ある会社の話
とある工業製品のメーカーでの話である。ここはとかく製品の品質に関しては定評がある。しかしそれに飽き足らない社長は、より高い品質を求めるべく、技術部長兼工場長として、外部から新しい人材を招聘した。そしてこの技術部長兼工場長は社長の期待に応え、その会社の製品を、どこの追随をも許さない国内最高品質にまで押し上げた。ところがここで問題が起こる。その会社の製品が売れなくなってきたのだ。営業部長が言うには、極度に品質にこだわるあまり、いわゆる“遊び”の部分がないがしろにされ、商品としては無味乾燥のモノになってしまった、ということだ。しかし技術部長兼工場長も負けてはいない。自分は品質向上を目的としてここへ来た、品質を最高級にすることが「売れる」ための一番の早道ではないか、と応酬した。社長は最初は、自分が呼んできた手前もあり、技術部長兼工場長の肩を持っていた。しかし営業部長から会社の経営状況を突きつけられ、遂にはその技術部長兼工場長をクビにしてしまった。誰が正しいのか、誰が間違っているのか、他に方法はなかったのか、それは一概には何とも言えないかもしれない。ただその会社の製品のユーザーが、その会社のどの部分を気に入って支持していたのか、そのあたりがスッポリ抜け落ちている気がしてならない。さて、これはどこの会社のことでしょう?