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カテゴリ:雑談
Tribute to Shoichi Ozawa…
え〜〜、ご案内のようにチューチュートレインを歌っていたZOOのボーカルと大黒摩季はまったくの別人なんだそうですが、あたしゃね、今でも疑ってますよ、あれは、顔を出さない間にヤマハ音楽教室に通ってたんだってね。その証拠に大黒摩季になってからずいぶん歌が上手くなりましたからね。 そういや今の筒美京平は3代目だって話も聞いたことがありますが、それはさておいて、仏教の悟りの話に戻りますよ。え〜〜「悟りを開いたらそれさえ忘れて暮らしに戻る」と言うことなんですが、考えてみたらこれ、なかなか大変なことですな。もとの生活に戻っちゃってるわけだから、どの人が悟りを開いたのか、はたからはとんと分からないわけで、向こうから歩いてくるおじいさんが悟ってるかもしれないし、アクビしながら鼻毛を抜いてるお父さんがそうかもしれないんで油断も隙もあったもんじゃあないですな。 床屋で髪を切ってもらいながらいい気になって人生論なんか語っちゃってて、ふと鏡の中に写ってる床屋のオヤジさんの口元を見ると、片方の唇の端がピクリと持ち上がっているのに気がついたりしたらもういけない。思わずその場に土下座して教えを乞うたりするわけですが、床屋のオヤジさんだって悟ったことを忘れてるわけですから、頭に座布団を乗せて出て行ってしまったりするわけです…。 ♫♫♫ 今日もお父さんは奥方に追い出されるようにウチを出てきましたよ。宮坂さんとの約束は5時だったんですけど「邪魔だから散歩でもしといで」って奥方に言われたお父さん、仕方なしに駅前にある行きつけの喫茶店で時間をつぶそうとブラブラ歩いて行ったんですな。ところがその喫茶店が休み。「さてどうしたもんか」とふと見ると今まで気づかなかった薄暗い露路を見つけましたよ。 その時お父さんの頭の中で「知らない角を曲がれば、それはもう旅の始まりです。桃屋の空き瓶に七円の歌」って舌の長い放送作家の声と例の歌が聞こえたのかどうかは確かめようがないんですが、とにかくお父さん、その露路に入って行きましたよ。あわよくば小股の切れ上がった妙齢のご婦人と偶然の出会いを…なんて期待は早々に裏切られまして、どこか寂しげで時代に取り残されたような道が細々と伸びてるだけだったんですな。 しばらく行くと、お父さんの目に一枚の看板が飛び込んで来ました。近づいて見てみるとどうやら喫茶店らしい。お父さん考えましたよ。こういう寂れた場所にこそ隠れた名店があるんだってね。さっそく地下へと伸びる階段を降り始めたお父さん、妙にお腹に響く低音が気にはなりましたが足を止める程のものじゃあなかった。黒く分厚いドアを開けるとお父さんはもくもくと煙るタバコの煙と地獄の鬼が演奏しているような馬鹿でかい音に包まれましたよ…。 店の中は極端に照明を落としてあり薄暗く、裸電球がいくつかぶら下がっていた。そして右手奥の方にカウンター、左手にはなおいっそう薄暗いスペースがあって、その奥から地獄の音楽は聞こえているらしい。カウンターが満席だったので鈴木は左手の席へと向かう。目が慣れるとそこには5人程の先客がいた。皆目を閉じうなだれたように下を向いている。何人かは腕を組み、また何人かは灰が伸びるに任せたタバコを指に挟んで灰皿の上に伸ばしたままにしている。よく見ると皆、小刻みに足首を揺らしリズムをとっている。眠ったように見える男もまた小さく肩を揺らしていた。「珈琲でも頼むか…」鈴木は少し伸び上がりながらマスターらしき男に向かって声をかけた。 「すいませ〜んっ!」 ガバッ。周りに座っていた男たちが一斉に顔をあげ、それこそ鬼のような目で鈴木を睨みつける。口をへの字に閉じたまま鈴木の上から下まで舐めるように見定める。そしてまた、それぞれの世界へ戻っていった。鈴木は何が起こったのか分からないままもう一度マスターを呼ぶ。「コーヒー…」いい終わらぬうちに慌てて近寄って来たマスターらしき男が人差し指を口に当て、優しさとも哀れみとも取れる表情を浮かべながら小さく首を横に降っている。鈴木の口が閉じたのを確認すると安心したらしく、神父の笑顔で軽く頷くとカウンターに戻って行った。どうやらオーダーは通ったらしい。 それにしてもこの音楽は何だろう?普段は演歌しか聴かない鈴木にとってそれは未知の音楽に聴こえた。一定の拍子を取りながら上へ下へとうねる低音。ガシャガシャとやかましくあまつさえ時折シンバルの破裂音が炸裂するドラム。リズムに乗ろうとすると邪魔をするピアノの音。そして極め付けは悲鳴のようにも、卑弥呼の挙げる祈りの声にも似たサックスの音。鈴木は軽い頭痛のようなものを感じながらも心の奥底が揺さぶられる感覚も味わっていた。 レジの横にレコードのジャケットが立て掛けてあるのが見えた。今演奏中のレコードらしい。軽い尿意を覚えた鈴木はトイレへ行くついでにそのジャケットの文字を読んだ。「ジョンコルトラネ」鈴木は英語が苦手だった。スタンド替わりの譜面台には小さな紙が貼ってあり「お気軽にリクエストをどうぞ!」とマジックで書いてある。さっきから原因不明の不安に襲われていた鈴木は、それを解消しようとさっそくリクエストすることにした。周りの音にかき消されないように大きな声で。 「三波春夫の田原星玄蕃ありますか?」 今度は店中の客の顔が持ち上がった。珍しい動物でも見るように鈴木を見つめている。中には小刻みに肩を震わす者もいる。またしてもマスターは泣き出しそうな慈父の笑顔で首を横に振っている。 「それじゃあ、さいたまんぞうのなぜか埼玉…」 その時鈴木の頭の中に声が聴こえたような気がした。「目を覚ますんだ」鈴木は周りを見回すが皆が不思議そうに鈴木を見ているだけだ。また声がした。「ほら、目を覚ますんだ!」今度ははっきり聴こえた。身体がガクガクと震える。鈴木はしっかり目を閉じると腹から声を出した。「お前は誰だ⁈」「僕は君だよ」「お前が俺だと?」「そう、僕は君!」 鈴木の中で光が炸裂した。鈴木は上下から引っ張られたように直立すると自身の頭を飲み込むほどの大きな口を開け、声を超えた声を放った。LUXの真空管が破裂し棚のグラスが弾け飛ぶ。天井の裸電球も次々と割れていく。暗闇となった店内に鈴木の姿がぼんやりと浮かび上がる。不思議なことに音楽はさらに大きな音でビートを増し鳴り続けている。鈴木の体はビートに合わせてうねるように振動している。その振動がピークに達した時、鈴木の目が開いた。 鈴木の目からJBLの巨大スピーカーに2本のビームが届くと、スピーカーの中から3人の男達が現れた。手にはピアノ、ベース、そしてドラムセットを持ち、たちまちセットを終えると音速のビートを叩き始める。いつしか激しいサンバのリズムに変わっていた。鈴木の口からスキャットが漏れた。「シャバドゥビダ、シャバドゥビダーヤ」「シャバドゥビダ、シャバドゥビダーヤ」。床に伏せていた客たちがムクリと上半身を起こすと鈴木に唱和し始める。「シャバドゥビダ、シャバドゥビダーヤ」鈴木のソロが始まる。 「あーけのかなたのー」 「シャバドゥビダ、シャバドゥビダーヤ」 「さいかどーはやかた」 「シャバドゥビダ、シャバドゥビダーヤ」 覚醒した鈴木が今度は軽々と神の垣根を越えようとした時それは起こった。今度も始まりはピアノだった。突然ピアノはサンバのリズムを無視し蟹の様に両肘を広げると、右は23分の11拍子、左は19分の7拍子の変則3連シンコペーションを叩き始めたのだ。彼は歯をむき出し苦し泣きそうな表情を浮かべている。そして鍵盤にひじ打ちが炸裂した。もはやベースは「縁の下の力持ち」という偽善者の仮面をかなぐり捨てセンターに立とうとにじり寄る。「キープはしない。何もキープなどするものか!」ベースは攻めに転じた。その頃ドラムはすでに恍惚の表情を浮かべ右斜め45度上方を睨みながら、口からヨダレを垂らし、何やら和歌のようなもなのをつぶやいていた。鈴木が雄叫ぶ。 崩壊と新生が同時に始まった。メロディはなくなりコードは超越された。そしてこの瞬間、ジャズはリズムからをも解き放たれた。 もうこうなったら誰にも止められない。リズム無きビートのグルーヴはありとあらゆるものを現出させる。ピンクの象はムラサキのワニにヘッドロックをかますわ、ドカヘルにタオルマスクの青年は角棒を脚にして案山子に化けるわ、自作の詩は読むわ、這いずり回るわ、百匹目の猿は芋を洗うわ、アハハハハハハ、先生は生徒に謝り、彩ちゃんはヒロシ君を罵倒するわ、自分のパンツに手を突っ込むわ、電話機に説教を始めるわ、ピアノは燃やすわ…。 やがて大団円の時が来た。ユニゾンブレークを13回ぶちかますと静寂が訪れた。なぜ13回だったのかはここでは問わない。 一方その頃、たった三日で壊れた石垣を修繕し、大工達の労をねぎらっていた木下藤吉郎は、そろそろネタ切れしかかっていることなど知る由もなかった。 「…………あかんわ…」 「…………あかんか?」 「…………ヤバイしな」 「…………ヤバイか?」 「………………………」 「…………………ん?」 え〜〜意気揚々とジャズ喫茶から引き上げて来たお父さん、不思議なことに露路から表通りに出ると今あったことをみんな忘れてしまいましたよ。ついでに宮坂さんとの約束も忘れてウチへ向かったんですが、もちろん、ウチでは奥方が帰りの遅いお父さんを、今か今かと待ち構えてたんですな。でもこの続きは明日のお父さんの心だ〜っ! 次回「初恋はどんな味?ジャズは生き方だ!」に、ズームイン!バンザ〜イ、なしよ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2013.06.06 16:37:16
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