『死刑』
最近凶悪な犯罪が続いていることや、近々裁判員制度が始まるということなどもあってか、このところ「死刑」制度の是非というものがクローズアップされてきている。で、私はといえば、ずっと以前から死刑制度には反対の立場だ。たとえどんな凶悪な犯罪者でも、だ。その理由は極めて単純で、「人が他人の命を摘み取ることを良しとしない」その倫理観、ただその一点だ。仮に10人殺害した犯罪者がいても、彼を死刑にしたところで、失われた10人の命は帰って来ないのだから、それならば少なくとも死刑執行によって、11人目の死者(=加害者)を出さないようにするのが、人命尊重の観点からもベターだろうと考えるのだ。ただ世間的には、死刑制度を支持する考え方の方が、はるかに多いように聞く。もちろん反対論者の私としては、これらの「賛成」論を端から否定するつもりは無いし、まだまだこれからもずっと議論され続けるべき課題だと思っている。ただ私から賛成論者の方に、機会があったらぜひお読みいただきたいと思う本がある。 死刑この著者は、死刑制度の是非の間で自分の立ち位置が分からず、その答えを求めて様々な人に話を聞いている。死刑制度反対派・推進派双方の運動家、死刑執行にかかわる係員、拘置所の看守、殺人事件の被害者遺族など、実に多岐にわたって聞かれた話が収められている。そしてまさに執筆しながらも彼自身、終始ゆれ続けているのがよく分かる。最後にやっと彼なりの結論を導き出すのだが、それについてはあえてここでは書かずにおこう。あらゆる意味で衝撃的な内容だったが、その中でも私が特に強く感じたのは、日本では死刑執行というものが、完全に秘密のベールに覆い隠され続けている、ということだ(死刑囚との接見も含めて)。それには幾らかのメリットもあるのかもしれないが、少なくとも死刑制度の是非を国民的に論議していく上では、決定的に情報不足だ。例えば死刑執行がどのようにして行なわれるのか、ビジュアル的にイメージできる人がどれだけ居るだろうか?死刑囚に執行を告げる人、刑場まで連れて行く人、死刑執行のボタンを押す人、絞首された死刑囚の死体の後始末をする人........死刑執行に当って手を借りる数多の人たちの、想像を絶する辛い気持ちに触れられる人が、どれだけ居るだろうか?死刑制度賛成を唱える方には、あくまで理知的にその必要性を説かれるなら、一向に問題ないとは思うし、そういった主張は私も尊重したいと思う。しかし例えば、死刑囚の命が消える場面をリアルにイメージすること無く、ただただ感情の赴くままに「あんなヤツはさっさと死刑にでもしてしまえ!」などと言ってしまうようなことがあるとすれば、それはちょっといかがなものだろうか、と思うのである。今回は何だか非常に重~いネタになってしまった。次回はもうちょっとお気楽なネタにしようっと。