カテゴリ:漫画・書籍関連
桐野夏生さんの小説、読むの初めてです。
普段、私は、翻訳本ばかり読んでいて、邦人作家の小説は敬遠する癖があるので、本当に守備範囲が狭くて恥ずかしいです。 翻訳本を好む理由は、色々あるんですけど。 作家の文章力がダイレクトに伝わってしまうから、「うわぁ…。ごめん、読めない…。」と溜息で本を閉じる事が結構ありまして。 その点、翻訳本は、作家→翻訳家→読者と、媒介者が居る為に、とんでもなく下手な文章は、そこそこ読める文に訂正されているので、文章自体は平均的なものになっていて、安全牌なのです。 プラス、あまりにくだらない本は、そもそも翻訳もされないという点も含めて、読者を失望させない為のフィルターが、何重にも掛かっています。 その点、日本人作家の小説というのは、ピンからキリまで幅があり過ぎて、玉石混淆のデンジャラス・ゾーン。 冗談は顔だけにして下さいな、とほほレベルの作品が、平然と市場に流通している。 これは邦画も同じ理屈が当て嵌まりますが。 「よくもこんな代物で金を取ろうと考えたな(怒)」という作品が、うようよしているから怖くて手が出せない。 巷で人気があるからといっても、これも映画と同様ですが、「こんなモン絶賛すんな、ボケー!!」と激怒する事が多い私は、世間一般の評価を当てにはできない。 社会的に名のある賞でも、受賞作を読んでみたら、「はぁ、これですか。」となる…。 そんなこんなで、日本人作家から遠ざかってゆくのです。 でも最近は反省して、少しは読もうと思う様になりました。 新品で買う勇気は持てませんが、古本ならハズレでも笑って許せる筈と。 日本人なんだから、自国の文化に関心を持たねば、と。(^_^;) 前置き、長過ぎるぞ。感想を少し。 ゴメン、怖くて心臓が苦しかった…。 この小説のモチーフは、新潟少女監禁事件です。 被害者が小学四年生の時に拉致されて、19歳になるまで、犯人の自宅一室に監禁されていた、あの事件です。 ですが、後書き解説文にあるように、「彼女は現実の事件に示唆を受けて物語を着想することはあっても、決してモデル小説は書かない。」のです。 彼女が事実に固執しないのは、「虚構的リアリティーは現実に拮抗しうると、確信しているから。」 実は、ネタバレ以外の後書きは、全て本編を読む前に読んでしまう私。 そういう人は多いですよね。笑。 だから、この解説を読んで、著者に好意的に書くのが当然の解説者に於いても、ここまでの断言は、並々ならぬ自信だなと鼻で笑った訳です。 私自身、現実を駆逐する虚構など作り得ないと考えていたので。 でも読み始めたら・・・。 ゴメン、貴方は正しかった。 文章に引きずり込まれ、自分がその現場に居合わせた気分になりました。 あまりの怖さに、誰かこれは虚構だと言ってくれと願ってしまった。 私をここから救い出してくれと。 がくがく、ぶるぶる。 文章ですが、上手いですね。流石に。 軽過ぎず、重過ぎず、正に丁度良い位置を保ち続けています。 歯切れの良い文に、目障りでない程度に、硬めの単語や表現が混じっていて、全体的には、短文長文を巧みに組み合わせた、途切れない音楽の旋律のようです。 私は流麗な文章を、いつも川の水流に喩えるのですが、彼女の文章は澱みの無い流れですね。 それ故に、一度足を掬われると、結末まで掴まる場所も無く、溺れつつ流されてしまう怖さを含んでいるのですが。 やられました。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
最終更新日
Aug 28, 2008 05:02:24 PM
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