを解決していいとこ見せたいと野心を抱いたわけでもない。とにかくぼんやり読んでみた結果、悩みベストテンのかなり上位に、「上司によるセクハラ」「通勤途中での痴漢との遭遇」というような事項が入っていた。女性の方々、特にＯＬの人たちは「うんうん、そうそう」と頷くかもしれないが、男で、しかも電車にもあまり乗らない僕にとって、これは意外であった。結婚前、妻がまだ青々としていた頃、チラッと満員電車で経験したという話をしたことがあったが、僕の感覚としては逃げられない電車のなかで危険を冒してまで触りたいと思う痴漢の気持ちはまったく理解できないので、僕の知らないところで、そんなに大勢のうら若き女性たちがそんなにもエッチな目にあって悩んでいるとは思わなかった。もちろん僕だって基本的には、エッチな好奇心を持っている並の男であるが、セクハラや痴漢で。女性たちがそれほど悩んでいると聞くと、何だか義憤にかられる。自分のことは棚に上げても、「許せん、けしからん！」などと、腰に手をあてて白いマフラーを風になびかせ、夕日をキッと睨みつけたくなってしまう。いや、僕はごく一般の成人男性の一人として、心の中に平均的な（も個人差はあろうが）大きさのスケベ虫を飼っていることは否定しない。しかし「相手の嫌がるスケベはすまい」という（実は臆病なダケだといわれるが）矜恃をとにかく守りつつ、これまでの人生を清く正しく、時々はズルをして歩んできた。本当に嫌がっている相手をこちらのスケベの都合だけでどうこうしても、ちっとも楽しくない。人が嫌がることは、相手が若かろうが年増であろうがしてはいけないのである。もちろん相手の女性が、口では「いや～ん」と言いながら、その実は楽しんでいる場合もあろうし、「エッチね～」と言いながら、胸を押しつけてくるオバサンもときにはいるが、それはリンキオウヘンで対処すればいいではないか。やはり何らかの意味で相手も喜ぶスケベこそが、スケベの王道なのである。そんなとこで王道を歩んでどうすんだ、というご意見もあろうが、いろいろ言っても男女ともスケベな人々がいたから人類繁栄もあったわけだから、スケベそのものは悪くないのである。というようなことを後日、女性経験豊富なある友人としていたところ、彼から面白い話を聞いた。いわゆる痴漢撃退グッズについての話である。「例えばほら、痴漢撃退用のスプレーてあるだろ？　あれってどれくらいの効き目があるか知っている？」僕自身あのスプレーを使う必要も、使われたこともないので、どのくらい強烈なのかわかるはずもない。友人は「韓国に行った時、ミリタリーグッズの店でスプレーを買った友達に頼んで、噴射してもらったんだよ。いや直接かけられたんじやなくて、その辺の空中にほんの一噴き、シュッて。そこに飛び込んでみたんだけど、これがスゲエの何のって。あっという間に目から涙がボロボロ、洪水ダラダラで、まともに息もできなくて、１５分近く苦しかったよ。あれは効く。ほとんど武器だよ」そんなことを自分で試すなんて、そうとうな馬鹿であるが、彼の尊い人体実験のおかげで、痴漢撃退用のスプレーがかなり効くものであることは明らかになった。以前サリン事件で、世間がピリピリしていた頃、居酒屋で異臭騒ぎが起きたニュースがあったが、あれはたしか女子大生が冗談で痴漢撃退用スプレーをかる～く噴霧したことが原因だった。痴漢に悩んでいる女性諸君、試したい気持は十分にわかるが、電車のなかでそれをやったら、スカシっ屁以上の騒ぎになるからぜ～ったい遊びではやらないでよ。ましてや、カバンか傘が触れたからって、いきなり「シュ！」とやることだけはごカンベンだよ。 ああ、こんな話題に真面目にコメント返さないでよ。返事にコマってしまうから…。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.28

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  よいふざけ方

  銀行から呼び出された。もちろん毎月の引き落としでたちまち底をつく通帳しかもたない僕であるから、呼び出されるということはお叱りかなと思ったら、どうやら準備中の事業について聞きたいということらしい。窓口前のソファに座って、ぼんやりと順番を待っていた。水曜日という中途半端な曜日のせいか、客の姿はまばらである。行内には居心地の悪い静けさと、ピンと張りつめた緊張感が漂っていた。昔からそうなのだが、ぼくは銀行の中に漂うこの何ともいえない空気が苦手である。客も行員もどこかしら身構えている感じ、とでも言うのだろうか。まあ大切なお金を扱う現場であるから仕方ないのかもしれないが、なーんか冗談の通用しないキマジメな雰囲気がめぐっていて、「はいッ、ここからこっちは絶対に入っちやいけませんよ。落ちてる１円を拾うのもダメ。大声で笑うのもダメ。トイレも貸しませんからね、とにかくおとなしくしてなさいよ」などと色々禁止されているような気がしてしまう。だから順番待ちの客が多くて長いこと銀行の中にいると、次第に表情がこわばって、出てくる時にはギリシャ彫刻の顔つきになってしまったりする。「うーむ、早く順番こないかな……」僕は少々イライラし始めた。さきほどからいかにも物分かりの悪そうなおばさんが、ひとつしか開いてなかった担当窓口を長時間占領している。僕の顔は彫刻風にこわばりつつあった。と、そこへちょとした椿事がもちあがった。入口の自動ドアが開いて母子連れが入ってきたのだ。そして、この５歳くらいの男の子が不意にヘンテコなことをしたのである。彼は母親から２、３歩後れて銀行の中に足を踏み入れるなり、あたりに漂う妙な居心地の悪さを察知したようだ。銀行特有の冗談が通用しないキマジメな雰囲気を肌で感じ、僕こういうのヤダ～と思ったのだろう。しばらくは神妙な顔つきで周囲を見回していたが、突然床に寝転がるなり、「ハンセンしてま～す。ハンセンしてま～す」と言いながら足をじたばたさせ始めたのである。その場にいた全員は、唖然としてしまった。母親は真っ赤な顔をして、慌てて男の子を起こしにかかり、叱りながらお尻ペンペンしたが、彼はしてやったりという顔をして舌を出した。行内のあちこちで笑いが漏れ、辺りの雰囲気は一瞬にして和んだ。もちろん僕も笑ってしまったが、それだけでは物足りなくて、隣に座ったその子の頭をナデナデして「こんな小さい子がハンセンしてるって感心感心」と言ってしまった。するとその子のお母さんは、「ハンセンじゃあなくて、ハンセイしていると言ってるんです。この冬からずっとこの子の口癖なんですよ」と困った顔をして言う。そういえばこの冬期オリンピックのとき、服装問題で顰蹙を買った国母選手が記者会見で言った「ハンセイしてま～す」のアレだ。僕などもうとっくに忘れていたのに…、とニヤリと笑ってしまった。それにしても子供というのは、オフザケの天才である。この男の子みたいに公衆の面前であんなふうにふざけるのは、かなり勇気のいる行為に思えるかもしれないが、胸に手を当てて考えてみると、幼児時代は誰しも似たようなことの１回や２回はやっているはずである。かくいう僕も人一倍ふざけるのが好きな子供だったから、人前で母親を赤面させた記憶は数知れない。とその度に母親に叱られた。小学校１年のとき担任の女先生のおっぱいに触れてしまったときもそうだ。「ふざけるんじゃありません！」と叱られたが、その表情の中にはどこかしら和んだものが混じっていたのを、何となく覚えている。ふざけるのは、そう悪いことじゃない。大人になってしまった今も、僕はそう思っている。その行為によって、周囲の何かが和むのであれば、ふざけるのも捨てたものではない。おそらく年齢にかかわらず、そう感じる人は多いはずである。単に言葉の上だけでも、“ふざける”とは別に、“悪ふざけ”という言い方があることを考えてみてもらいたい。わざわざ頭に“悪”をつけるということは、とりもなおさず良いふざけ方が存在する証拠ではないだろうか。うむぅ。しかし僕みたいな歳のオジさんがもしこれを人前でやるとなると、何をやっても悪ふざけになりそうで恐くもある。これは難問だ……」たぶん、このまま銀行から正常な形では出して貰えないだろう。よいふざけ方をするにはどんなことをしたらいいのだろう。などと考えているうちに僕の番が来て、ニヤついたまま行員の前に座ってしまったのだが、その行員も、僕以上にニヤついていたのである。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.23

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  オモシロキコト

  現在、旧高遠町で高遠ブックフェステバルという催しが行われていて、僕の発行している本も展示されているので、今日で３日も通っている。初日には、リトルプレス（個人的出版物）発行者たちのフリートークがあった。それぞれ超個性的な彼ら彼女らに混じって、唯一のオジサンといってもいい僕がバトルを交わしたのだが、刺激的で楽しかった。これでも昔も今も口べただったのに、好きなことになるとよく舌が廻るものだと…。それにしても、屋久島や岡山などとんでもない遠くから、こんなところまで参加されている人たちの熱気に、紙と活字の文化はまだまだ健在とこころ強かった。街中も、いたるところに古書店が店開きして、街中本のフリーマーケットと化し、大道芸人や紙芝居屋があちらこちらでパフォーマンスを繰り広げている様も楽しいが、僕にとっては小さな町にどんな人たちが訪れているのかの観察が楽しかった。その昔、エッセイなどのネタに詰まると駅の待合室に行って、キオスクで買った新聞を拡げて読みながら、しばし人物観察をしたものだ。待合室や祭りを行き交う雑踏には僕を惹きつける何かがある。とにかく多数の見知らぬ人同士が交差する場所では、何かしら面白いことが起きたり想像ができる。笑える出来事だけでなく、大袈裟に言うと人生の断面みたいなものが、ふと垣間見えることがよくあるものだ。身についてしまったそんな癖が、未だに抜け切れていないのか、僕は歩きながら半ば無意識に、見知らぬ人たちの会話を耳で拾っていた。すると三人の男子中学生たちの会話が耳に入った。中学生といえば、元気があり余って、どうしようもない年頃で、僕なんか意味もなく雄叫びを上げていたような気がするが、その三人組はどういうわけか揃って覇気がなかった。「公共ノ場デハ静カニスルコト」という教育が徹底され、お行儀よくしているのだろうか。しかし顔を見ても、三人ともお行儀よくしようとしているわけではなく、単に疲れているように思える。祭りの中にいるのに、何だか思いっきりつまらなさそうにしているのである。しばらくすると、一番背の高い中学生が、隣の二人にこう訊いた。「最近、何か面白いことあった？」オイオイ、本の祭りの中にいてそれはないだろう、と言いたくなるのだが、彼自身、面白い答を期待しているふうでもなく、どっちでもいいけどとりあえず訊いておくかといった口ぶりである。これに対して隣の中学生は即座に、「ベツに」と、どこかで聞いたような返事をした。もう一人の中学生は答えもせずに、おまえはどうなんだよと逆に訊き返す。背の高い中学生は苦笑いを漏らしつつ、「ベツにねえよ」と答えた。ただそれだけの会話で後が続かない。といって白けた雰囲気でもなく、三人は当たり前のようにして、祭りのなかをブラブラ歩いている。彼らの会話を立ち聞き、様子を眺めていた僕は、何だかやるせない気分になって、その場で「人生つまらん音頭」をハア～と溜息まじりに歌いたくなった。彼らは何か勘違いをしている。面白いこととは一体何なのか、実は分かっていない。面白いかつまらないか、それを決めるのは自分なのだ。彼らは自分から物事をつまらなくしている、ということに気づいていない。以前、ラジオ番組のなかでどなたかがこんなことを言っていた。「最近ね、就職の相談なんかに来る若い人が、今の仕事はつまらないから、もっと面白い仕事に就きたいって言うのね。でも世の中には面白い仕事なんてもともとないんじやないかと、ぼくは答えることにしているんだ」僕も同じようなことを考えていたので、これには賛成してしまった。そうなのである。仕事だけに限らず、世の中には面白いことなんてそんなにないのである。あたり前のことを、面白くする。つまらないことを面白がる。そういう力を働かせることができなければ、人生なんて一生つまらないままで終わってしまう。自分で面白がらなきや、始まらないのである。そんなわけで僕は日々オモシロキコトを追い求めて、身近な人たちのヒンシュクを買っているのである。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.20

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  あめはれくもり

  友人にＭという高校教員がいる。５０歳頃に息子の受験勉強につきあって自分も勉強したら東大の大学院に合格してしまったので、そのまま教育理論について研究中らしい。というと、神経質で生真面目な男という連想しがちだが、僕の友にはおおらか、明るくてほどほどにスケベなヤツしかいない。むっつりは僕ひとりで十分である。現在、ある定時制高校で教鞭をとっている彼と、僕らのサロンについての打ち合わせを兼ねて昨日会ったら、一枚のコピーを渡された。何でもＡ新聞にコラムを連載しはじめたとのことだ。ということで、ちょっと調べれば誰のことだか特定できてしまうが、ここでは匿名にしておく。せっかく渡されたので、そのコラムを１つだけ紹介しておこう。　困窮する定時制の生徒　昨年の暮れ、私の勤める定時制高校のある担任が休学中の生徒を家庭訪問すると、失業中の母親と子ども2人がカップめんを分けて食べていた。現金は70円しか持たず、暖房もない部屋で薄い夏布団にくるまって震えていた。私たち教員はすぐに食糧と布団を持ち寄って届けた。　こんなことがきっかけで、貧しい子どもたちが学校を続けられるよう取り組んでいる全国の先生方に優れた実践を報告していただき、「子ども・学生の貧困と学ぶ権利の保障」という本を発行した。　私のクラスのブラジル人のＲ君は昨年、両親が職を失い、工場で働いていた彼自身もリストラされた。　Ｒ君は退学して父親とともに愛知県に行き土木作業をしていたが、「どうしても定時制に戻りたい」と帰ってきて復学した。　しばらくして、Ｒ君のサッカー仲間でブラジル人の子どもたち５人がコンビニ強盗をしてしまった。幾日も食べることができず、生きるための犯罪であった。Ｒ君に「犯罪に加わらなくてよかった」と言うと、「クラスの仲間を裏切れないよ」と言った。一方の５人は学校に通っておらず、地域で孤立していた。　芥川龍之介の「羅生門」は高校の国語の教材だが、リストラされた「下人」が生きるために強盗になる決意をしていく心理をどう考えさせたらいいのか、下人と同じ境遇の生徒を前にして迷っている。というようなコラムなので興味のある人は読んであげてください。ところで、新事業を立ち上げるために現在、自宅と事務所を整理ひっこし中。ブログも途切れ途切れになりますが、よろしく。昨日は、もうすぐストーブがいるかと思うほどの寒さなのに今日は真夏。皆さんもお身体大切に！こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.17

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  何事も「初体験」から

  「初体験」なる言葉をつかうと、１０人中７、８人は遠い目をして微笑んだり、ちょっと顔を赤らめたりするものらしい。しかし当然ながら、皆様の想像されるものだけでない。僕らのように、ほどほどの歳になると何百、何千とさまざまな「初体験」をしてきている。僕のなかでとくに記憶に残る「初体験」といえば２２歳頃、始めてのヌード撮影であろうか。（やっぱりそっちか、などというべからず）その頃、腕を磨きあうためにプロの写真家をめざしていた娘が時々カメラマン仲間のモデルを努めてくれた。もちろん、僕らも撮られるわけでもあったが…。ある日、ひょんなきっかけから（篠山紀信との撮影会の後だった）特別に脱いでもいいと言ってくれたのである。指名されたのは、僕ともうひとりの写真仲間のふたりだけである。ただし、現像は自分でやって、彼女が選んだものだけ焼いて、後は焼き増しなどはしないという約束であった。まだまだ白黒全盛時代、フィルムも印画紙現像もすべて自分でこなしていた。場所は、写真仲間となけなしの金をはたいて２時間だけ借りた新宿の安スタジオ。緊張で汗だくになりながら撮った。その頃はヘアーなどが写っていては猥褻写真とみなされた文明開化以前の時代だったので、３メートルも離れた位置から、むしゃぶりつくようにムダにフィルムを浪費しつづけた。そうやってようやくモノにした写真、いったいどこに仕舞ったのだろう。大切にしていたはずなのに、探しても探してもみつからない。というようなことから、ある男の話題になるのだが、僕の知人のひとりに独身時代はプレイボーイといわれて、何人もの女性とつきあったり同棲までして、気楽に遊びまわっていた男がいる。そいつが、４０歳を超えてから結婚したが、とたんにピタリと遊びをやめ、奥さん以外の女性には見向きもしなくなった。それがもう１５年以上も続いている。はたからちょっと見ても、彼が奥さんをどれくらい熱愛しているか推察できるぐらいの、熱々ぶりが十年以上もつづいて現在に及んでいる、まるで男の希少種である。たしかに、奥さんもすばらしい女性で、彼が他の女性をかえりみなくなったのも無理はない、と思われるのだが、とにかくそれ以前の彼からはちょっと信じられないくらいの変りようだ。その友人がある時、僕に、「おれ、結婚してから、だんだん後悔が大きくなる」といったことがある。僕はポカンとして彼の顔を見ると、「いや、誤解しないでくれ。女房のことじゃないんだ。結婚前にいろんな女と遊びまわったことを後悔しているのだよ」という。「遊びまわっていた頃はけっこう楽しいと自分では思っていたけれど、今から考えるとくだらない女たちばかりだったよ。オツムも心も、カラダもだ。おれは、女房が初めての女であったらどんなに良かったかと、今になってつくづく思うんだ。それだったらどんなに感激しただろうかとね」「おいおい、独身時代も、結婚してからもさんざん人を羨ましがらせておいて、あんまり手放しでのろけるなよ」と言うと、「ほかの奴にはこんなこと言いはしないさ。オマエだから白状するけれど、本当なんだよ」そんなゼイタクな後悔ができる彼を羨ましいと思ったり、くそったれと思ったりするのだが、しかし最近身の回りを見回すと、結婚できない、しない、男女が格段に増えている。最近も、あるひとりっ子の女性からいい人がいたら紹介して欲しいと頼まれている（つまり自分の家に入って欲しいということなのだが…）。それで適当なのをと見繕うとするのだが、どうも気があるのかないのかピリッとしない男が多い。彼や彼女が、童貞や処女のまま３０、４０歳になっているとは思えないが、健康な男と女がほんとうに愛しあって結婚することを、面倒だとか、縛られたくないとか、そんなことを言っていたら日本は衰退するばかりだ。独身男性諸君、結婚を不必要に怖れたり、軽蔑するな、と僕は声を大きくしていいたい。女性に対してはなおさらだ。僕だって、恐くても面倒でもガマンしてつづけているではないか。ンっ…。え～と、え～と、僕はなにを言いたかったんだ。そうだ、あなたのまだ知りそめない「初体験」は、最高にいいものだよ。独身のうちに、目の前の駄菓子でチョコチョコと空腹をしのぐようなお手軽なことはやめてほしい、と忠告したい。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.11

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  むかつくな女の子たち

  写真と記事は関係ありません図書館帰りに、さる木陰のベンチで借りてきた本を心地よく読んでいたら、女の子たちの声が耳に届いてきた。お洒落な服を着て、育ちのよさそうな女の子ばかりである。僕らの中学生時代と違って、最近は見栄えのする可愛い女の子が増えたものだ。別に立ち聞きをするつもりはなかったのだが、彼女たちの黄色い声で交わされる会話は、心地よくぼくの耳に入ってくる。こういう機会でもないと、こんな女の子の生の声なんてなかなか聞けない。ぼくは徐々に耳をそばだて始めた。彼女たちは実に楽しげに先生だか友人だかのことを語り合い、時折、全員が揃って大きな笑い声を立てていた。まあ、話の内容は他愛もない、それこそ箸が転んだようなことばかりだったが、たったひとつ気になる点があった。彼女たちが多用するひとつの言葉が、まるで御飯の中に混じっていた小石みたいに、ぼくの神経にガリッと不快感を与えるのである。「あいつむかつく～」「言えてる～、むかつく～」「チョーむかつくよねー」彼女たちはこの「むかつく」という言葉を、約10分ほどの間に２０回以上発した。しかしながら、何をむかついているのだろうと思って、彼女らの顔を見ても全然むかついているような表情をしていない。相変わらず可愛らしく笑いながらむかついているのである。ここ近年の若い人たちは、この「むかつく」という言葉を好んで使うようになった。彼女たち女子中学生ばかりではなく、下は小学生から上は２０、３０代くらいまで、男女の区別なくむかついている。ぼくは、ことさらこういった日本語の乱れに対して、今さら偉そうなことを言うつもりはないのだが…。しかし、一個人として、どうもこの「むかつく」という言葉は好きではない。いや、言葉がどうこうと言うよりも、その使われ方がどうも気にいらない。まあいつの時代も流行語というのは、こういうものなのかもしれないけれど、１０分間に２０回も口にされると、実に耳障りである。「むかつく」という言葉の中には、使っている本人は自覚していないのかもしれないが、人を刺す針のようなものが含まれているのである。「あいつむかつく～」と気楽に口にしているけれど、そのあいつがもし自分だったとしたら、針の存在に気づくはずである。「むかつく」という言葉に否定的な意味があるのは当然のことだが、同時に、微妙な陰湿な印象がある。同じように否定的な意味を持つ別の言葉と比べてみれば、よくわかるだろうと思う。「あいつ頭にくる」「あいつ嫌いだ」「あいつむかつく」最初の２つは否定してても何となく陽性なところがある。同じ悪口であっても、カラッとしている。それに比べると「むかつく」という言葉には、ジメッとした陰湿さが感じられるではないだろうか。不思議なもので、こういう陰湿さを含む言葉というのは、誰かの悪口として多用していると、知らず知らずに、口にした本人の内側に籠もるような働きがある。「あいつむかつく～。むかつく～。むかつく、むかつく、むかつく～」と口にしているうちに、初めはそれほどむかついていなかったものが、何だか本当にむかついてきたりする。だからあまり使って欲しくないと、ぼくは思う。同じ多用するなら、肯定的で陽性な「可愛い～」の方をどんどん（と言っても限度はあるけどね）使ってもらいたい。誰かにむかついている人は、必ずや誰かにむかつかれるようになる。「むかつく」という言葉より「可愛い～」を多用すれば、もっともっと可愛くなるはずだ。女の子たちがもしこの文を読んで、「むかつく～」と言うか、（アドバイスしてくれる）オジサンって「可愛い～」と思うかで、将来のバラ色加減が相当ちがってくると思うんだけど、ダメ？こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.09

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  酒はいい、友達はいい

  ネット友達が訪ねてくれて、昨年も見に行った「伊那谷太鼓まつり『熱響』」をネタにオフ会を行った。帰ってからは、恒例となった焚き火を囲んでのパーティー。みんな太鼓まつりの熱気にあてられて、そのすばらしさをこもごもに語りやまなかった。参加者の一人は、「森樹たいこ連」を作りましょうよとか、来年も参加したいから今から計画して欲しいと、ありがたいお言葉で盛り上がった。その日はじめて会ったばかりの人とも、旧知の仲のように語り合えるのが森樹オフ会の楽しさ。夜更けも過ぎ、午前様になるまで語り、飲み、翌日はいささか疲れた。しかし酒はいい。僕の活力の源はこれだろうな。ということで、僕の友達の多くは、酒飲みである。それもかなりの量を飲み語るといったツワモノが多い。はっきりいってこれは僕の宝物という気がする。友達の家で飲んで泊まって朝起きると、すっと缶ビールが出される。前夜の酒と、朝のビールがミックスされて、寄せては返す波に洗われる心地がする。これまたけっこう、嬉しいじゃございませんか、になるものだ。その昔、妻の実家にいくと、妻の母が「はい」といって、一升瓶を持ってきた。「ちょっとお母さん、昼間っからこんなに飲めないよ。」「何も、ひと瓶空けなさいなんていってないわよ。近くに置けば安心できるでしょ」といったものだった。で、僕はグラスで飲みはじめる。自分がこんなだから酒飲みが寄ってくるのも自然の摂理というものだろう。先日、飲み友だちとひさしぶりに会った。いうまでもなく飲むために会ったのである。それで友人は無類のビール好き。たいした飲みっぷりだ。たとえば、まずはビールでと始めるのではなく、最初から最後までビールなのだ。４、５時間は経過する。で、その晩、僕たちはよく飲みよく喋り、店を２軒。友人はビール。僕は途中から芋焼酎のロックをチビリチビリ…。僕は不精なタチで、酒は噛まなくてすむからいいと思っている。食べたりしゃべったり忙しいので、こういうとき噛まずにすむからリーズナブル？である。僕は歯には自信がないし舌も短い。酒がすすんでくると、短い舌がなんとなく会話を邪魔をする。何だかんだと、その晩は６時間近くも経過した。「もうしこたま飲んだし、そろそろ帰ろうか」と僕。「いやまだ飲みたい、」とは、友人。そうはいってもこれ以上飲んでは明日がもたない。タクシーを呼んで、友人宅近くで降ろしてようやく家にたどりついた。翌日の夜、友人から電話があった。「うちの冷蔵庫のなかに、金魚が入っていたけれどオマエ知らないか? ビニールの袋に人って…。なんだろう、オレ覚えがないんだよ。」　ええーっ。金魚？　僕はのけぞってしまった。僕はいささか酩酊した友人を降ろしてまっすぐに家に帰ったが、彼はあれからまだどこかで飲んだのか…！もしかして、金魚の水槽のある店にでも入って、「どうしてもこれ欲しいんです！」と拝み倒して持ってきたかも…。そう僕が言うと「そうなのかなあ。」と友人はいぶかしげだ。すっかり忘れていやがる。電話を切ってから、僕は笑い転げた。おかしくてたまらなかった。その一匹の金魚が、なんだか友人の行く末を暗示しているように思えたのだった。もうそろそろ、こんな深酒も卒業させないとヤツはだめになる…。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.08

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  退歩こそが進歩への道

  ある国立大学教授だった先生の建物のかたづけ強制代執行を僕の一存で行っている。カメラが数千台、ステレオなど音響器機が数十台。書籍が数万冊。そのほかに撮影した写真やネガがもう数え切れないほど…。おまけに、大学時代の研究器機がゴロゴロ、ビデオ、書画骨董…。とにかく、小さなビル二軒をつなぎ合わせたうなぎの寝床にギッシリと詰め込まれ、足の踏み場もないほどだった。従業員を連れて行って、３日ほどかけて整理し、不用と思われる（ご本人には宝物らしい）物品をトラックでゴミ処理場に運ぶこと２往復。ようやく小さな部屋が２つほどできてきた。僕を知っている関係者はこう言っただけで、先生とはどなたかとバレバレなので詳しくは書きにくいが、このゴミ屋敷をきれいにして、先生がここで研究でも昼寝でもしていてくれるようになるのが、この方の奥さんからの秘密指令なのだ。もっとも、先生ご愛読の艶本など掘り出し物もいくらか没収してきたが…。とにかくこの先生のズボラな暮らしぶりは関係者には知られており、いつ訪ねても部屋の中はケンタッキーフライドチキンを食べ終わった後のトレイの上のように、絶望的なまでに散らかっている。しかし、ヘンなところに神経を遣っていたりする。例えば部屋には数十万円、あるいはそれ以上したかも知れないカメラ類、電子顕微鏡、オーディオ器機やテレビ、ビデオモニターなどがそれぞれ繋げて置いてあるのだが、それをコントロールするものらしい器機が数台、リビング中央に据えてある。乱雑に置いてあるのだが、これを使っている姿を想像すると実に滑稽きわまりない。えーと、今ビデオ見せてやるからね。これを押して、ビデオつけて、こっちのリモコンでテレビをON。それで今度はオーディオのスピーカーから音が出るようにするから、こっちのリモコンで……ありゃ？　エアコンがついてしまった。こっちか？　ありゃりゃ？　なあんて、それぞれの器機と格闘している様子は、ほとんど漫画であろう。この話を、気の合う友人を誘ってはやっている「山荘焚火会議」の席で話したところ、会議の内容がそこから急に飛躍して、人類の進歩について話し合う結果となった。先生の行きすぎた機械化の一件からもわかるようにだな、どうも今の世の中は、これ以上便利にならなくてもいいというところまで進んでしまったようだ。という意見がきっかけになって、これからの進歩とはどういう形を取るのが望ましいのか、という話になっていったのである。確かに今の世の中を見回してみると、特に科学や技術面についてはこれ以上進歩しなくても結構というような気がする。最近ケイタイを変えたが、こんなに機能が必要ないし、リニアだなんだって鉄道だってこれ以上速くならなくてもいい。勝手に地デジに移行するなんて、ハイビジョンテレビがすごい宣伝しているけど、別に今のままのテレビでも十分だと思うし、僕の使っている編集ソフトだって素人じゃ絶対に便わないような機能ばかりが増えている。「もうこれ以上よの中便利にならなくてもいい」というのが山荘焚火会議メンバーが出した結論である。これからの進歩というのは、表面的には退化に見えるようなものなのではないか、とぼくらは考えた。例えば、電気炊飯器を使うのを止めて、ぶ厚い鉄の釜を直接火にかけて御飯を炊くようになったとする。これは一見退化のように思えるかもしれないが、「やっぱりお釜で炊くとオコゲもできるし、味が全然違うのよね」とみんなが納得し、お米本来の美味しさみたいなものを追求し始めたとしたら、結果的にこれは進歩ではないか。いずれかの未来に「ついに日本国内に一台の自動車もなくなりました！」ということが退化ではなく、立派な進歩として喝采で迎えられるようになるかもしれないではないか。さてこれから先、果たして人類は何もかもと欲張って限りなく進歩し続け、自分で自分の首を絞めるのか。それとも何かを棄て去り、どこかを少しずつ退化させて、新しい退化的進歩の道を見つけるのか。選択の時は迫っているような気がする。というような結論を導き出すこと自体、進歩についていけない世代のヒガミ根性などと言われてしまうだろうか。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.03

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  小沢一郎という政治家

  このところ意識して政治ネタは控えているが、民主党の代表選が面白くなってきたので少しだけ触れたい。すったもんだの末、菅総理と小沢元幹事長が代表選を戦うことになった。僕は個人的には菅直人という政治家に多少の思い入れがあったので、総理になって「金まみれの政治」と訣別し、清潔でわかりやすい政治にするという主張に拍手を送って菅体制に期待をした。しかし、消費税ＵＰ発言と普天間問題への無策ぶりを見るにつけ、これは何か違うと思うようになった。逆に小沢氏には自民党時代からダーディなイメージがあって、ちょっとムシズの好かんヤツと思っていたが、先日の討論会と今朝のＴＶでの小沢発言を聞いて、総理をやらしてみてもいいんじゃないかと思うようになった。小沢は、消費税ＵＰと企業の法人税下げには反対の立場だった。その理由はここでは書かないが、かなり説得力のあるもので、その理由も僕らが漠然と考えていたものに近かった。世論調査では小沢の人気はかなり低いが、これはマスコミの作り上げたダーディーなイメージ戦略に世論が引きづられているためだ。また消費税を上げなければ日本経済はダメになるという風評も、マスコミがこぞって煽り立てているが、これも財務省などの作戦を大マスコミが口移しして提灯持ちをしているからだ。消費税はあげなくても財政を建て直す方法はあるはずだ。それと諸外国に較べて税金が低いという話も、トリックである。消費税率だけみれば低く見えるが、燃料の二重課税や自動車関連税などなどを均すとむしろ高くなる。日本の官僚制度にとって、いま恐いのは小沢を総理にすることなんだろう。それで、あらゆる手をつかって小沢の足を引っぱっているのだろうと勘ぐる。といっても、僕は政治や経済についての専門家ではないので、自分のブログで細かい数字をあげて説明しようとは思わないが、ここまでの小沢発言をまっとうに受け取るかぎり、小沢を総理にしたほうが、日本にとって良いのではないかと思いだしている。もちろん、その結果裏切られる可能性もあるかも知れない。その時は、叩くだけだ。しかし、この選挙のしこりで民主党が分裂し、政界再編のドロドロが始まるとしたら、また日本は諸外国に置いて行かれることになるだろうな。 しかし、くだらんと思うのはネットの中での無責任な中傷だ。いわく、「ヤツは在日だ」「某宗教の信者だ」…、そんなのはどうでもいい。ようは日本のためになる政治ができるか否かだ。かつて関東大震災のときも、意図的なデマ宣伝で大勢の朝鮮人が虐殺され、さらに大杉栄や進歩的文化人や政治家なども殺された。　他人に根拠のないレッテルを貼り付けて、貶めようとする行為はする本人の品性が卑しさを証明しているようなものだ。 今は政治ネタで論争をしているゆとりがないので、コメントは不要です。明日から、また元の文体ペースに戻します。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.03

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  “ジジイ宣言”するものか

  『ビッグコミック』（小学館）に連載された小林よしのりのマンガ「遅咲きじじい」というのを読んだことがあるだろうか。いい歳(62歳)の遅咲散太郎の気ままな生活を描くギャグ漫画で、主人公を含め大人びた孫、臭いフェチの巨乳美人、幽霊の妻など登場人物のほとんどがどこかしら異常・変態である。はなはだ自虐的なマンガだが、けっこうオモシロイ。このマンガに登場するジイサンたちが歳をものともせず青春をやっているところが、なんともホロ哀しく笑える。男にとって（まあ女にとっても同じだろうが）青春からオジサン、そしてジジイへの過渡期が何歳くらいかを意識するのは個人差が大きく微妙なんである。もちろん僕もまだまだ青年だと自信を持って言い切れる年齢は過ぎ去ったが、精神構造だけでいえば尻尾はまだついている。しかしだ、ジジイだと諦めてしまえば、即その瞬間からジジイになってしまうこともできる。たいがいの男は孫が生まれると、「えーい面倒臭いなあ、どうせいつかはジジイになっちやうんだから、俺もうジジイでいいや」とヤケクソでジジイ宣言をしているのだろう、と思う。が、じつは肉体的にも精神的にも青年らしさを保ち続けるというのは、結構エネルギーが必要なことなので、早々と諦めているだけである。本当は誰も好きこのんでジジイなどと言われたくはないのだ。友人たちをみていると、このジジイを認めたとたんに、あちこちに弊害が現れている。達観したとたんにガンになるヤツもいる。「モウ、オトコとして見てくれなくてもいいや」と急に気が楽になってしまうものだからいけない。気が楽になると、体も楽になろう楽になろうとし始める。例えばちょっと前なら当然歩いていた駅までの距離が、何だか面倒臭く感じられ、タクシー乗っちやおうかな。などと考えてしまう。これはもう完全にジジイ的発想である。青年ならば、かるーく歩いて行くか。どうせワンメーターほどだし。と逆に考えるはずである。あるいは地下鉄やデパートなどでも、エスカレーターがある場合にはいくら混み合っていても、これを利用したいと無意識の内に考えるようになる。階段を駈け上がる若者なんかを横目で眺めながら、「あーあ、はりきっちやってもう」などと呟いたりするのである。肉体的な運動不足のみならず、例えば食事などでも“ジジイ宣言”は弊害をもたらす。オレはまだ恋を諦めていない。いつか一花咲かそうぜと意識していた間はぶくぶくと太ることを恐れ、夕食や夜食は控え目にと気も遣うのだが、一旦ジジイでもいいやと思ってしまうと、「どうせジジイだし。好きなもの好きな時に食って死ぬもんね」と開き直って、真夜中に栗ヨーカンを一本も食ってしまったりする。結果として当然、腹の肉がだらしなくなってくる。しかしジジイだからそれでもいいや、と気にも止めずに暴飲暴食を繰り返す。しばらくそんなことを続けて、ある日風呂上がりにふと鏡を見ると、「アナタは手遅れです」と鏡からジジイ宣言をされてしまうわけである。なるほどこういうふうにして青年はジジイになっていくのね、うるうる、と感慨ひとしおとなったときにはもう遅いのである。ま、男の場合だけではなく、女の場合も五十歩百歩。気を抜いて“オバサンでもいいわ宣言”なんかしちやうと、あっという間に少女はオバサンになってしまう。ただ女の場合は、少女からオバサンに至る間にオンナという都合のよろしい猶予期間が設けられている。これは、定義が難しいんのだが、少なくとも男の場合は、青年～ちょっと躊躇して迷っているうちにジジイに突入して、猶予期間は少ないのである。(まあ、異論反論もあろうがだ…)しかしちょっとフォローすると、この記事を読んでくれているオジサンたちに限っては猶予期間をたっぷりと使って、人生をエンジョイしていると信じる。いまどきこのむ時間にインターネットなどにうつつを抜かしているのはジジイになりきれないからだ。この猶予期間というのを有効に利用しないテはないだろう。つまり、孫が生まれたからといって、軽々に好々爺になって“ジジイ宣言”してしまうのは、戦わずして白旗をあげるようなもんである。僕もこの４月に初孫が生まれ、もうすぐ娘も出産する予定だ。しかし、簡単には白旗をあげないぞ、と。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.09.01

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  昔の若者が元気だった理由

  bonbonusさん＞外国に住んで，日本人の青年を長年，見てきていますが，この意気という感じが薄れてきているように思えます。何事にも計画的でそつなく、またもっともらしく答えるのですが、どちらというと無謀なあるいはハメを外すような荒唐無稽なアプローチはないようです。実現可能でなくてもいい、何かどでかい夢を語ってくれる青年は少なくなりました。日本の若者のことを書くと、辛口のコメントをくれるbonbonusさんはフランスに在住して何年くらいになるのだろうか。音楽だか演劇関係の仕事で渡仏して、（たぶん）パリジェンヌに拉致されてそのままフランスで暮らすことになったbonbonusさんとて、（その昔は）意思の弱いやさしい青年だったのではないかなぁ。ということで、僕の青年時代はどのようにカラ元気を出したか考察してみた。たしかに、この日本にいても最近の若者は元気がない、という話をよく耳にする。果たしてそうなのだろうか？　ぼくは基本的にこのテの大づかみなモノの捉え方が嫌いで、「最近の」なんて言われるとすぐに、「どれくらい最近？」と聞き返したくなるのだが、まあ止めておこう。とにかく最近の若者は元気がないという話を聞いた、と。で、本当にそうなのかなあと、自分の周囲にいる２０代の男の子を観察してみたところ、確かに少々元気がない。何かこう態度がハッキリしないし、「俺は絶対コレなのッだ！」という志のようなものが感じられない。志がないと、人間というのは元気がなくなっちゃうものである。日本の経済がどうのといっても、ボンヤリ生きようと思えばボンヤリ生きられる。そうやってボンヤリ生きている様子は、戦中戦後のゲキドーの時代を生きてきたジイサン、オジサンから見ると、ものすごく元気がないように思える。かくいう僕も戦争を知らないし、年齢的にジイサンたちほどゲキドーの日本を生きてきたとは言えないかも知れないが、それでも個人的にはけっこうゲキドーの青春を送らなければならなかった。だから十代後半から二十代半ばまでは、元気だけが取り柄であった。金もない地位もない才能もない、これで元気もなかったら生きている意味もない、という状況である。新宿の場末にあった日活ロマンポルノの映画館に入る勇気はないが、「ふッ……人生なんて虚しいぜ」などと捨て台詞をのこして、映画館を横目にアングラ劇場に向かったものである。当時はそうしたなかから育った寺山修司や青島幸男、野坂昭如などが活躍していた。この頃、理想的な生き方、いや死に方としてあこがれたのは、センセーシュナルな話題作となる小説で芥川賞とか直木賞をとって、惜しまれながら夭逝するというパターンである。しかしながら、日本の文学風土と青年らしい元気というのは、どうも伝統的に相いれないものである。「やたらに元気な文学青年でえーす！」なんてのは聞いたことがない。やはり日本の文学青年というのは、ちょっと病的で元気がなくて、太宰治風にすぐ死にたくなっちやうようなのが正統派である。しかしながら当時の僕は、この「元気のない文学者」を目指すにはあまりにも辛い状況にあった。才能が欠如していたし、生活にも余裕がなかった。で、俺は虚しいのさ……、人生なんてつまらんものよ…、と深刻ぶるのはたやすい。しかしギリギリの生活をしている中で、人生は辛い。ううッ、辛い！　と思い詰めてしまうと、これはもうどんどん深刻になってしまう。日本のえらい文学者の方々は、そうやって自分を追い詰めていく中で作品を生み出していったわけだが、僕は性格的にもそういうやり方は向いていなかった。ならばどのようにしたのかと言うと、実生活が辛くなってくればくるほど、それをはね返そうとしてカラ元気を装ったのである。例えば、ふつう腹が減ってきたとする。すると台所に放置されたほうれん草状態になり、段々しおれて、動きたくなくなるのが普通だが、僕は逆に腹が減ると、「散歩だ！　探索だー！」と、そこらじゆうを闇雲に歩き回ったりした。そんなことをすればますます腹が減って動けなくなるのだが、そうでもしないと堪えられなかったのである。しかし幸運というのはたいてい外に転がっているもので、無理して散歩をすると、結果的にぼくの腹を満たしてくれたりもした。どういうことかと言うと、散歩に出ると先輩の女性にばったり出会い（そのアパート付近を彷徨うからだが…）、食事をおごってもらったり、あるいはコーラの瓶を拾い、これを換金して即席ラーメンを買ったり…。現在ではほとんど見掛けなくなってしまったが、その昔、コーラというのはガラス場に詰められていて、値段の中に瓶代が含まれていた。空き瓶を酒屋へ持っていけばこの内の１０円の瓶代を換金してくれた。九段の北の丸公園付近は夜は当時はアベックといったカップルの名所。早朝行くと、コーラの瓶が転がっていた。また、当時は学生運動が最盛期で、過激になった学生たちにとって、コーラの瓶は火炎瓶として投げやすい格好の武器だった。神田から本郷にかけての路傍の隅をたんねんに探せば、物陰に隠してあることがしばしばだった。僕は東京の非公式の環境保護美化委員として、散歩しながら腹の減った目は必死に瓶を探して歩いていたのである。早朝散歩ながら目を皿のようにして、空瓶がないかギロギロ観察しながら歩いていた。発見すると、自衛隊の地雷撤去部隊よりも素早く目標物へと駆け寄り、「獲物発見！」と拾い上げて、風のように立ち去るのである。俺が歩いた後にはペンペン草も生えんぜ、というイキゴミである。昔から、貧乏人ほど元気であると言われるが、まさにその通り。金持ちで豊かな生活を営んでいたら、これほど敏捷に空瓶を拾うことはできなかったであろう。しかし、そんなふうにして、月末困窮者の僕がコーラの瓶を拾いまくっていると、やがて近所からはきれいサッパリ空瓶がなくなってしまった。“歩く環境保護美化委員”の僕だから町がきれいになったのはいいことだが、僕個人としては困った事態である。学生運動が下火となり、一方赤軍派などとさらに過激に深化してゆき、コーラが使われなくなったのである。いや、僕が拾ってしまうので彼らも過激にならざるを得なかったのかも知れない…。「誰か空場捨ててくれないかなあ」と天に祈ったが、それも叶わない。そんな空腹もいつしか、給料でなんとか満たせるようになってゆき、それとともに散歩の数は激減していったのである。学生運動もない、コーラの瓶を探す必要もない日本の若者が元気がないのはあたり前である!?こんな文章に、大まじめにコメントしないでね。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.08.29

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  「勇気」が足りないのだ

  世界中の人が日本人と同じ暮らしをしていたら、地球が二つ以上必要になる―。というニュースが駆け巡ったが、みんなそんなに贅沢な暮らしをしているんだろうか。僕には自覚はない。なんとか人生を楽しく送ることができれば、それだけで十分だ。ところで、人生において大切なものは？という質問に対して、喜劇王チヤップリンはこう答えたという。「愛と勇気とお金が少し」僕のようにつつましい生活をしていると、三つめのお金が少し、という部分に共感してしまうのだが、かのチヤップリンもそうだったのかと微笑ましい。全体的にこの答えは非常に正直で、明快である。もしこの答えが「愛と勇気」だけだったとしたらちょっと偽善の匂いがするし、「勇気とお金」だったとしたら、野心ばかりが目立ってしまうような気もする。やっぱり愛と勇気とお金が少し、この三点セットで決まり、なのである。さてこの言葉をそのまま現代の若者たちに当てはめてみると、どうだろうか。まず一番最初の「愛」。これはみんな大切にしていると思う。若者たちは人間的な愛情が薄いとか、情けというものを知らないとか、慈愛の精神に乏しいとか、いろんなことを言われがちだが、そんなことはないと僕は思う。いや、思いたい。もちろん中には、他者に対する愛に乏しい若者もいるだろうけど、そういう若者は現代に限らずいつの時代にも存在する。そんななかのアウトローがしでかした事件などを取り上げて、「ほらみろ、いまどきの若者ときたら……」と大網をかけたものいいで展開するのは、愚かしいことだと思う。最近、福祉関係の仕事の準備をすすめてきて、スタッフ候補の何人かの若者と接してきたが、僕の若かった頃とくらべても、ずっとしっかりしているし、考え方も堅実だ。大丈夫。みんな愛の大切さは知っているし、それを育もうと考えている、と、僕は信じる。さて次に、３番めの「お金を少し」。「少し」とは幾らぐらいを言うのかという議論はあろうが、これもほぼ条件を満たしている。今どきの若者は少しのお金なら、ほぼ全員が所有していると言っていい。御飯を食べるお金がなくて餓死した、などという話は聞いたことはない。みんなそれなりに豊かで、それなりに物欲を満たし、それなりに青春を楽しんでいるはずである。　　　　　　　　　　　　　　　‐ところで２番めの「勇気」はどうかと考えてみる。これがちょっくら足りない。仕事にしても恋愛にしても、みんな何だかくよくよ思い悩んでばかりで、ここ一発の勇気がない。よくよくワケを訊いてみると、どうも失敗を恐れているようなのである。「だって勇気を出して告白して、はっきり断られちやったらショッグだし、そんな悲しいメにあうくらいなら、告白しないで友達のままでいる方がいいと思う」なあんて生っちょろいことを言う人がすごく多い。そしてそんな曖昧な付き合いを恋愛だと思っている。仕事だってそうだ、勇気をもって取り組んで欲しい。違う違う！といいたいのだ。恋愛というのは、勇気を出して告白したところからようやく始まるのである。恋愛だけではなく、仕事でも同様。上から与えられた作業をブツクサ文句言いながらこなしている状態は、仕事とは呼ばない。本当の仕事というのは、誰にも指図されず、勇気を持って自分自身で新しいことを切り開いていこうと決意したところから始まるのである。何故そんなに失敗が恐いのだろうか？僕は、普通の人の一生分ほどの失敗を、２０～３０代の内に経験してしまった。４０、５０になっても失敗などあたり前のように繰り返してきた。人に迷惑もかけた。恥も沢山かいた。でもなんとかこうして生きている。大丈夫大丈夫。失敗しても殺されはしないのである。だから勇気を出さなくちやいけない。若者よ、今勇気を出さなきや、もう意気地無しのままの一生を送らなくちゃならんぞ。沢山失敗して、沢山恥をかいておかないと、これから先ますます失敗を恐れるようになる。そうなるともう身動き取れないんじゃないの。愛はある。お金も少しならある。足りないのは、勇気だけだ。と、何だか人生相談みたいになってしまった。偉そうなことを言ってしまってちょっと恥ずかしいが、これも失敗ばかり繰り返した経験があるから言えるのだ。モンクあるか。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.08.26

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  森にきく、森と語る

  ２１日に「森にきく、森と語る」という催しを、市内の森の中で行いました。詩人や歌人が集まり、森の舞台で思い思いに語り聞くという試みです。僕も、自作の詩と短編小説を読んできました。自分で言うのもなんですが、僕は若い頃はとてもシャイでしたから、人前で大きな声で語るなどということはとてもにがてでした。しかし、もうシャイなどと言ったら笑われる年代。とにかく始めなければなりません。　詩がのこる　　　　　　　ｍｓｋ．Ｉページ捲れば空があるどんなに言葉連ねても汚しきれない空があるページ捲れば森があるどんなに彷徨い歩いても出口みえない森があるページ捲れば海があるどんなに深く潜っても底のみえない海があるページ捲れば謎ばかりどんなに藻掻き悩んでもぼくに解けない謎ばかりページ捲ればなにもなくどんなに夜空さがしても小さく星が光るだけページを捲る人もなくどんなに涙溜めようと誰も読まない詩がのこるこんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.08.24

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  自己満足！

  もうだいぶ前になるが、めったに自分のものを買わないカミサンが気に入って買ったものに、素朴な画集や絵はがきがある。有名な画家の筆によるものではなく、ねむの木学園の子供たちの描いた作品である。彼女にしては珍しくいい買物である。「こんな絵だけれど、すごくいい！」と、買ってきたときに興奮気味に開いて見せたのだが、目にするなり僕もはっと凝視してしまった。彼女の言う通り、本当にいいと思ったのである。もちろん技術的なことを言えば、稚拙な部分はある。専門家にみせれば、デッサンがなってない、とか、色彩のバランスが…とか、あれこれ難癖をつけるかも知れない。しかし彼らの絵は生きている。花も緑も動物も山も青空も、生きて呼吸をしている。僕は描く方はからっきしだが、絵を見るのは好きなので、それなりに美術館へも足を運んだりする。しかしこれほど生きている絵を目にするのは、あまりない。理屈ではなく、胸の中へ直接飛び込んでくる何かが、これらの絵の中にはある。ある日、中川一政という画家の随筆集を読んでいたら、実に同感できる文章に出会った。「絵は芸術ではない」と中川一政は断言し、「絵の中に生きてうごめいているもの、それを指して芸術と呼ぶのだ」と書いている。これは絵だけでなく、文学でも音楽でも彫刻でも、すべての表現に当てはまる。芸術、と言ってしまうのは口はばったいが、とにかく表現の中にあって、生きてうごめいているものこそが尊いものであることに間違いはない。カミサンが買ってきた絵の中には、その尊いものが確かにある。少なくとも僕はそれを感じた。普段はケチなカミサンにしても、やはり何かを感じたから、この本やら絵はがきやらを買ってきたのだと思う。ぼんやりとこの絵を眺めていると、自己満足って大事だなあとつくづく思う。この絵を描いた子供たちは、誰かのためではなく、純粋に自分を満足させるために描いている。描くことで自分を満たし、それを楽しんでいる。尊い何かは、そこから生まれている。普通、自己満足という言葉は否定的な意味あいで使われることが多いが、決して悪いことではない。むしろいいことであると、僕は捉えている。何かの意味で自己満足がないと、表現というものは成立しない。いや、もっと広い意味……例えば生きる上でも、自己満足は必要である、と思う。自分で納得し、これでいいのだと思えないと、命は輝きを失う。他人が何と言おうが、まずは自己満足すること。それがなければ、人は決して前へ進むことができない。自己満足という言葉を換言すると、自分を信じることである。もっと大袈裟に言うなら、自らの生を肯定することである。もちろん自己満足だけで終わってしまう場合も多いがために、「自分だけいい気になってる」と非難されることもあろうが、それでも自己満足すらできない状況と比べれば、よほどマシである。まずは自分を満たすこと。自分以外の人もいい気にさせてあげるのは、それから後の話である。極端な意見かもしれないが、完璧に自己満足できている人は、他人をも満足させる力をもっていると思う。一人よがりで終わってしまうのは、本当に自己満足ができてないからだとも思う。自分を満たし、満足させる。これは簡単なことのようでいて、実はかなり難しい。僕も、自分で書いた川柳や文章になかなか自己満足することができない。そんなものを他人に見せても喜んでもらえるはずがないのだとも思う。楽しむ力、信じる力、愛する力など、様々な力がそこには必要になってくる。もしかしたら、勇気が必要なケースもあるかもしれない。しかし、いずれにしても人は、自分を信じ、自分を満足させることを支えにしないと、生きていけない。自分を殺し、不満足な状態で生きているのでは、命がないのと同然である。ねむの木学園の子供たちからずいぶん教えられるのである。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.08.20

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  「少し馬鹿」と「すごく馬鹿」の違い

  最近親しくなった女性（と言っても、まったく深い意味はない）から、唐突に「Ｍさんの好きな女性のタイプはどんな人？」と尋ねられて、ウッと返答に詰まってしまった。そういえば、そんな質問を受けたことはもうン十年もないし、それ以上に、好きな人間のタイプはあっても異性のタイプとなると、言ってみたところでどうになるものでもないし…と。その昔、好きになって付き合ったことのある何人かを思い返してみても、そこには何の共通性もない。容姿も性格も実にまちまちで、我ながらじつに一貫性がないなと思う。ようするに僕は昔から、好きになったらその人が自分のタイプになってしまうようなところがあるらしい。だからくだんの女性に「好きな女性のタイプは？」と正面切って訊かれ、うろたえてしまったのである。この時、苦しまぎれに返した答えというのが、「少し馬鹿な人」だ。するとその女性は、「逆に嫌いなタイプの女性は？」とたたみかけてきたから、僕も間髪を入れずに、「すごく馬鹿な人」と答えた。まさかあなたのような人とはいえないし、それが僕の偽らざる気持である。まず、少し馬鹿な人々というのは、文字通り少しだけ抜けたところのある人である。おっちょこちょい、という言葉に置き換えたら近いかもしれない。ようするに何をするにつけ完璧ではなくて、どこかにチラッと弱点や欠点が見え隠れする人。憎めない馬鹿とでも言えばいいのだろうか。そういう人が（女性でも男性でも）ぼくは好きである。（ホントウは、こういう人はおリコウな場合が多い）一方“すごく馬鹿な人”というのは、自分の愚かさを意識していない人である。世の中には色々な馬鹿がいるけど、まったく救いようがないのは、自分が馬鹿だと思っていない馬鹿である。勉強がよくできて、エリートコースをまっしぐらに歩んできた人にこのタイプの馬鹿は多い。このテの人たちは、勉強がよくできるということを即ち頭がいいと誤解しているふしがある。しかし僕に言わせりゃ、学力と頭の良さは別物である。だから経済を語り語学がものすごくよくできても、やっぱり馬鹿だという人は世の中にいっぱいいる。残念なことに、日本の政治家や官僚にはこのタイプの馬鹿がやたらに多いと思う。だからダメなのである。昔からよく言われることに性善説と性悪説というものがある。人間の本質は、善なのか悪なのかという議論だが、僕は前者に賛成したい。人間の本質は、きっと善だと思う。いや、そう信じたい。ならば何故、戦争や殺人や幼児虐待が起きるのかと言うと、これは人間が愚かなせいである。善だが、愚か。これが人間の本質だとぼくは思う。だからこそ自らの愚かさを知る、という態度が重要になってくるのである。自分のことを、つくづく馬鹿だなーと思える人は、きっと向上することができる。反省して、その馬鹿な面を改めればいいのである。あるいは逆に「馬鹿でもいいッ」と開き直り、信じた道をまっすぐに進むこともできる。世の中には正しい馬鹿というものが沢山ある。例えば古い言葉だが、「人生意気に感ず」なんて態度は、かつての小泉竹中路線風合理主義から考えると馬鹿そのものである。しかしその馬鹿は正しい。自らの愚かさを知る人は、こういう正しい馬鹿を実行に移すことで、人生を豊かなものにする。一方自分のことを馬鹿だを思えない人、自らの愚かさを知ろうとしない人は、結局反省することがない。従って進歩も学習もなく、永遠に馬鹿なままである。どうだろう。この際、自分を愚か者として意識することを起点として、生活を見つめ直してみては？　真に楽天的な人生を送るための第一歩は、ここにあると思うのだが。脱線したが、女性の好みでいうところの「少し馬鹿」と「すごく馬鹿」の違いは、馬鹿な会話を楽しめる素養があるか否かだ。食って飲むしかできない人は「すごく」のほうだと思うし、役にも立たない高度な教養を自慢げにひけらかす人も「すごく」のほうだ。と、自分の無教養な馬鹿さかげんを棚にあげていうのであるのだが…(-_-;)、ホントは僕を好きな人はみんな好きなんである！こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.08.19

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  大きくなって、なにになった?

  「大きくなったら、何になりたい？」大人というのはどういうわけか子供の顔を見ていると、この子は将米何になるのだろうと、ついついよ計な御世話的疑問を抱いてしまうものである。かく言うぼくも、父親を代表する親バカであるが故に、自分の娘にこの質問をしてみたことがある。「何になりたい？」とぼくが尋ねると、とたんに娘は不審げな顔をして黙り込んでしまった。まだ三歳くらいだったので、質問の意味するところが理解できなかったらしい。そこでぼくはもう少し噛み砕いたつもりで、「大きくなったら何になりたいの？　何でもいいんだよ。好きなものになればいいんだから。何になりたい？」と繰り返し尋ねた。すると娘は目を真ん中に寄せて、じっと考え込んだすえに、「イチゴになりたい」と答えた。当時彼女はイチゴが大好きだったのである。好きなものになればいいと言われてイチゴになると答えた彼女の発想は、なかなか詩的であると褒められないでもないが、「イチゴは食べられてしまうんだよ。それでもいい？」と聞いたら、「じゃあ、イチゴのお母さん」ときた。さてぼくは子供の頃に何になりたかったのかというと、養蜂業である。その理由として「四季折々の花の時期を追って、日本中を歩きたいから」などと、ロマンチックなことを当時の作文に書いていたと思うが、本当はほかにもなりたいものがあった。小学六年生当時、ぼくらのクラスにＡ子という可愛らしい女の子がいた。いや、可愛いと思っていたのはぼくだけかも知れないが、ぼくが好きだと言うことはクラスの仲間に知られまいと、なるべくそっけなくしていた。このＡ子が、日頃から、「私は将来バスガイドになりたい」と言っていた。今だったらスチュワーデスとか局アナとか、もっと違ったものを言ったかも知れないが、当時の田舎ではバスガイドはけっこう憧れの職種だったのである。これを耳にした男子たちは、Ａ子のバスガイド姿を思い浮かべ、口には出さなかったけれども胸の中で、「いいなあ。Ａ子のバスガイド。そのバスに乗って旅行をしたい！」などと熱望していたと思う。だからぼくは、バスの運転手になりたいと夢見たのである。もちろん、Ａ子がバスガイドで日本中あちこちに運転してゆく。一泊、二泊の旅行ともなれば、現地ではバスのなかでＡ子と星をみて夜を過ごす（などと、おバカなぼくは妄想していたのである）。ところがこれは、同じクラスの友だちに知られることは絶対にできないと思った。将来はバスの運転手になりたいなどと公言しようものなら、「あっ！　お前はＡ子のことが好きなんだな！」と気づかれ糾弾されてしまう。いくら口で否定しても、額の上にぺったりと。こいつはＡ子のことが好きなのだ。やーいやーい！　というレッテルを貼られてしまうのである。だから、ぼくはあからさまに運転手になりたいなどと言えず、日本中を旅する養蜂業に軌道修正してしまった。子供なりに知恵を働かせ、僕が行った先にはＡ子がバスガイドとして訪れるはずだし、これなら知られることもないだろうと、浅知恵を働かせたのである。いや～、今にして思うと純朴で恥じらいに満ちた選択であったが、自分で言うのも何だが、まことにプリティな発想である。のんびりと日本中の花を追って暮らすはずだった小学生のこのぼくが、あくせくと仕事に追われ追われて、生きてきたなんて、どうしたことだろう。一体どこで道を踏み違えてしまったのだろう？あの頃「イチゴになりたい」などと言っていたぼくの娘も、一昨年に結婚して、この秋には子供が生まれる予定だ。夢をかなえてイチゴのお母さんになるのである。ところであなたは子供の頃、何になりたかったのか？　思い出してみてどれほど夢が叶ったか、現在の自分と比べてみるのも案外おもしろいのではなかろうか。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.08.18

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  世のお父さんは●変である

  このところ、この身が２つか３つ欲しいほど忙しくて、ブログの存在をすっかり忘れていた、というのはウソ。とにかく今の時期はとくに大変だからだ。でもﾑﾘしても書かなければ、毎日開いてくれている方々に申し訳ないというより、あいつは死んだと思われる。世間の常識では「忙しい＝稼いでいる」となるようだが、僕に限っては「忙しい＝ますますビンボー」なんである。ようするに、稼ぎにならずないコトばかり忙しかったのである。友人たちは僕のカミサンを見て、「Ｍの奥さんは大変だねー」と、無責任にのたまう。確かに、カミサンは大変である。しかし僕のカミサンだけでなく、どこのお母さんだって大変なのである。先日も、同じ幼稚園に通う母子グループが山荘で親子合宿をしていったが、その賑やかで慌ただしいことといったらなかった。部屋の中は終日ドタバタと駆け回る足音と叫び声。犬の尻尾はひっぱるし、障子には覗き穴がブツブツあく。若いお母さんたちは、八面六腎の活躍をしいられて、傍で見ていても気の毒になる。美しい目が少し吊り上がってしまうのも無理はないし、父親にそのストレスを八つ当たりするのもしかたがないか、とも思う。それでも、「ひさしぶりにみんなゆっくり楽しめました」とニコニコと皆さん余裕の表情で帰られた。真面目に子育てをしているお母さんたちはエライしほんとうに大変だとおもう。「そこへいくと父親なんて、てんで気楽なものよねえ」と、世のお母さん方は思っているに違いない。確かにお父さんは、お母さんに比べれば気楽な存在かもしれない。しかし全然大変じゃないかというと、そうでもない……と小声で言いたい。正面切ってでかい態度で言うと、本当に大変な毎日を送っているお母さん方に「大変さが違うよ！」と叱られそうなので、ちっちゃい態度で反論するが、お父さんだって時々大変である。それが大袈裟ならば、小変とでも言おうか。お母さんは大変、お父さんは小変。何だか少しヘンな人みたいなニュアンスだが、実際この間の親子合宿を見ていて、そんなものだと思った。しかし、お母さんが大変だと、同情を禁じえなかったりするのだが、お父さんが大変、いや小変だとどういうわけか喜劇的な印象が強くなり、笑いを禁じえなかったりする。例えば、このあいだこんな場面に遭遇した。またビロウな話で恐縮だが、僕は山荘のトイレにしゃがんでいた。そういうのイヤッ！　私は生まれてこのかた一度もトイレなんか入ったことない、という上品な方は、ここから先は読まないで欲しい。山荘のトイレには、和式と洋式と二種類ある。「うーむ、やはりひとりでいられるトイレの中は落ち着ける。こんな静かなひとときがいいんだなぁ」と年寄りじみた感慨に耽っていた。と、そこへ闖入者があった。もちろん僕の入っている個室ではなく、すぐ隣の個室にバタバタと入ってきた者がある。どうやら釣りに訪れた父子連れであるらしい。男の子をトイレに連れてきたのであろう。二人の会話は声高で、隣の個室にいる僕の耳に筒抜けであった。「ほらッ、早くしろ。出たか…」「まだ。んん～ン…！……出たあ。でっかいの出たよ！」「いいからッ、　ほらパンツ穿いて」ここで水洗の音が響いた。子供はおそらく４、５歳。お父さんがやけに焦っているのは、自分も便意を堪えていたからであるらしい。声に切羽つまったものが感じられる。「早くどいてどいてどいて。脇によけていなさい」「ねー、見ていーい？」「何が？」「出たら見せてね。でっかい？」「んむむむ……」「ねー、出たあ？　出たあ？」「うるさいなッ！」「出たら見せてよ！　ボクのだって見せてあげたんだから、見せてよ」「うるさいなあもう。く～、ンッムムムム」「ねー、出たあ？　見せてよー」「ったくもう。ほら見ろ、見ろ！」「……ウひゃあ！　でっかーい！　おとうさんのすっごーい、くさい！」再び水洗の音が響いて、二人はバタバタと出ていった。その間、僕は笑いをこらえるのに一苦労した。子育ての頃を思い出して、父親としてそのお父さんのフクザツな心境が手に取るようにわかり、よけい可笑しかった。この例にも明らかなように、お父さんの大変、いや小変さは、何故かお笑い系な色あいが強い。しかし、隣の個室で笑いと足のしびれをこらえている僕もほんとうに小変であった。いやはや…。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.08.16

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  愛しき人へ

  長いこと放置プレーですみません。いいコメント頂きながら返事もできずすみません。ひたすらm(_ _)mm(_ _)mです。一昨日から、９人の若いお母さんたちと１０数人のチビッコたちが山荘に泊まり、川あそびや流しそうめん、森の冒険などと賑やかだった。山荘のオジサンもひっぱりだされて、川あそびや、ホタルの森の案内などをしてきました。子どもと遊ぶのは、ツカレル…。と一転して、今日は広島に原爆が投下された日。わが街でも、この時間にあわせて「市民平和祈念式典」が行われ、僕も主催者実行委員のひとりとして参加してきたところだ。一昨年のブログにも書いたが「平和」という言葉が、特定の人たちだけのものでなく、人類すべてにとっての希求であるべきだという考えで、所属する宗派や政治信条にかかわらず参加をもとめ、ひとつの行事として行ってきて、もう２４回になる。四半世紀ともなると、当初出席されていた方々もだいぶお亡くなりになったりして、様変わりしてきた。あの頃青春だった方も高齢者となったが、いまだ青春をひきずっている方もいる。そんななかの一人の方の手紙を紹介しよう。　………………………………………………………………………………安雄さん、あんなに戦争反対で、外交官となって平和の世界のための貢献したいと志望していた貴方にも、学徒出陣命令が来た日のことを忘れることができません。私の一生を縛る事を恐れ、生きて帰ったら結婚しようと、握手だけで別れた貴方の手のぬくもりがまだ私のなかに残っています。私の写真を背負って、片道燃料しか積み込まぬ特攻機に乗り込んで出撃したとの事を戦友に聞き、武運長久などと月並みな言葉で送り出した、幼かった自分が悔やまれてなりません。　出撃の前夜まで、六法全書を読んで居られたそうですね。「両親や恋人の居る日本に、敵機を一機たりとも入れさせない為の出撃なら、納得して空母に突っ込んで見せる」と笑顔で手を振りながら、機上の人となったと聞きました。叩かれても、踏みつけられても起き上がるような、健康な体と健全な意志を持った前途有為な青年を、むざむざと見殺しにしてきた戦前の日本が恨めしくてなりません。貴方が男性として余りにも素晴らし過ぎた為に、私はすぐに今の夫や他の男性を貴方と較べてしまう、この悪い癖が私を不幸にしているようです。責任の一端は貴方にもあるのですよ。若かった私を傷つけてもらいたかった、悪い貴方で戦地に赴いてくれていたならと、今でもあなたを恨めしく思っているのですよ。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.08.06

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  絶唱・長沼智恵子

  もう亡くなっているが、兄嫁の母親が通っていた日本女子大の同窓に長沼智恵子という女性がいた。のちに高村光太郎の妻となった智恵子である。智恵子は明るく明朗な女性だったという。テニスがうまく、颯爽と自転車を乗りまわす長沼智恵子の姿が、日本女子大のキャンパスを駆け抜ける姿は爽やかな風のようだったという。卒業後の絵画研究所での智恵子のようすは、夏目漱石にも絵を教えた津田青楓によれば、もの静かだが真綿の中に爆弾をつつんで、ふところにしのばせているようにも見えた、という。着物の裾から真赤な長橋伴をのぞかせ、コバルト色の長いマントの衿を立ててはおり、世間の常識を艶然とひるがえすアーティストという風情だ。そんな智恵子が光太郎と出会いドラマは始まる。彫刻家、画家でもある彼のアトリエでの智恵子は、もっぱら聞き役で、話しても語尾が消えてしまうようなはかなさだったのは、彼の魅力のとりこになり、恋する女性へと変貌していったからだ。ふたりの愛は昂揚し結ばれたが、芸術家夫婦にありがちな経済に無頓着さ（身にしみるなー）から生活面での行き詰まり、光太郎のますます芸術への傾倒と、彼女の絵画でのつまずき、そして帰るべき実家の破産と離散などが重なり、精神的に追いつめられていった。さまざまな困難が荒波となって押しよせるなかでの彼女の自分との闘いは、黙々と進行していった。「曖昧をゆるさず、妥協を卑しんだ」という彼女の性格から、「精魂つきて倒れたのである」と、光太郎は書いている。昭和９年、病の発症がみられた智恵子は、精神分裂症（統合失調症）と診断される。母や妹のいる九十九里浜に転地療養、光太郎が一週一度は汽車とバスを乗り継いで訪ねて行った。智恵子はあどけない幼女になって千鳥とあそび、松の花粉が飛ぶ防風林に立ち、時には「光太郎、智恵子、光太郎、智恵子……」と一時間も連呼したりした。年末には海岸から自宅アトリエに連れて帰ったが、「病勢はまるで機関車のように驀進して来た」（光太郎）。さっきまで幼女だった知恵子が突然に男言葉で夫にくってかかったり、声がかれるまで独語や放吟し、拒食する。狂暴となった彼女が往来へ飛び出さないように、家のドアに釘づけしなければならなかった。翌年二月、南品川のゼームス坂病院に入院。１３年１０月５日、光太郎に手をとられて、静かに息を引き取った。彼女の自室には、才能をみごとに開花させた千数百点の切絵作品が遺されていた。亡き妻の写真の前に、花とレモンを置いて暮らした光太郎は、翌年、「レモン哀歌」で彼女の最後の日をうたった。切絵を夫に見せるときだけ、うれしそうに微笑した彼女だったが、こと切れる直前、夫の手からとったレモンをがりりと噛んで、意識がもどったかのように、眼に生気が戻りかすかに笑った、という。光太郎は死の翌日、友人の難波田龍起へハガキを書いている。ただ一行、「あわれな一生だったと思います」のひと言に、光太郎の万感の想いがこもる。愛と信頼をもって出発した結婚生活の、あの日あの時が光太郎の胸中に甦る、ことばには表せない悲哀のなか、何かほっとするような放心の日だったかもしれない。画家の難波田は小学生のときから昭和１０年まで、光太郎と同じ番地の家に住んだので、神秘的な夫妻のありようを、つぶさに知っていた。夫が漬物屋で買い物をし、妻が外でパラソルをかざして待っている日の姿。原始的な機械で夫のちゃんちゃんこのための機織りをする妻の姿。そして、急に変貌する知恵子…。光太郎の詩「同棲同類」のはじめに、　　……私は口をむすんで粘土をいじる。　　……智恵子はトンカラ機を織る。　　……鼠は床にこぼれた南京豆を取りに来る。光太郎は、智恵子の死の打撃のあと「猛烈に仕事に専念」する。『智恵子抄』の刊行されたのは、戦争の始まる１６年８月であった。この後、光太郎は戦意高揚のための戦争協力詩を多く発表した。 しかし、1945年4月の空襲によりアトリエとともに多くの彫刻やデッサンを焼失し、宮澤賢治の実家などさんざん逃げ回ったあげく、ようやく戦争の愚かさと悟るのであった。終戦後、岩手県花巻郊外に粗末な小屋を建てて移り住み、ここで７年間独居自炊の生活を送る。これは戦争中に多くの戦争協力詩を作ったことへの自省の念から出た行動だった。この小屋は現在も「高村山荘」の名前で保存されているという。自分の文芸誌に「新宿・中村屋」のことを書いていて、このように調べが高村光太郎にも及んだ。その文芸誌は７月初旬に編集が終わっているのに、「子ども自然学校」や諸々の行事が重なり、まだ送れないで居る。ということで、身体かひとつしかないためにネットは放置せざるを得なかったわけです。皆さん、朱鷺子さん心配させてスミマセンでした。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.07.26

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  情死

  有島武郎（たけお）は、婦人公論記者で人妻であった波多野秋子との恋愛を秋子の夫に知られ脅迫されつづけたことから、軽井沢の別荘で心中した。この心中は情死事件とセンセーショナルに報じられ、死者をも鞭打つように叩かれた。武郎の師であった内村鑑三にいたっては「有島武郎を少しでも讃える者あれば、その者と絶交する」とまで怒り心頭となった。では、よく文学者にありがちなふしだらな関係からの心中だったのだろうか。僕はそうは思わない。有島武郎はほどよく女をもてあそぶようなことのできない生真面目さがあったから、心中にまで追い詰められたのであろう。有島武郎は早くに妻を亡くしている。仲の良い夫婦であったという。妻が死んだ後、武郎から弟に宛てた手紙がのこっている。淡々と書きしたためられているが、行間からはひしひしと妻への哀惜の情が伝わってくる。子供の御世話を何共難有う。安子からも何事も云わず僕からも何事も云わず二人は静かに永訣しました。僕は彼女の愛を虐げなかった事をうれしく思います。愛のふみにじられなかったものの死は美しいものです。今はもう悲しむべき時ではなくなりました。安子が二月八日に書遺しか文の中に、子供達には私の死と云う事を知らせない様にしていたゞき度いと思います。御葬式などには参列させないで下さい。小さな清い子供心に、死とか御葬式とか云う悲しみを残させる事はほんとに可哀相で、又悪い事で御座います。ほんとにどうぞ知らせないように、お葬式の日などにはどこかへ遊びにやって下さい。女中達にも皆んなに云いつけて決して私の死を知らせては下さいますな。必ず、大きくなって知る時が参りましょう。それまでは病気と云う事にして置いて下さい。と子供の事が書いてありました。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　武郎生馬様この朝、有島武郎は軽井沢の別荘にいる父武に、至急電報を打った。「ヤスコ　ケサ八ジ　シヅカニユク」と。その夜、妻安子が生前愛誦した聖書の一節をを読んで、有島はひとりで棺前式をおこない、そして、この手紙を弟に書いた。有島は、陸軍中将神尾光臣の次女安子と、日比谷公園の松本楼で見合いをした。アメリカ留学からの帰り、母校の東北帝大（北大）に赴任していた有島は、安子との新婚生活を札幌でスタートした。東京女学館に在学中に結婚した若妻にとって、そそうをしてもただ微笑している夫を、少し物足りないなどとぜいたくな不満をもつくらい、優しすぎる夫だった。そして結婚３、４年の間に、３人の男の子が生れた。しかし、その夫妻の幸せは、長つづきしなかった。安子に病魔がとりついたのだ。一家で東京に帰り、安子は鎌倉、平塚への転地療養にはいった。安子が平塚の病院に入院した１年ほどの間に、有島は妻へのハガキを１６７通も書いた。西洋の少年少女や美しい花々の写真のある絵ハガキに、病妻はどれほど慰められただろう。北大へ辞表を出すために向かった有島は、彼を墓うたくさんの教え子に見送られ、惜しまれつつ札幌を去った。その後は妻の病状悪化に憂い、また一時の回復にかすかな喜びを見いだす日々であったが、翌年の６月、大喀血があり、８月２日、夫ひとりに看取られて、２７歳の若さで安子は逝った。有島は葬儀のあとすぐに、軽井沢の家にこもり、安子の遺稿の整理に専念した。父がタイトルを「松むし」とつけた安子の遺稿集を４００部つくり、配り本とした。内容は、安子の写真、「病床雑記」、７１首の短歌、親族知友による弔歌・悼句と、有島の書いた「はしがき」「終焉略記」。本が出来たとき、「これは安子の内生活最後の遺品だ。抱きしめたいほどだった」と日記に書いている。このように人に対して微笑みをたやさず、心からやさしく慈しむ気持ちをもった有島武郎に、波多野秋子が心を傾けたとしても、それを咎め、死後まで鞭打つことをできるほど、世上の人々は正しく生きているのだろうか。僕にはそんなことはできない。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.07.13

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  宮澤賢治のことなど

  僕の恩師のＴ先生は、農業高校の校長を最後に定年となり、その後は地域の農業者を集めて農産物の商品化などの指導をして人望を集めている。９０歳を越えたがまだ農作業に精をだしておられる。Ｔ先生には高校時代からずっと年賀状などでおつきあいをいただき、ご自分の本を出版するときにも声をかけていただき、お手伝いをした。というのは本題ではなく、そのＴ先生は昔から宮澤賢治に心酔しており、自分でもまるで賢治のような生き方をしてこられた。それで僕も宮澤賢治についてあれこれ調べたりすることもあったのだが、僕にはもうひとつすっきりと賢治をかみ砕くことができずにいるのだが、その理由は自分でもうまく説明できない。宮澤賢治を考えると、どうしても彼の両親や彼の妹のトシの存在について触れないわけにいかない。賢治という偉大な詩人を生んだわりに、両親はどちらかというと蔭の人である。しかし、賢治を語るときには、この二人をなおざりには出来ない。父親のほうは、賢治との宗教的対立という大きな事件があった。ゆえに賢治の思想形成上、重要な役割りを演じている。年譜的には母親は影は薄い。しかし、次のような言葉が賢治の生き方そのものに大きく影響を与えているに違いないと感じる。「人というものは、人のために何かしてあげるために、生まれてきたのス」この母の信条があってこそ、賢治の思想が形作られたのだと思われる。すなわち、「世界全体が幸福にならないうち、ひとりの幸福はあり得ない」（『農民芸術概論』）。考え方として共感はできるが、しょせんは宗教的理想論という感じに落ち着く。賢治は昭和８年９月２１日に亡くなった。２年前、東京で発熱し、身の危険を覚えて両親あて遺言をつづった。その遺書の日付が、奇しくも９月２１日であった。亡くなる日の様子は、いろいろな形で残されているがおおよそはこんなふうだった。朝から、どうも思わしくない。母イチは自分の実家に電話をし、熊の胆を届けてくれるよう頼んだ。気付、強壮剤として昔から効き目を知られている。午前１１時半、２階から、賢治の「なむみょう法蓮華経」と唱える声がした。家族が驚いて駆けつけると、賢治の容体が急変している。父の政次郎は筆と紙を持ってくるよう、イチに言った。イチが、何に使うのかと聞くと、政次郎は、遺書を書き取る、と言った。イチは血相を変えて反対した。息子に、お前はもう死ぬと教えるようなものである。むごい、となじると、政次郎は、そうじゃない、と言って、２人はしばらく押し問答になった。賢治の枕元で、政次郎は賢治に、言い残すことはないか、とたずねた。賢治は、『国訳妙法蓮華経』を千部印刷して、知友にわけてほしい、と頼んだ。そのお経の末尾には、次のような言葉を記してほしい、と口述した。政次郎はそれを書き取って、他にないか、と聞くと、いずれあとで起きて書きます、と答えた。政次郎は、お前は偉い奴だ、とほめた。イチを残して皆、階下に降りた。賢治は母に水を願った。コップをさしだすと、嬉しそうに飲み、いいきもちになった、と礼を言った。そしてオキシフルをつけた消毒綿で、手や首をぬぐい、体をふいてあげると、いいきもちだ、と何度も喜んだ。イチが布団を直し、ゆっくり休みなさい、と立ちあがり部屋を出ようとしたとき、呼吸が変った。享年３７歳であった。賢治の遺言の『国訳妙法蓮華経』は、政次郎によって翌年の６月に発行された。父政次郎は浄土真宗門徒である。賢治が夢中になったのは法華経（日蓮宗）であるから、複雑な思いもあったかも知れないが、親として息子の遺言通りの願いをかなえている。このあたりになると、僕も父との関係を思い出す。僕の父は曹洞宗の寺の檀徒総代をしていた。そのため寺への使いにたびたび使われた。また、政権党の代議士と近い関係もあったので、僕とはたびたび政治や宗教については議論の対立があり、親戚が中に入って仲裁されたこともある。ゆえに特定の政党や宗教に関わることに強い抵抗感のある僕がいるのであるが、またその激しい議論があったからこそ、政治や宗教を外から学ぶ機会もあったのだと思う。晩年の父とはとても良い関係を築くことができたと思っている。互いに、互いの立場を思いやるゆとりができたということだったと思う。と、とりとめもなくだらだらと書きつづってきたが、宮澤賢治についてはいずれもっと具体的にまとめることができたらと思っている。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.07.08

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  勝負と賭博

  昨今のニュースを賑わしている角界の賭博問題について、どこか釈然としないものを感じている。建前でいえば、賭博行為に手を出し、明るみにでたのだからお咎めがあるのは当然であろう。処罰されるほうも改悛の様子を見せているのだから、糾弾は正しかったののだろう。しかし、処罰された関係者が「俺が悪かった。悪いことをしてしまった」と本心から思っているだろうか。たしかに大金を賭ける賭博行為は、暴力団などの闇組織につながりやすい。またのめり込んで常習性に陥ると生活破綻にまで堕ちやすいなどの弊害が多いから、規制する必要はある。しかしこの世の中、ましてや勝負の世界からギャンブル性を排除したら、とてもつまらないものになるだろう。例えばパチンコや宝くじはもちろん、ジャンケンにしても広義のギャンブルである。麻雀なども金を賭けなければよいというキマリになっているが、金を賭けない麻雀はコーヒとクリープどころか、炭酸の入らないコーラのようなものである。商品先物相場や金融市場は国際的な賭博場そのものだし、そして、個人として究極のギャンブルといえば、生命保険などもそうだ。自分の命を賭けて、死んだら胴元（保険会社）から大金を（受取人が）せしめる。運悪く（？）満期まで長生きしてしまったら、掛け金のほとんどを涙金程度の返戻金で巻き上げられる。その間に胴元の会社が破綻したら掛け金が戻らない場合もある。夫婦関係もそうではないか。この相手となら、きっと幸せになれると思って選んだ相手が、とんだスカンピンだったり、ハズレクジだったり（と、わが妻も思っていることだろう）…。このように人生はギャンブルの連続である。しかし、だから退屈せずにおもしろいともいえる。このように言うと、「世間の常識を越えるからいけないのだ」などと訳知り顔がシャシャリでる。世間の常識などというものは、個人の主観で変わる。ホリエモンが景気が良かった頃、彼の１万円札は僕の１００円玉以下ではなかったか。と、やや乱暴な例をあげてきたが、もっと真面目にいうと賭け事は勝負師としての勘を養うためのトレーニングとしてしばしば使われている。囲碁や将棋のプロ棋士は、アマチュアとは格段のちがいがある。どんなに強いアマチュアでもプロの一番弱い人に及ばない。大学の囲碁部といえば、アマの世界では別格の実力者揃いだが、大学からプロに転向した人で大成した人は少ない。ちなみに僕の姪は、将棋で高校・大学と全国優勝してプロをめざしたがとうとうプロにはなれなかった。それらも結局は、頭脳という天分だけでない、勝負師としての才能にもかかわっているからだ。ここだけの話だが（って、書いてしまうが）、囲碁にはプロ棋士をめざす天才たちを集めた院生という制度があるが、そこでの少年たちはしばしば１目幾らという賭け碁でガチンコ勝負をさせられる。惜敗であればそれほど傷が深くないが、大敗するとン万も払わなければならなくなる。支払い能力のない少年は親や師匠が払う。子どもは、親や師匠に迷惑を掛けたくないから、一局一局を真剣に戦わざるを得なくなる。負けたら泣きながら徹夜になっても敗因を研究し尽くす。こんな積み重ねをしてプロになった棋士にアマが勝つわけはないのである。さて、戻るが肥満児の集まりの相撲取りがそこまで意識してギャンブルに励んでいたのかどうかはわからない。しかし、勝負心とギャンブル勘とは切り離せないところがある。十数年前に仲間内のあそびでチンチロリンというサイコロゲーム（笑）をしたことがあるが、博打は付きのない相手のところには集中的に勝負にいくのが鉄則である。丁か半しかないのに、絶対に強い人が勝って弱気の人が負ける。放し飼いの養鶏場で、傷を負った鶏はしばしば仲間につつき殺されるが、それに似ている。そうなると、ただの運ではなく、勝負勘に弱いから負けるべくして負けるのである。よくギャンブルの負けをギャンブルで取りもどそうとするが、そんな行為は胴元にとって格好のカモネギである。大嶽親方＝元関脇貴闘力は、ギャンブル好きだったという。現役時代の激しい闘い方を思い出してもさもありなんと思う。単なる稽古だけで培われたものではない迫力があった。彼のギャンブル好きと相撲での強さには相関関係があったはずである。でだ、だから相撲取りがギャンブルをしていいかと問われれば、いいとは言えない。しかし、そのうちに隠れてするか、恥ずかしそうにパチンコに通う力士はでるだろう。角界がどこまで本気でギャンブルの撲滅につとめるかどうかわからないが、真面目に徹底すればするほど、ハングリーな外国人力士が闊歩して、番狂わせの少ないつまらない大相撲になってゆくことは間違いないだろう。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.07.06

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  賞金の使い道

  太宰治は芥川賞で欲しかったのは副賞であって、正賞ではない。芥川賞の正賞は時計である。副賞が賞金。芥川・直木賞の発案者の菊池寛は賞金だけでよいと言ったが、それではどうもむきだしみたいで落ち着かないいわれて正副の賞を作った。芥川賞の価値、とは何だろう。昔、放浪の画家山下清は、兵隊の位をものの尺度とした。人によっては、なんでも金額に換算して考える癖の人もいる。人それぞれの見方であって、それが正しいとかそうでないとかの問題でない。受貧者の受賞作（厳密にいうと受賞作が収録されている単行本である）が、現在、古本屋でどのくらいの値段で取引されているのかが、芥川賞に対しての世間の認識の一端が読みとれる目安になるかも知れない。なお、ブックオフなどはリサイクル書店と古書店とはまったく価格形態がちがう。ブックオフは不要品を引き取る。古書店は、希少本などに値段をつけて流通するから一種の骨董品のようなものである。東京大田区の古書店「龍生書林」の相場で見てみよう。一つご注意したいのは、ここに示す金額は、保存状態のきわめて良い初版本の相場である。初版であっても汚れたもの、傷のある本は、極端に値が安いとのことである。たとえば第三回の受賞作、鶴田知也の『ヲンャマイン記』（昭和11年）は２０万円だが、カバーが欠けているとその１割にも満たない額になる。汚れの加減によっては、２０万円の本も２千円以下、という場合もありうる。文学書の初版本は、出版された当時そのままの姿で、手垢ひとつ付いていないのを、よしとする。本来、帯のあった本は、帯付きでなければ評価されない。第１回の『蒼眠』は帯付きなら５０万円だが、帯がなければ１５万円である。もっとも、これの帯付きは極めて珍しいそうである。帯１本で３５万円の開きが出来る。いずれ売ろうと思ったら、徒やおろそかに小説本の帯や箱を捨ててはいけないのである。帯の惹句は、時代の雰囲気を如実に伝える資料で、また誰がどのような推薦文を書いたか、貴重な文学資料ともなるからである。第４回は石川淳の『普賢』と冨渾有焉男の『地中海・法廷』。前者は箱帯付きで１５０万円、後者は帯付き３５万円。第５回は尾崎一雄の『暢気眼鏡』４５万円。当時３７歳だった尾崎は２人の子を抱え、貧窮にあえいでいた。受賞が決定すると、時計はいつでもよいから賞金だけ一日でも早くもらえまいか、と文藝春秋社に懇願した。賞金を手に行きつけの質屋に駈け込み、衣類を受けだした。質屋の主人が無性に喜んでくれ、「これで私どもと縁が切れておめでたいことです。ついてはお祝いに一献さしあげたい」と言ったという。しかし五百円の賞金は、１ヵ月たつやたたずで底がつきた。尾崎は例の質屋に正賞を預けに出かけたら主人が実にがっかりした顔を見せたという。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.07.04

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  芥川賞を有名にした功労者

  文学賞には数々あるが、どの作家も一度は欲しいと思っているのは芥川賞か直木賞であろう。純文学の新入賞である芥川龍之介賞、大衆小説の直木三十五賞が制定されて、70年以上になるが両賞の知名度と人気は、抜群に高い。小説を読んだことのない人でさえ、知っているが、なぜそうなったのだろう。まず考えられるのが賞金。第１回（昭和10年）から第20回にかけての賞金は、５百円だったという。当時は５百円あれば、妻子を抱えて半年間はゆうゆう生活できたというから、大した額であった。第１回の芥川賞受貧者は、石川達三。作品は南米移民を題材の「蒼眠」。この時の候補者に外村繁、高見順、衣巻省三、太宰治かおり、２６歳の大宰は盲腸炎をこじらせた。その治療に使われたパビナール（ようするに鎮痛の役目をする麻薬）中毒に苦しんでいた。パビナールは常習性があったためその薬品代の借金（要するに麻薬中毒）があって、芥川賞の賞金がほしかった。受賞すれば、有望な新進作家としての名声を得られ、絶縁同然の生家に顔向けできる、と踏んでいた（のだろう）。しかし太宰は落選した。それで、選考委員の一人の川端康成に八つ当りした。川端が大宰の候補作品「逆行」を批評した一文に、噛みついたのである。川端は、「私見によれば、作者の生活に厭な雲ありて、才能の素直に発せざる憾みあった。」と書いていた。大宰は、「小鳥を飼ひ、舞踏を見るのがそんなに立派な生活なのか。」と川端の私生活を皮肉って、「私は、あなたのあの文章の中に『世間』を感じ、『金銭関係』のせつなさを嗅いだ。」と言い、「あなたは、作家といふものは『間抜け』の中で生きてゐるものだといふことを、もっとはっきり意識してかからなければいけない。」と結んでいる。「世間」と「金銭関係」のせつなさ、を意識していたのは、むしろ大宰の方だろう。大宰は選考委員の佐藤春夫に、身も世もない哀願状を出している。「芥川賞をもらへば、私は人の情に泣くでせう。さうして、どんな苦しみとも戦って、生きて行きます。元気が出ます。お笑ひにならずに、私を助けて下さい。」家のない雀治拝、と記している。パビナール中毒症状の激しいなかでつづったものと思われる。そんなエピソードが世間に広まり、芥川賞とはそれほどまでにすごい賞なのか、という評価になり、芥川賞伝説は、太宰治によって確立されたといってよいだろう。大宰の情けない言動が、芥川賞の名誉と賞金を、実際以上に膨らませたわけだ。単なる新入賞でなく、もっと大きな、かけがえのない文学栄誉賞にふくらませた。大宰は落選したにもかかわらず、芥川賞を広めた第一の功労者なのである。ジャンジャン。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.07.03

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  セイシュン小説

  いくぶん古い話題になるが、片山恭一の『世界の中心で、愛をさけぶ』という本がベストセラーになったとき、あまりなタイトルに読む気がしなかった。ときどきセイシュンエッセィを書いたりする僕としては、それでも作者の本を一冊ぐらい読んでおかねばなるまいと、著者のデビュー作である『きみの知らないところで世界は動く』に目を通してみた。物語は1974年の秋から始まる。同級生のジーコ。本名コウジをひっくり返した愛称だ。映画『エマニエル夫人』を観ていて教師に見つかる。全校生徒の前に呼び出され、「歯をくいしばれ」と命じられる。体罰である。ところがジーコは、何を思ったか、ズボンのベルトをゆるめて、お尻をむき出す。「男子生徒の爆笑と女子生徒の悲鳴」「良識ある教師たちの苦笑」。小説は、この、世の中をさめた目で見ている、大人っぽいコージの、しかし１７歳らしい茶目っ気たっぷりの登場で募が開く。鮮やかなファースト・シーンである。コージと、語り手「ぼく」と、ぼくの恋人の同級生カヲル。この三者の高校から大学へ、三年間の、甘ずっぱい、また、ほろ苦い、何ともやるせなく、そして残酷な恋愛物語なのである。過食症になったカヲルは入院する。ぼくとコージは彼女をひそかに連れ出し、車で旅に出る。ホテルに泊まる。夜更けて、ぼくはカヲルの異様な姿を目撃する。調理場の冷蔵庫を勝手に開けて、むさぼり食っている姿。そしてぼくは、もはやカヲルを抱くことができない。彼女の瞳をのぞき込めば、いつでも見ることのできたものが、壊れてしまっている。抑制された文章が美しい。最後には、二人の再会と、病気から立ち直ったカヲルとジーコの愛の確認へと結びついていって、セイシュンの予定調和ながらほっとさせられる。青春小説の条件は、性をあからさまに描写しないこと、理屈ばらぬこと、そして何よりも登場人物の一人ひとりが、読者の昔の顔であり、姿であること、であろう。そういえばテレビドラマにもなったことを思い出した。内容はほぼ忘れたが、最後のこんなシーンだけは記憶にのこっている。主人公が、自分の未来に悩んでいる息子にケータイでメールをするシーンだ。大人になるのもそう悪いことばかりじゃないよ。父さんは、君がああなりたいと思うような、そんな大人になるよう頑張ってみようと思います。だから君も一緒に、頑張ってみませんか？くさいナー、と思いながらもちょっとだけホロっとできた。ああ、大人にはなりたくないものだ…。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.30

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  西村陽吉という人

  ある人から、西村陽吉って詩人を知っているかと問われたが、残念ながらあまり知り得ない人だ。調べてみたら北海道に生きた詩人らしい。プロレタリア文学に属する人だったらしく、政治的主張を盛り込んだ詩が多かった。紹介してくれた人も、その筋の人だった。彼は、僕の詩を評して八方美人で、社会の歪みに対してものわかりが良すぎるのではないかという。そうだろうか、僕も政治にかかわったり関心をもったりするが、拳を振り上げてシュプレヒコールをして社会が変わるだろうか、もちろんそれが必要なときもある。しかし、日常的に僕がそれをして、進歩があるのだろうか。政治は批判だけでは変わらない。人の心を解きほぐしながら、機会をみつけてはねばりづよく対話をつづけてゆく。そして何より、社会の中での自分の生き方で示すことが大事なんじゃないかなあ。そういうことでも、僕はエラソーに政治を語る気になれないんだよ。社会は矛盾に満ちていて、差別や、不平等がいっぱいある。沖縄の人々に負担を強いていることへの怒りや、呵責の念もある。しかし、それだって力だけで解決できるものではない。国としてきちんとモノを言って、粘り強く話し合い、一歩でも良い方向に向かわせる不断の努力こそが必要ではないだろうか。それは君の危惧する、結局何にも流され妥協してしまうということではない。自分の信念には忠実でありたい、されど他人の信念にも一定の敬意をもって話し合ってこそ、前進は得られるんじゃないかな。ということで、僕の言うことも理解してくれるかな、Ｋくん。　　机の上に本がー冊載つてゐる　それを読み返す時間がほしいその彼が紹介してくれた、西村陽吉の口語短歌である。こんな風にも歌っている。　　本を読む時間の足りぬさびしさに用のない雑誌の隅まで読んだ陽吉は明治２５年、東京下町の生まれ、高等小学校を卒業すると、日本橋の東雲堂書店の店員になった。東雲堂は、のちに出版を手がける。若山牧水の第三歌集『別離』は、ここから発刊された。牧水はこの一冊で歌壇に認められた。陽吉は牧水に私淑し、牧水や前田夕暮らと「創作」という雑誌を、東雲堂より発行している。陽吉は店の主人に認められ、東雲堂の養子に迎えられた。牧水の歌集出版は陽吉の尽力であった。彼は他に啄木の『一握の砂』や、斎藤茂吉の『赤光』、白秋の『思ひ出』等、近代文学の珠玉を次々と出版している。　　金儲けだと毎日人は騒いでゐる　神様よこれが　ほんとの暮しでせうか　　金を儲けて　いい生活をする　いい着物をきる　それでその人は何をするのでせうか　詩ではない。西村陽害のなんとも素直な口語歌である。大正八年ごろの作。歌の内容は、十分新しい。　　あきらめの旅ではあった　磯の端末の　自い灯台に日が映して居たこんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.29

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  武士の情け

  仕事でイギリスに行ってきたという友人が災難にあった話をしてくれた。事件は、バッキンガム宮殿前で日本からのパックツアーらしいご婦人方の観光客が、美男の衛兵につかまってピースをしながら写真を撮ったり、なかにはおさわりをしてみる女性もいたりして、内心舌打ちしながらその光景を見ていたときのことである。街の天使らしい女性にしぐさでモーションをかけられたという。イギリスに公娼制度はないから、街頭でのモグリ営業である。つまり自分からカモに声をかければ、罰金である。だからカモから声のかかるのを無言のしぐさで投げかける。メデタクお声がかかれば、天下ご免でご商談成立ということになる。日本人の金髪願望（どこが？）はイギリスレディーにも知られているのか、ビジュアル的には背の高いスタイル抜群の女性が立っていたとのこと。しかし、自分より頭ひとつ背がたかいうえ、肩幅もひろく、見方によってはアマゾネスタイプでどうにも勝ち目はなさそうだ。そこで、友人は逃げ出したという。ところが天使はどこまでもついてくる。だんだん早足になったけれど、イギリス女のコンパスは長くて、へっちやらでついてくる。大通りから、黄色の濃霧用電灯の立つ横丁に抜けて、うしろを振り向いても依然としてついて来くる。友人はついに、バッキンガムからピカデリーまで振り切れなかった。そこにちょうどニュース専門の映画館があったので、飛び込んで切符を買って入ったという。すると、天使もやはり切符を買っている。客席に入ったら、ニュース映画と思ったのにポルノ館になっていて、濃厚な映画が上映されていたという。暗いのを幸いにそっと客席を抜け出し、映画館のロビーに出たところ、なんとくだんの天使が恐い顔をして待ち構えていたという。彼女は「Come over here！」（こっちに来なさい）とキツイ口調で、尋問をはじめたという。彼が夜の天使だと思ったのは、なんとイギリスの婦人警官であった。鼻の下の長い男めあて売春行為を取り締まるため、オトリ捜査をしていたのだろうか。張り込んでいたら、カモらしい日本人がきて、そのうえコソコソと逃げ出したので、うしろめたいことがあるに違いないと、追いかけてきたらしい。友人は高い映画代まで払って逃げ回ったあげく、イギリスレディーに脂を絞られているところを、日本人観光客に遠巻きに軽蔑した白い目で見られて、こんなバカらしいことはなかつたとボヤいていた。僕は一応「それは大変だったね、ご愁傷さま」と慰めておいた。しかしだ、その供述を素直に受け止めていいのだろうか？●ホントウに最初から断るつもりなら、毅然として断ればすんだ話ではないか。追いかけてきたのには、（実は、お応えしようと声を掛けたとか…）それなりの理由があったのではないか。●ニュース専門の映画館がポルノ専門館に変わっていたなら、あちら事情に詳しい友人ならすぐに気がつきそうなものである。わざわざ切符まで買って入るか。等々不審な点がいくつかあるのだが、武士の情けとして問い詰めるのはやめておいたが…。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.28

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  トッポイって？

  とある喫茶店で、偶然に80歳ほどになる新聞の論説委員をしていた大先輩と会って話しをしていたら「このごろ、トッポクなっちまって困る……」といいだした。トッポイ？　記憶のどこかに聞いたことがあるのだが、どういう意味なのかすぐにピンとこなかった。大先輩のいい方だと「間抜け」とか「モウロク」したという意味なのだろう。しかし、昔、漱石かなにかの小説のなかでつかわれていたなかの、うっすらとしたイメージでは、「ずる賢い」「抜け目がない」という意味だったような気がする。昔の流行歌かなにかでは、気障な人や不良じみた人、または双方を含む「気障で不良じみた人」という意味で使われたようにも思う。これらは小林旭や石原裕次郎の全盛時代に、（ちょっとカッコイイ）「生意気」という意味で使われたこともあるが、どちらにしても現在では死語となっていのではないだろうか。というのはともかく、ここでは「間抜け」と解釈して聞くことにした。「……散歩していてどっかのおばさんに挨拶される。自分ではないのだろうと知らん顔でいると、また挨拶される、後ろを向くと誰もいない、後で近所の人と気付く、体裁悪いから挨拶されたら、知っていようがいまいがお辞儀することにしたら、後ろの人の分をやってしまっている」なおも話しつづける。「……駅に着いたら雨だった。どうしようか、と立っていたら、若い美人が、私もういりませんからオジサンどうぞ、と傘を貸してくれた。どこの誰だか知らないけれど、そのうち思い出すだろうと借りて帰った。帰ったけれど誰だか思い出せない。どこへ返したもんだろうと、女房に相談したら、夕方からアルバイトにいくすぐ近くの娘さんと分かった。なにしろ女性はお化粧すると化けて原形をとどめなくなってしまうからな」といって、カカカッと笑った。そういえばやっぱり雨の日、たいした雨でもないから歩いていたら、美人の乗った自動車が寄って来て、乗っていきませんか、と言われたことがある。これは逆ナンパか、誘拐か、と一瞬思ったけれど、まあ乗った。ちょっと不安でいたら行き先もきかないのに、わが家の前に止まった。お礼を言って、「どなた様でしたか」と聞いたら、なんのことはない娘の高校時代の同級生だったことがある。すっかり化けてるから、すぐには分からなかったが、「お礼に食事でも」なんてうかつなことを言わなくてよかった。「いや、僕もすっかりトッポクなりましたよ」と、いうと大先輩は、「負けず、劣らずだな」と僕にいう。（そうはいっても、こんなお年寄りには言われたくない）と思って、喫茶店を出た。「あっ、そういえば…」と僕が立ち止まり「メガネを忘れて来た！」といったら、「なに、ボケてるんだい、君は始めからしてこなかったよ」大先輩がいった。僕は自分を信じるべきか、大先輩を信じるか、しばし迷いたたずむのだった。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.26

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  何かはじまる予感…

  この冬に文芸仲間男女５人ほどで南信州の辺ぴな村の民宿に泊まった。いろりが切ってあり、僕たちは火を囲んであるじ手作りのどぶろくを飲んだ。当然のことながら火と酒があれば文芸談義に熱が入る。好きな俳句という話になり、僕は杉田久女の　　花衣ぬぐやまつはる紐いろいろといった少しイロっぽい句をあげた。山梨から参加したＡ子という女ともだちは飯田蛇笏の句をあげた。　　炉をひらく火の冷え冷えと燃えにけり彼女が山梨だから、儀礼的に郷土の偉人を推奨したのかとも思ったが、純粋にこの句が好きだという。ひえびえと燃える、という表現は僕ら川柳の視線からはふつうの表現だと思ったが、俳人の男ともだちは、こうした飛躍した視点はそうそう生まれるものでない、と激賞した。愛する者の死を次々と見送った人の目だよ、と言った。炉の火に死を感じとる感覚に、僕は意外な気がした。僕の場合、むしろ青春、それも思春期の水々しい愛を感じるのである。炉をひらく、という初句に「何かが始まる」というワクワクした期待を感じる。なぜなのかは、やがて思いあたった。Ａ子はいろりの火の世話をしながらにこにこ聞いていた。焚火が大好き、火が好きだという変な女性だった。彼女は僕の書いたものを（僕より^^;）よく読んでくれていたが、本をただで受け取るということはしなかった。僕としては、とにかく読んでもらえるだけで嬉しいのだから、と言うのだが、「お金を払って読みたいものかタダなら読みたいものかは、天と地ほどの違いがあるのよ。それがプロとアマのちがいでしょ。タダでもいいと思うと甘くなるのよ」と手厳しく、暗にプロをめざせと励ましてくれていたのだろう。そんなわけで、ありがたく買ってもらっているが、以後、僕は自分の本についてはなるべくそうするよう心がけることにした。その夕、民宿のあるじが隣家と一緒にどんど焼きをかねて焚き火をやるというので、竹のはぜる音に誘われて、ほろ酔いの僕たちも見物に出た。雪の中に、火が燃えていた。旧正月の門松やお飾りが、投げ入れられた。僕の隣にいたＡ子が、ふと足元の雪をつかんで丸く固め、その固まりを火にほうりこんだ。ジュツという音がし、ついで、ほんの一瞬、炎が青白く、高く燃えさかった。Ａ子が感嘆の声を放った。「雪って、燃えるのね」それだけの話である。心地よく酔っぱらって、何かが始まりそうで、結局そのあとも何も始まらなかった。句を楽しみ合って火を囲んだり、文芸談義をするのも、「何かが始まる」というワクワクした期待感を味わいたいがために、だけなのかも知れない。何もはじまらないからいいのだ…、ン。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.25

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  亡き父との再会

  わが町にBOOKOFFができても、昔ながらの古書店が頑張っている。といっても、もう80歳ほどになる店主ひとりでやっているから、たたむのも時間の問題かも知れない。山と積まれた本の間のカビ臭い雑誌を探したら『家の光』という本がでてきて、なにげなく手にとった。子どもの頃は田舎のどの家にもあって、活字に飢えていた僕らもよく読んだ。念のためにググってみたら、なんと今でもあった。創刊1000号にもなるらしい。昔は「こども家の光」という別冊付録がついていて、マンガと小説がいっぱいつまっていた。本誌も、けっこう面白かった。映画紹介やファッションのページなどは、夢中でながめたものである。農村向けの雑誌ではあったが、むしろそれゆえだったかも知れないが、内容は都会的センスに満ちていた。思えば当時の流行歌は「東京へ行こう」で、子供たちにも東京はあこがれの都であった。僕も雑誌や歌にあおられて、東京に出た一人である。高校を卒業して念願の東京にでるとき、まだ進路さえはっきりとは決まっていなかった。当時は大学紛争で混沌としていた。とにかく出たかったのである。父親が荷物をもってバス停まで見送りにきた。麦わら帽に長靴のいでたちである。バスが来て、「体にだけは気をつけてな」とポツンとそれだけ言った。バスが遠ざかっても、そのままの姿勢で立っていた。僕の父親は、漫画雑誌などは買ってくれたことがなかった。だから読む雑誌といえば「家の光」とか、母親の「主婦の友」なのだが、読みたい袋ページはなかなか開いていなかった。いつ開くかときどき点検していた。父には農繁期にはイヤというほどコキ使われたので煙たくてしかたがなかった。あまり会話を交わした覚えもない。父を嫌っていたのである。父と別れる時も、特別の挨拶もしなかった。涙も出なかった。古本屋で、昔のいなか生活を思いだしながら「家の光」をひらいたのであるが、昭和４０年代の本を捲っていて、何気なく読者文芸欄に目をやって、ギョツとした。水原秋桜子選の俳句欄である。佳作の二番目に、筆名であったが父らしい名がある。　バスの影消えて昏れゆく虹を見る　　　○○父の青年時代に当時第一人者だった河東碧梧桐が村を訪れて、父も指導を受けた、ということは家の蔵に写真や書が残っていたから知ってはいた。ぼくは、あの日の父の姿を思いだした。東京に向うぼくをバス停で見送った父。麦わら帽に長靴。上手な句とはいえないのに、よくぞ採り上げてくれたものと思う。バスの影とは、僕の乗っていたバスのことではないだろうか。そのバスが見えなくなるまで見送った先に、昏ゆく淋しさとともに虹を見てくれていたのだろうか。そのときの父の心情をはじめて知らされたような気がした。それにしても本はすごい。ページを開いたら、思いがけず死んだ父がそこにいて、しかも、そこで父は生きているのだから。開きさえすれば、いつでも会えるのだから。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.23

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  幸せになりたかったら…

  ぼくの発行する個人誌を購読してくれている美人（もう、『旬感』読者はどんな顔してても美人なんだから…）たまに感想を書いた手紙をくれる。今回は催促の意味もあるのだろう、四つ葉のクローバーの押し花が入っていた。そこに、「四つ葉のクローバーというのはクローバーの突然変異で何千本だか何万本に一本あるそうです。見つけるコツは、一にヒマ、二に根気、三にさがすこと…です。なかなか楽しい時間ですよ』と書いてあった。実はわが山荘の庭に生えているクローバーには四つ葉が多い。それどころか、ときには五つ葉、六つ葉まであるからめずらしくもないんだけれど、ありがたく名刺入れに挟み込んだ。四つ葉のクローバーは幸運を呼ぶという。いいことがあるだろう、とブラブラと犬の散歩がてら街に出かけた。そしたら、ひさしく会わなかった中年の男に声をかけられた。しかし、会って特別うれしい男ではなかった。四つ葉のクローバーのご利益はないようだ、と思った。ずっとむかし、お互いがまだ若かりし頃、ときどき行っていたカラオケスナックのマスターだった。その頃の彼はまだ独身で、店に勤めていた女性とつきあっていた。声のきれいな人で、歌が抜群に上手だった。ぼくが行くと特別サービスだといって、おいしいコーヒーを入れてくれた。なんでも歌手をめざしてしばらく芸能プロダクションにいたが売れなくてやめたと語っていた。やがて二人は結婚するものだ、と思っていたら、口論していたり、プリっとしていたり、泣いていたりする彼女を見るようになった。プレイボーイの彼には他にも女がいたらしい。そのうち彼女を見かけない日がつづいたから、「どうしたんですか」ときいたら「別れました」とこともなげにいった。性格が合わないとかいっていたけれど、同棲までしてつき合っていて、性格がどうもこうもあったもんじゃない。あんなおいしいコーヒーを飲ましてくれる女を逃がすなんて、人生の大損じゃあないか。と思ったけれど、まあ余計なお節介はしなかった。それからはなんとなくそのスナックに行かなくなった。彼に腹がたったのか、彼女に会えないのがつまらないのかよく覚えていない。そのうちにスナックは店を閉めた。それから二十年は経っているだろう。そのかつての青年にバッタリ会ったわけである。「すぐ近くに住んでいるんです、ぜひ寄って下さい」遠慮するぼくを無理に引っぱっていくのである。まあこっちもなつかしい気持ちがないわけでもない。彼に連れられて近くのマンションについていった。「珍しい人に会ったよ」と彼は中にいる女性にいった。へえ、結婚してたのかと奥さんらしい人をしげしげと見た。するとなんと、皺はふえたけれど、かつての彼女である。なつかしい香りのコーヒーがでた。やっぱり四つ葉のクローバーはご利益があるんだと思った。ちなみにぼくの山荘の庭にはいくらでもある、よかったらどうぞ。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.22

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  くだらない話

  薬害による被害が明るみになってエイズが性 行為以外によってもなるという認識が一般的になったが、かつてはエイズというのは、男が男と付き合っているとなるものだ。という誤解があった。そしたら、男と付き合う女性もなることがあって、なった女性と付き合った男もなることもある。ということになって大騒ぎになった。中学だか高校生のころ、「一人の女が、二人の男と仲良くしていたら病気になった。なんの病気かわかるかい」と友達にナゾナゾをかけられて考えていたら、「二人の男とだから、ニコチン中毒じやないか」と自慢げに答えられクダランと思った。その後、まだ紅顔の美少年だった頃、新宿のサウナで隣で寝ていた男が手をのばしてきて、僕の手を握ってじっとしていたことがある。そのうちその手がベツの場所をなでた。「ギヤッ」と悲鳴をあげてとび起きた。いくらやさしくしてくれてもご免こうむることもある。ひどい悲鳴だったんだろう、周辺の視線が一斉にこちらを向いて、男はコソコソと退散した。だが、わが生涯をかえりみて、強引に手を握られた経験が男だけだとは、いささか残念である。あるとき先輩が、新宿二丁目のバーに連れて行ってくれた。目のくらむような美女がいた。しかしみんな女性ではなかった。男が女に化けると、女よりも綺麗にもなると知った。その美しい人がやさしくもてなしてくれたけれど、サウナでの一件がちらついて、楽しむ気分にはなれなかった。その先輩は珍しいところを人に紹介したがるクセがあった。米国からきた友人夫妻に、あなた方は日本のことにくわしいが、ゲイ・バーなるところを知っていますか。行ってみますか？　と聞いたら、「よろこんで」ということになって、夫妻を連れて出掛けたそうだ。店に人った夫人は、しばし目をパチクリして、「みなさん男ですか」「そうですよ」「なんて美しいんでしょう。ナイチンゲール（夜鳴きうぐいす）みたい」と感嘆したら、「いや、アルチンガールだ」と日本語に堪能なご主人が訂正したという。なにか最後の一行は、先輩のつくり話しのような気がしてならない。こんなムダ話でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.21

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  盗み見たこと

  「いつ来たりてみるにも、男子はいと多かれど、女子の閲覧する人大方一人もあらざるこそあやしけれ。」十九歳の樋口一葉がやってきた上野の図書館での感想である。小説家を目指していた一葉がおそらく参考にする書物を漁っていたのであろう。ところが、図書館で閲覧しているのは男ばかり。女子が一人もいないのはいかにも不自然なことと嘆いている。図書館で紅一点の一葉は当然、目立って注目のまとだったことだろう。ましてや、鼻筋通った理知的なおもざしの美人だから、彼女が本を見にくるたびに、全員が無遠慮に顔を見あわせ、耳打ちするなどということもあったのかも知れない。このごろの図書館はむしろ女性の閲覧者のほうが多いような気がするが、僕が十代の頃（昭和四十年代）の図書館も女性の閲覧者は少なく、目だった。本を読んでいる女性は、とても美しく見える（た）。形のないものに気を奪われている女性の顔は、理知的でエロティックでもあった。僕が図書館がよいをしたのはそんな女性の姿を盗み見する楽しみもあったのかも知れない。今でも図書館にはよく行くが、なぜあんな風に見えたのかわからない。もし当時ケイタイなどというものがあったとしたら、書を読む人を盗み撮りでもしでかしたかも知れない。犯罪者と紙一重である。「書のかたはしをもよむ人のしわざかと思えば、あやしくもなりぬ。」すみません。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.20

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  手放すと…

  人生とは面白いものです。何か一つ手放したらそれよりもずっといいものがやってくるものです。サマセット・モーム（英国の元諜報部員であり小説家）の言葉ですが、それを実感しています。以前こだわっていた文芸グループを離れて、自分を中心に動き出してから急に視界が開けたような感覚さえあります。この夏の終わりには、周囲の文芸文化グループとのイベントも計画中で、それは面白くなりそう。それとともに、問題のあったわが経営体質の改善に取組中。いい協力者も得て、まもなくスタートの運びとなった。ということで、身体が３つは欲しいヒマジンであります。ということで、ブログの更新も途切れがちですが、ご容赦ください。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.17

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  たそがれクッキー

  参加している詩のグループの会報に書いたものです。　　　＊　こんな田舎町に不似合いなスクランブル交差点の真ん中を、腰を九〇度ほどにもおり曲げたおばあさんがゆっくりゆっくりと重そうな荷物をぶら下げて歩いている。　ちょうど真ん中へんにやってきたとき、おばあさんはふらふらっと荷物を置いて腰を伸ばした。向こう側にたどりつく前に信号が変わってしまわないかとぼくは、はらはら見ていた。案の定おばあさんがまた歩き始めたときに歩行者信号が点滅しだした。ぼくはしかたなく、そこにかけ寄った。「ねえ、その荷物持ってあけるよ」「そりゃあすまないねえ」　おばあさんは遠慮もせずに、ぼくに荷物を押しつけた。　荷物をもって二、三歩歩いただけで、おばあさんがよたよた歩いていたわけがわかった。荷物が重い。おばあさんをは腰を伸ばして、スタスタ歩きだした。道路をわたって歩道を渡りきると、ぼくの腕は伸びきってへとへとだった。　「もうちょい先まで運んでもらえると大助かりなんだけど…」　おばあさんがぼくにそう言った。たしかにこんな重いものをおばあさんに返すのはかわいそうに思って、がまんして、もってあげることにした。だけど本当に、五十メートルも行かないうちに目的地についた。「ありがとう、助かったよ。何かお礼をしなきゃあいけないねえ」おばあさんが口にした。ぼくの頭の中に、缶ジュースかアイスクリームが浮かんでは消えた。「ちょいとお待ち」。　おばあさんはぼくに持たせた荷物の包みをほどいた。中に入っていたのは手提げ金庫だった。重い筈だ、ぼくはどっと疲れた。でも待てよ、ってことはもしかしたら、このおばあさんは大金持ちなのかも。　ところが金庫の中は空っぽで、そこからコインの形をしたクッキーを取り出すと、そのうちの一枚をぼくにくれた。「時間が手に入いるクッキーだよ」　ぼくはそれを見てがっかりした。時間を手に入れるためのクッキーだったら、おばあさんはなぜ自分で食べないんだ。「いいよ。ぼく、時間なんていらないよ。いまもっている時間だってもてあましているくらいだから…」「そう言わすに持っておゆき。いつか役に立つだろうから」　ぼくはそのクッキーをポケットに入れたまましばらく忘れていた。　それを今日になって思い出しだのは公園であのおじいさんに会ったからだ。　おじいさんはトラ模様の犬を連れて、ベンチに座っていた。ぼくはその犬がウチの犬に似ていたものだから、ついつい頭を撫でちゃった。「ぼくは元気そうだねえ。いいなあ、若くってさ」　おじいさんはやさしい目をして笑った。「おじいさんだって元気じゃない、そんなに歳には見えないよ」「お世辞をありがとう、でもわしはこれからやりたいことがたくさんできるほど、若くないもんなぁ」　おじいさんは犬の頭を撫でながら、さびしそうに言った。「なにか、やりたいこと、あるの」「わしは昔、カメラマンになりたかったんだ。でも、いつかと思っているうちにあっというまにこの歳になっちまったよ」「おじいさんやりなおしたら。そうすればきっとうまく行くよ」　ぼくはあのクッキーを思い出して、おじいさんに渡した。「これをあげるよ。これを食べたら、若返るっそうだよ」　ぼんやりしているおじいさんを残して、ぼくは家へ帰った。アルプスを染めた夕映えがきれいだった。　それから何日かしてぼくのクラスに転入生がやってきた。小柄で元気な少年で、松村くんと言った。中学生なのにいつもカメラを持ち歩いている。その子が、ぼくと二人っきりになったとき、小さな声で言ったんだ。「この問はありがとう。おかけで、ぼくもやりなおすことができる」　ぼくは、驚いて松村くんの顔をまじまじと見た。それであのクッキーをあげたおじいさんではないかと思い出した。　それから、いつもきれいな写真を撮っては自慢げな松村くんを見るたびに、ちょっぴり後悔している。もしかしたら、ぼくがあのクッキーを欲しくなるときがくるんじやないかって……。それで、もういちどあのおばあさんに会ってお願いしようと思ったとき、目が覚めたんだ。そしたら、僕があのおじいさんとそんなに変わらない歳になっていたってことに気づいたんだ。あ、れれれ…。　やっぱり、ぼくは後悔している…、かな。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.14

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  若者ことば

  たびたび話題にすることだが、最近は若者を中心に言葉の単純化が進んでいる。もっとも清少納言の『枕草子』にも、当時の若者の言葉が乱れていると嘆いているから心配にはあたらないという説がある。しかし、昔は時間の経過や色などずいぶん細かく使い分けていた。たとえば昼と夜の間なども一般的な夕方、・暮（くれ）・黄昏（たそがれ）・晩（ばん）など使い分け、もっと情緒を加えたいときなど「逢う魔時」（おうまどき）とも、「大禍時」（おおまがとき）とも言った。何となく意味深な表現ではないだろうか。黄昏時のことも「暮れ六つ」や「酉の刻」ともいい、現在の18時頃のことであるが、このように使い分けることで、日本語に膨らみをもたせていた。ということで、若者言葉の特徴としては言葉を逆に言ったり、言葉をローマ字化してその頭文字のアルファベットを並べたり（チョーMM、MK5、KYなど）、誇張した表現（「超」チョーの濫用など）といったことが挙げられる。 また元々方言からきている物もある（やばい、ばり、めっちゃなど）。きわめて単純で、あたりまえすぎることだから、あんまりそのことに気がつかないけれども、ボキャブラリーをふやすこと、あるいはことばをたくさんおぼえて使い分けることは、文章でも感情の伝達にしてもとても有効だと思う。　　　　　　　　　　　　　　　　ボキャブラリーは、文章という構造体をつくりあげるための部品のようなものと考えてもよい。ここで、この部品が必要だ、というときに、その部品の手持ち在庫があれば、ドンピシャリ、とその場所に部品をはめこむことができる。そんなふうにしてできあがった構造体は、しっかりしている。部品に狂いがなければ、ぜんたいも、がっしりとして、あぶなげがない。たとえば、夏の青空に、もくもくとそびえる雲がある。いうまでもなく、積乱雲であり、俗に入道雲というやつだ。しかし、そのてっぺんが、かなとこのように平らになっているときには、かなとこ雲、ともいう。さらに、この雲が出たときには、豪快な雷をともなうことが多いから、かみなり雲という呼び方もある。もしも、この四つの呼び名を知っていれば、真夏の風物のひとつである、もくもくの雲を表現するのに、四つのことなった部品をもっていることになる。そして、つくられる文章の性質から、四つの使いわけが自由にできるだろう。気象学の文章だの、すこしかたく気取った文章には「積乱雲」がいいだろうし、ふつうの無邪気な文章なら、「入道雲」でよい。「かなとこ雲」は、形態からいって入道雲とちがうし、心理的な意味もややちがう。「かみなり雲」といったら、その文章では、あとに雷鳴をともなう風景の描写が予想される。どの名まえを使うかは、構築される文章のスタイルだの、文脈だので決定されてゆくのである。だが、かりに、この四つのことばのうち、ひとつしか知らなかったとすると、ばあいによっては、かなりチグハグな印象をあたえるかもしれない。他のことばが俗語で書かれているのに、そのなかにポッンと「積乱雲」が使われていたのでは、バラソスがとれない。もちろん、ちょっと異質なことばをはさむことで効果をあげる文章作法もある。しかし、それは、かなりの修辞学的計算のうえでおこなわれるときに効果をあげるものなので、計算なしにやると、落語の熊さんのトソチンカンのごときものになったりもする。なるべくなら、その文章のスタイルのなかに、おとなしくおさまることばを使うほうがよい。そうでないと規格外の部品でまにあわせたようなもので、できあがりが不安定なのだ。そういった事では、若者言葉を聞いていると、どこかでついひっかかってしまうことがあり、話している本題より、言葉でつまづいて聴き取れないときがある。などと嘆いていても、いまさらどうすることもではないのであろうが…。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.12

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  「ひとひらの雪」のエロス

  写真と文は関係ありません人間のエロスに強い関心をもち、一部からはポルノ作家とさえ揶揄される渡辺淳一。しかし先日書いたように、初恋の傷を抱えた青春期を過ごした。しかし、大学病院の勤務医となってからは、その反動からむさぼるように退廃の中の快楽を知りそめて、女性の出入りが絶えることがなかったという。しかし、彼を単なるプレイボーイと見るのは当たっていない。器用な遊び人でもない。一人ひとりの女性と「遊んだ」のではなく「恋をした」。彼は、ときには見苦しいほど女性に執着する。別の男に走った恋人を取り戻そうとして半狂乱になり、留置場のお世話になったこともあるという。普通の男なら「もううんざり」というほどの修羅場も体験し、なおこりずに次の恋に惑溺するのである。しかしここから並の女色家とちがうのは、そんな自分を見つめるもう一人の「渡辺淳一」がいたことだ。なぜ恋は色あせるのか。どんな悦楽にも終わりがあるのはなぜか。美しかったひとひらの雪が溶けていく行方を見定めるかのように、自らの身をもって答えのない問いを追求するところが、彼の真骨頂がある。初期の作品でも、心臓移植批判のような論理性を求められる文章でも、渡辺淳一の書く文章は読みやすさ、わかりやすさが際立っている。ただ平易な文というわけではなく、よく練られた末に完成した文章のように思われる。僕は、しばし文芸仲間に優しいことを難しく書く文章のくだらなさ説き顰蹙を買うのだが、本当に優れた文筆家は難しい内容でも、難しく感じさせないような筆はこびをするものだ。ことにエロスを描くためには、文章は清潔でしかも屹立していなければならない。というのは渡辺淳一が語っていることだが、だから一部ではポルノと揶揄されながらも女性の読者を惹きつけているのだろう。渡辺淳一は好きな作家として川端康成をあげている。『雪国』はローティーンから老人まで読む小説だが、実は豊かな官能に彩られた小説でもある。それをあれほど清烈な作品にしたものは川端の文章力であった。エロスを描こうとしても、文章に清潔さがなければそれは低俗なポルノグラフイになってしまう。この危機感が渡辺淳一の文章を支えているといっていいだろう。また、医師としての実践によって知らず知らずのうちに培われた論理性も、文章の骨格をかたちづくっているのかも知れない。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.10

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  子供をつくろう

  渡辺淳一をちょっと小休止して、微笑ましい話しをひとつ。ご存知のように、わが山荘の池では虹鱒や岩魚を釣ることができる。虹鱒は同じ市内の養殖場から仕入れてくるが、岩魚は卵から孵化させたものを離している。愛着があるので釣られるとちょっと淋しい気分になるのである。ということで、釣りに来たお客さんは炭で塩焼きにして食べていくのだが、よほど気に入ってくれたのか、４年ほど前から年に数回、一家全員で訪れてくれる大家族がいる。家族の内訳は、両親と子ども８人。４年前には全員で７人だったから、来る度に１人ずつ家族が増えて、案の定今年もおなじみの乳母車に赤ちゃんが乗っていた。その家族は、身だしなみからはどうみても裕福とは思えないが、トオチャン（と子供たちは呼ぶ）が、ワゴン車を運転して入ってくるときにはいつもニコニコ笑っている。そして、上の子が下の子の面倒を実に良く見ているから、母親は赤ちゃんだけに気を使っていれば良いシクミになっているようだ。釣るときには、小さな子から順に２匹づつ釣り、最後に父親が母親と自分の分を一匹づつ釣る。それを兄弟達が手際よく焼いて、小さな子から順に食べさせている。う～ん、今時見事な共同社会が成り立っている。親子や祖父母と孫といった家族連れが良く釣りに訪れるが、大概の家族は子供中心で自由に釣らせて、飽きるとジュースでもアイスでも好きなだけ与えている。ときどきは竿を放りだしたまま踏んで折ってしまったり、ゴツンとひっぱたきなるような我がまま一杯な子もいるが、両親は見て見ぬふりが多い。そんな家族から較べると、見ていて気持ちよいほどチームワークもよく、このまま大人になったら親としては頼もしいだろうなと思わせてくれる。最近、子供手当とやらが創設されたが、月額13,000円か。とするとこの家族は単純計算で月に104,000円、年額にすると1,248,000を貰うことになる。この収入は大きい。国家財政的に子供手当がいつまで続けられるのかわからないが、永続的につづくとしたら、減少一方だった日本の人口は増加に向かうのではないかな、とこの家族を見ていると思えてくる。テレビなどで、途上国の子供たちが、一家の家計を支えるために物売りやクズ拾いをしたり、農作業をしているのを見るが、あれは半世紀ほど前の日本でもあたり前の光景だった。それは、大家族という仕組みがあって、助け合うルールが作られていたのではなかったか。それがいつの間にか、子供が家の仕事を手伝わないのが当たり前のようになってしまっている。民主党の子供手当は、あまり褒められた政策とは思えなかったが、この家族を通してだけみれば良い政策だったのかなぁ。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.09

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  渡辺淳一の硬骨と軟派

  渡辺淳一の作家への過程について、もう少し紹介してみよう。北大理類で教養課程を終えた渡辺淳一は、自分が理系の学問には向かないことを痛感していた。そこで理系の中でも人間を対象とする医学を学ぶために、札幌医科大学に転入する。最初のうちは、札幌医科大学と同時に受験した京都大学文学部への未練を感じていたかもしれないが、母の勧めに従って選んだ医学の道に強くひかれていった。解剖実習では「皮一枚はげば人間は無個性なほど皆同じ」と実感し、一方では患者との交流の中で、人間のぎりぎりの姿を学ぶ日々であった。人間の肉体と精神のかかわりについて、医学を通じて考える機会をもったこと。それと並行して何人かの女性とつきあい、徐々に性の奥深さを知ったこと、この２つが20代から30代の淳一を形成してゆき、将来の作家生活への糧となっていった。札幌医大の医師となった渡辺淳一であるが、この頃、札幌医科大学では日本初の心臓移植が行われ世間の耳目を集めていた。アメリカ帰りで、野心家であった和田寿郎教授が率いる札幌医科大学胸部外科は、たくさんの人材を集める人気の医局であった。1968年、ここで日本で初めての心臓移植手術が行われた。この手術はマスコミの報道によって国民的関心事となり、和田教授も一時は医学界のヒーローとしてもてはやされた。しかし、移植患者が八十数日で死亡したこと、心臓を提供した男性の死亡認定に疑惑がもたれたことから、手術の英雄は一転してスキャンダラスな人物となった。同じ大学の医師として、ある程度内情を知りうる立場にあった渡辺淳一は、和田教授批判の文章を書き、マスコミのインタビューにも答えるようになった。しかしこれを実行すれば学内での立場は大いに危うくなる。しかしあえて科学的見地から容赦ない批判を続けた彼は、予想どおり辞職に追い込まれた。結果的にはこの辞職によって、作家への道を志すことになったのは運命の皮肉である。ちなみに、現在の渡辺淳一は臓器移植や脳死問題について移植推進の立場から積極的に発言している。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.08

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  渡辺淳一の純情

  渡辺淳一の書く本についての好き嫌いはあろうが、何を隠そう僕は文章の書き方については彼の書いた手引き書から学んだ部分が大きい。もちろん、彼のような官能描写は経験が乏しく、また才能もないので書けないが、平易でわかりやすい文章ということではよきお手本として心がけているつもりだ。ということで、渡辺淳一のことについてちょっと書いてみようと思う。彼の小説同様に数々の浮き名を流した渡辺淳一にも純真（？）な少年時代があった。本が好きな優等生だった高校時代の渡辺淳一の前に、突然現れたのが天才少女画家・加清純子である。女性経験もなく、すべてにうぶだった淳一と違い、純子はすでに何人もの男たちと関係をもっていた。純子は自分のイメージをつくり上げるために結核患者としてふるまうなど、天才特有の奇矯さとエゴイズムで淳一など男友達を悩ませた。しかし天才少女画家は、他人には理解できない創作の苦しみも味わっていたのである。絵に悩み、演じ続けた自分に疲れ果てて、高校３年の１月、純子は自殺した。つきあった男たち全員にさりげなく別れを告げ、自分の存在を印象づけてから、阿寒湖の見える原野で薬をあおったのである。冷たい雪に閉ざされ、発見されたときの純子は生前の美しさをとどめていた。そこまで計算し尽くした死だったのだろうか。ひとつ確実なのは、別れを告げられた男たちは皆、「純子がもっとも愛していたのは俺だった」という幻想を抱き、彼女を忘れられずにいたことだ。その一人であった渡辺淳一は、その男たちを取材して『阿寒に果つ』を書き上げ、奔放な天才美少女への鎮魂歌をうたったのである。いや、実のところ今度の総理交代劇についてひとこと書きたいのだが、それを書いている時間がないので毒にも薬にもならないお茶にごしということでゴメン。こんな日記でも応援しているよという方は、［Ctrl］を押しながら、左右クリックしてください。

  2010.06.04

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