同調圧力
「アイス・バケツ・チャレンジ」なるものが流行っているらしい。どんなことかというと、「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病の認知度向上を目的とするチャリティー活動で、指名された者が24時間以内にバケツ一杯の氷水をかぶり、それを動画に収めネットにアップする、あるいはその代わりに100ドルの寄付をする、そしてそれを済ませた者は次の挑戦者として3名を指名するというものだ。元々は小さな運動だったのが、アメリカのセレブの間で広がり、そのうちに日本にも飛び火し、著名人が氷水をかぶる様がネットニュースで次々と報道されている。もっとも事ここに至っては、当初の理念が置き去りにされて、パフォーマンスだけがひとり歩きしているようにさえ思えるが、私が本当に憂いているのは、そんなことではない。このシステムで最も問題があるのは、次の挑戦者を指名するという「ゲーム性」だ。現実問題として、氷水をかぶる様が大々的にネット上で拡散され、次にもし自分が指名されたと考えていただきたい。あなたはこれを拒否できるだろうか?もし拒否したら、指名した人からは「何だよ~、俺がやったんだからお前もやれよ~」と迫られ、周りからは「空気を読めよ~」などと罵られる可能性大だ。つまりあなたは「やりたい!」という明確な意思がなくとも、やらされる羽目になる。それでもその場のノリを重視してやっちゃう、という人、それはそれでいいだろう。しかし今度はあなたが誰かを指名する番だ。あなたが指名した誰かが拒否したら、あなたは何と言う?そう、いつのまにかこれは「半強制的な圧力」として定着してしまうのだ。もちろん氷水をかぶるのが嫌なら、代わりに100ドルを寄付するという選択肢も、あるにはある。しかし所詮寄付なんてのはあくまでも自発的行為であって、半強制的にやるのならそれはもはやチャリティーではない。ましてや金額は100ドル、日本円でおよそ10,000円だ、そんな大金をポンと寄付できる人がこのご時世、どれほどいるものか。どちらにしてもこのシステムでは、好むと好まざるとにかかわらず、結果的に「やらされてしまう」ことになる、というのが一番問題だと思うのだ。そうさせてしまう力、これを「同調圧力」と言い換えても間違いは無いかと思う。実はこれが今の日本で、静かにはびこり始めていることに、多くの人は気が付いてないのではないだろうか。最近の反中・嫌韓の動きを見ていても感じるのだが、これに与しない奴は非国民だ、みたいな空気を感じる。おそらく彼らに反対する意見を言えば、ネット上で袋叩きに合うことだろう。だからそういう人たちは、どうしても黙ってしまう。「言いたいことが言えない」状況は、世の中を必ず変な方向へ導いてしまう。だから私たちは、「いやだ!」と思うことを何の制約もなしに「いやだ!」と言える社会にしていかないといけない。そういった理念の足を引っ張りかねないのが、この「アイス・バケツ・チャレンジ」だ。