空気を変えていかなければ
来年度のNHK大河ドラマ「麒麟がくる」の、初回放映が2週間遅れることになった。理由は言わずと知れた、沢尻エリカ降板の余波だ。楽しみにしていたので、非常に残念だ。違法薬物を使っていたことについては、さすがに弁解の余地は無い。降板も当然の措置だ。やむを得ない。しかし私は、すでに撮ってしまった分は予定通り沢尻出演で流すべきだったと思う。代役は川口春奈に決まった。ただ初回分から撮り直しせざるを得ないので、スケジュール的には限界を通り越している。もちろんスタッフにはかなりの負担がかかっている。そうまでして、すでに撮り終えていた分までお蔵入りにさせる必要があるのか?それだけの代償を負っても、どうしても沢尻を画面に出したくないのか?これが民放ならスポンサーの存在があるので、そういう措置もやむを得ないだろう。でもこれはNHKなのだ。麻薬中毒者の演技など観たくない、という人もいるかもしれないが、私個人的には、沢尻が出ようが出まいが、とにかくスケジュール通りに観たい。どちらも同じく受信料を払っている者として、同列に扱ってほしいと思う。公共放送として守らなければいけないコンプライアンスというのもあるのだろう。しかしそのコンプライアンスも、果たして順当なものなのかどうか、いま一度根本から見つめ直してもいいのではないか?違法薬物で捕まった者を画面に出すことを許さない、と思う人の考え方も理解できる。おそらく観てて不快なんだろうと思う。あるいは自身の正義感がそれを許さないのかもしれない。もしくは芸能界が薬物に甘い、と思って頑なになっている人もいるかもしれない。しかしその一方で、そんなことどうでもいい、とにかくドラマが観たいんだ、という人もいる。そういう意見は尊重してもらえないのだろうか?何よりNHKのスタッフが気の毒だ。このドラマのためにどれだけの時間と労力を費やしてきたことか。それがひとりの女優の不祥事のためにパーになってしまう。女優は然るべき制裁を受けなきゃいけないが、NHKには何の咎もないのだ。これが人様に危害を及ぼす傷害事件なら、そうも言ってられないかもしれないが、それはそれ。薬物使用を甘く見るわけではないが、「犯罪」というよりは「病気」と捉える考え方もある。当人の処分は司法に任せ、観る側はもっと寛大になってもいいんじゃないか?今回のNHKの決定は、我々が思う以上に断腸の思いだったことだろう。ただそこにはいくらかの、「視聴者に対する忖度」もあったのではないかと思う。視聴者が空気を作っているのかもしれない。そうだとすればそれは、作る側と観る側双方にとって不幸なことだ。そしてそんな空気は、いずれ変えていかなければいけないものかもしれない。