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オイちゃんの論文が、ノルにて経済学の賞を取る。 ちょっとはずかしそうに教えてくれた。 水曜日に賞を受け取るから、ちょっとだけ帰るんだ。 オイちゃん、すごい、すごい! と手を叩いたら、 ちょっとはにかんだような、うれしそうな、何とも言えない表情になった。 論文が完成した朝、製本屋の前の階段で目を通してもらったときから、 「オイちゃん、これはスゴイ論文だよ、これを読んだきっといろんな人がそう思うと思う、皆が知っているような学術論文のジャーナルに載ったり、学会に呼ばれたりするようになるよ」 と、君は言い続けてくれた。 「なかなか良く書けたと自分でも思うけれど、そこまでではない気もする」 と言った自分に、 「オイちゃんはね、自分がどんなにスゴイか知らないんだよ。運転だって、言葉だって。それがオイちゃんのいいところだけど」 「でもあたしはね、きっといつかオイちゃんはとってもすごいことを成し遂げると思う」 「ちょっと確信あるんだ」 と言い切って、大きな目をきらきらさせて、ニコニコ笑ってくれた。 「ネコ、ありがとう」 畏まってそう言った彼に、 「あたしは何もしてないよ」 とだけ答えた。 ちょっとの沈黙の後、不意に視界の端から指が伸びてきて、肩先の髪に触れた。 「ミルクの泡がついてる」 髪を指先に絡ませたまま、私たちはずいぶん長いこと言葉を交わさなかった。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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