一人一人が変わっていけば
もう随分前のハナシになるが、テレビ東京の『カンブリア宮殿』という番組に、地酒専門店として年商21億円を売り上げる、東京の『長谷川酒店』の社長さんが出演されていた。このことは当然ながら、業界内では結構話題になった。ただこの番組に対する受け止め方には、ちょっとした温度差があった。この番組を観て、「そうかあ、日本酒にはまだまだ大きな可能性が残されているんだなー」と実感した人も多かったが、その反面、「パイオニアとしては立派だけど、今さらマネしてもムダだよなー」とか、「東京という市場だからできることだ」といった声も、同業者からは聞こえてきた。これは言ってみれば、そういった商売に憧れは持ちつつも、現実的に「やっぱり日本酒は売れない」という思考に陥ってしまっていることの裏返しでないだろうか(あるいは単なるやっかみか)。もっとも酒販店主が日本酒に見切りをつけるかのような言動というのは、今に始まったことではない。確かに今は客観的な数字で見ても、日本酒はとっくに焼酎に抜かれているし、小売店にとっても焼酎の方がずっと売り易いだろうから、そういったネガティブな思考になるのも無理はないかもしれない。しかしながら、売り手の思考は知らず知らずのうちに、買い手に伝播するものだ。一軒一軒の酒屋が「日本酒は売れない」などという考えで凝り固まってしまうと、本当に日本人全体の意識が、「日本酒って売れてないんだな~」という方向に流れていってしう恐れがある。ただ考え方を変えれば、そういう現状だからこそ、あえて日本酒で仕掛ける面白味もあるのかもしれない。事実、地酒専門店として結構いい商売をしておられるところも少なくないようだ(もっとも軌道に乗るまでは大変だっただろうが)。しかしそれだけでは、一部の日本酒ファンの方々を満足させることは出来ても、より多くの人々に日本酒の魅力を再認識させるまでには、まだまだ足りない。売り手の一人一人がすべからく日本酒に対して、もっと前向きな気持ちになって欲しいのである。お得意先から「今、日本酒って売れてないでしょ」と言われても、「ええ、そうなんですよ~」と同調するのではなく、「いや、やりようによってはまだまだ売れる商品ですよ」と、啓蒙するくらいの意識を持っていたいと思う。もちろんそのためには、メーカーが良いものを造る、粗悪なものをことごとく排除する、そういったことが不可欠なのは言うまでもないことだが。