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2007.06.13
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カテゴリ:カテゴリ未分類
 私は体力も気力も乏しいので長尺なものを読むのは苦手である。だから詩を読む事を愛好している。良い詩は私を生きとし生けるものものへの慈しみの感情に誘ってくれる。言い換えればさまざまな形での愛の表出である。
 
 他の方のプロフィールなんか見て『詩が好き』なんて書いてあるとつい反応してしまう。私が少年期から青年期に書いた詩など(たいしたものじゃない)を棚上げして言いいます。
 この趣味『詩を書く事』なんていう方達の詩のようなものが全てではないが、実に良くないのです。口語自由詩は制約がないため、書き散らし放題って言う気がします。その点、定型詩の俳句や短歌を作るアマチュアの人の作品の方が水準が高いと思います。

 それでは口語自由詩(いっぱんに詩と言われている)のどういう作品が良い詩なのか?

 朝日新聞で大岡信(まこと)さんが『折々のうた』という連載をしていましたが
ここにミャーボー版『折々のうた』ということで有名無名を問わず『月に一つ二つ』私が良いと思う詩を紹介させて頂き、不祥ミャーボーがコメントなどを語らせて頂きます。批評などというおこがましいことをしようとしているのではありません。どういうふうに詩とであったか?どこに魅力を感じたのか?などの雑感を
記します。

第一回は「てつがくのライオン」です。

てつがくのライオン / 工藤直子

ライオンは「てつがく」が気に入っている。
かたつむりが、ライオンというのは獣の王で
哲学的な様子をしているものだと教えてくれたからだ。
きょうライオンは「てつがくてき」になろうと思った。
哲学というのは座り方から工夫した方がよいと思われるので、
尾を右にまるめて腹ばいに座り、
前肢(まえあし)を重ねてそろえた。
首をのばし、右斜め上をむいた。
尾のまるめ具合からして、その方がよい。
尾が右で顔が左をむいたら、でれりとしてしまう。
ライオンが顔をむけた先に、草原が続き木が一本はえていた。
ライオンは、その木の梢を見つめた。
梢の葉は風に吹かれてゆれた。
ライオンのたてがみも、ときどきゆれた。
(だれか来てくれるといいな。「なにしてるの?」と聞いたら
「てつがくしてるの」って答えるんだ)
ライオンは、横目で、
だれか来るのを見張りながらじっとしていたがだれもこなかった。
日が暮れた。ライオンは肩がこってお腹がすいた。
(てつがくは肩がこるな。お腹がすくと、てつがくはだめだな)
きょうは「てつがく」はおわりにして、
かたつむりのところへ行こうと思った。
「やあ、かたつむり。ぼくはきょう、てつがくだった」
「やあ、ライオン。それはよかった。で、どんなだった?」
「うん、こんなだった」
ライオンは、てつがくをやった時の様子をしてみせた。
さっきと同じように首をのばして右斜め上を見ると、
そこには夕焼けの空があった。
「ああ、なんていいのだろう。
ライオン、あんたの哲学は、とても美しくてとても立派」
「そう?・・・とても・・・何だって?もういちど云ってくれない?」
「うん、とても美しくて、とても立派」
「そう、ぼくのてつがくは、とても美しくてとても立派なの?
ありがとうかたつむり」
ライオンは肩こりもお腹すきもわすれて、
じっとてつがくになっていた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 これは私の大好きなフォークシンガー友部正人さんの日記を読んでいて出会った詩です。つい最近まで工藤直子さんのこともてつがくのライオンも知りませんでした。
いい詩に出会うと世界が一変したような気持ちになります。この詩を読んだとき自分が何か新しい世界を獲得したような気持ちになれました。
 もしボクが詩を書くとしたらこんなふうに書けたらいいのになあ!と思いました。
 ここでは百獣の王のライオンもちょっと愚かしく可愛く描かれています。
 たとえばボクもミクシーなんかに日記を発表して誰もコメントなんか書いてくれないと(てつがくは肩がこるな。お腹がすくと、てつがくはだめだな)なんて
思ってしまうし、ほんの少ない方に誉めてくださったるするとまた(じっとてつがくになっていた)というふうになります。全くライオンは自分自身の恥ずかしさが表現されているようで、身につまされます。
 小さな事柄一つとってみても人間は周囲の人に支えられて生きているのだとつくづく思います。てつがくのライオンは微小なかたつむりに支えられていたのです。
 こういう詩は『寓意的な詩』といっていいと思います。寓意的な詩は解釈の幅が広いと思います。読む人が自由に自分に引き寄せて解釈すればいいと思います。
 さてボクは「もしボクが詩を書くとしたらこんなふうに書けたらいいのになあ!」と書きました。一見さりげなくて、これぐらいなら書けそうに思われるでしょうが、作者は言葉を彫琢を重ねて、灰汁を取りきった透明な上澄みだけが残った部分を発表していると思います。優しい言葉でとても難しいことを表現できる工藤直子という詩人は言葉の洗練度でもとても高いところに到達していると思います。
やたら難しい言葉を使う割にはたいしたことを書いていないアマチィア詩人の方たちにとって言葉の使い方という点でも、この詩は道標になる思います。
 
工藤さんはこの詩を書いたときはアマチィアの詩人で、この詩は最初自費出版で出版されたそうです。現在はあのボクも大好きな『百万回生きた猫』の佐野洋子さんとコラボレーションで「てつがくのライオン」は出版されています。

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

最後にもう一つ工藤直子さんの詩を紹介して終わります。

『あいたくて』


 だれかに あいたくて
 なにかに あいたくて
 生まれてきた―
 そんな気がするのだけれど

 それが だれなのか なんなのか
 あえるのは いつなのか―

 おつかいの とちゅうで
 迷ってしまった子どもみたい
 とほうに くれている

 それでも 手のなかに
 みえないことづけを
 にぎりしめているような気がするから
 それを手わたさなくちゃ
 だから

 あいたくて





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Last updated  2007.06.14 01:10:53
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